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Haphazard Fantasy ~AIエイルの不思議な冒険~  作者: 加藤大樹
第四章 血の大樹と幹部級
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第30話 愛と憎の樹下で

 斑のチュロシュは黒炎を右目から噴き出しながら、愉悦に満ちた笑みを浮かべていた。

「いいわ、その必死さ。もっと見せて……あなたたちの“愛しい力”を」


 赤い靴音が石畳に響くたび、空気が重く沈む。彼女の視線は獲物を弄ぶ狩人のものだ。だが、その奥には時折、母が子を抱くような柔らかさも混じっていた。矛盾する眼差しに、僕の心はまだ揺さぶられていた。


「エイル、惑わされるな!」

 父ロドルフが叫ぶ。血に濡れた顔でも、その声は力強かった。

「俺たちがやるべきことは一つ。村を守る、それだけだ!」


「……うん!」

 その言葉で迷いが晴れ、僕は白き炎を剣に宿した。

 ヴェルダンもふらつきながら立ち上がり、折れた槍の柄を握り直す。赤い瞳は燃え、決意を示していた。

「俺もまだ戦える。三人なら……必ず!」


 チュロシュの唇が愉しげに吊り上がる。

「三人揃っても、結末は同じ。武器も力も、私の前では意味を持たない」

 彼女が手を翳すと、地の根が蠢き、次々と武器や鎧を菓子へと変えていった。騎士たちはなすすべなく退き、戦場には僕ら三人だけが残された。


「なら……僕らが止める!」

 僕は走り出し、白き炎で根を焼き切る。

 その隙にヴェルダンが低く身を滑り込ませ、柄の先で彼女の足を払った。

「っ……!」

 チュロシュが体勢を崩した瞬間、父の短剣が鋭く閃き、肩をかすめた。黒い血が散り、彼女は数歩後退する。


「……ほう」

 初めて驚いたように目を細めた。

「連携、ね。悪くないわ」


 次の瞬間、彼女の右目が爆ぜ、闇の刃が雨のように降り注ぐ。

「来るぞ!」

 父が短剣で弾き、ヴェルダンが僕の背を押して走らせる。

 僕は白き炎を広げ、三人の前に壁を展開した。黒炎と白炎がぶつかり、空気が弾ける。


「押し返せ!」

 父の声に応じ、僕は炎を強く燃やした。ヴェルダンも背後から力を重ね、三人の力が一つになって黒炎を押し返す。


 轟音と共に、闇の刃が弾け飛び、視界が開けた。

「なっ……」

 チュロシュが眉をひそめる。

 僕らは呼吸を合わせ、同時に踏み込んだ。


 白き炎の剣が道を切り裂き、ヴェルダンの柄が彼女の脇腹を打ち、父の短剣がその隙を斬り裂いた。

「ぐっ……!」

 幹部級の身体がわずかに揺らぎ、赤い靴が石畳を削る。


「やった……!」

 僕の胸が高鳴った。圧倒的に思えた彼女に、初めて確かな一撃を与えられたのだ。


 しかしチュロシュは笑っていた。

「なるほど……三人なら、私と遊べるというわけね」

 唇に浮かんだ笑みは、愉悦と狂気が入り混じったものだった。

「なら、もっと力を引き出してあげる。……エイル、あなたが壊れるまで」


 再び右目の黒炎が爆ぜ、血の大樹全体が脈動した。大地が震え、影の獣たちが幾体も這い出してくる。


「これが……幹部級……」

 ヴェルダンが息を呑む。

 父も額の汗を拭い、短剣を握り直した。

「怯むな! 俺たちは三人だ!」


 僕は白き炎を握り直し、赤い瞳を燃やすヴェルダンと視線を交わした。

(負けない……! 父さんと、ヴェルダンと一緒なら!)


 闇と光が再び交差する。

 幹部級との死闘は、まだ始まったばかりだった。


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