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Haphazard Fantasy ~AIエイルの不思議な冒険~  作者: 加藤大樹
第四章 血の大樹と幹部級
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第28話 矛盾する眼差し

 黒炎が奔流となって押し寄せ、僕は咄嗟に白き炎を剣へ纏わせた。

「はあああっ!」

 火と火がぶつかり合い、耳をつんざく轟音が広場に響く。だが力の差は歴然だった。僕の炎は押し返され、足元の石畳が砕けていく。


「エイル!」

 ヴェルダンが立ち上がり、槍の折れた柄を構えて飛び込んできた。全身の魔力を腕に巡らせ、必死に突きを繰り出す。

「邪魔」

 チュロシュの冷ややかな声と共に、右目の炎が閃く。槍の柄すらも瞬く間に菓子と化し、ヴェルダンの手の中で砕け散った。

「ぐっ……!」

 次の瞬間、彼女の踵が腹部を撃ち抜き、ヴェルダンは血を吐きながら地に転がった。


「ヴェルダン!」

 僕は叫ぶが、返事はない。ただ彼の赤い瞳が微かに揺らめいているだけだった。


 父ロドルフが割って入り、短剣で斬りかかる。

「はあっ!」

 幹部級と呼ばれる存在に臆することなく、鋭い剣閃を幾度も浴びせる。

 だがチュロシュは片手で炎を払い、赤い靴で剣筋を踏み砕く。衝撃で父の腕が痺れ、地に血が滴った。

「無駄な抵抗はやめなさい。あなたでは私に届かない」

 冷酷な言葉に、父の顔が苦悶で歪む。


(父さんまで……!)

 胸が裂けそうだった。剣を握る手に汗が滲む。僕は立ち上がり、全身に白き炎を巡らせた。

「僕が……止める!」


 駆け出す僕に、チュロシュの瞳が絡みついた。

 だが今度は冷酷さの中に、どこか温もりが宿っていた。

「エイル……あなたは違う。大丈夫よ、怖がらなくてもいい。私が守ってあげる」


「え……?」

 思わず足が止まった。敵のはずなのに、その声は母の腕に抱かれるような優しさを帯びていた。

 チュロシュは黒炎を抑え、歩み寄る。その表情は確かに母のような慈愛を湛えていた。


「なにを……言って……」

 困惑する僕に、彼女はそっと手を伸ばす。

「あなたは戦わなくていい。白き炎も黒炎も、どちらも背負う必要はない。……私が全部引き受けるから」


「……!」

 耳に響くその言葉は甘美で、心を溶かしそうだった。

 だが背後で呻く声がした。

「……エイル……惑わされるな……!」

 血を吐きながら、ヴェルダンが必死に僕を呼んでいた。


「ヴェルダン……!」

 その声で我に返る。目の前の少女の手が、ほんの一瞬だけ鋭い爪に見えた。優しさの裏に潜む冷酷さが、再び全身を凍らせる。


「……違う……僕は戦う!」

 僕は白き炎を一気に燃やし、チュロシュの手を払った。


 彼女の表情が変わる。慈愛の笑みは消え、再び幹部級の冷徹な貌となった。

「そう……選んだのね」

 冷酷な声が闇に響き、右目の黒炎が爆ぜた。


 父が必死に割って入り、ヴェルダンも血に濡れた体で立ち上がる。

「エイル……一緒に!」

 僕は頷き、剣を構えた。


 矛盾する眼差しを持つ魔女――斑のチュロシュ。

 冷酷さと母性が交錯する戦いの幕は、まだ終わらない。


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