第26話 斑のチュロシュ
血の大樹を背に、斑色の髪を揺らす少女――斑のチュロシュが立っていた。右目からは黒い炎が静かに溢れ、その瞳が僕を射抜く。
「エイル……怯えなくてもいいわ。あなたは私が守ってあげる」
甘く響く声に、心臓が跳ねる。敵なのに、母の腕に抱かれるような温もりが滲んでいた。
「惑わされるな!」
父ロドルフの怒声が響く。
剣を握る彼の背中は揺るぎなく、僕は胸を叩いて気を引き締めた。
「……僕は戦う。父さんと、ヴェルダンと一緒に!」
チュロシュは小さく笑みを深め、手を振った。
瞬間、騎士たちの剣や盾が次々と菓子へ変わって崩れ落ちた。
「武器を持つ人は、甘くて脆いわね」
彼女はくすくす笑いながら、赤い靴で石畳を踏み鳴らした。
「っ!」
ヴェルダンが槍を突き込む。赤い瞳が閃き、穂先は正確に彼女の胸を狙った。
だがチュロシュは踊るように身をひねり、右目の炎を放つ。
黒い火線が弾丸のように迸り、槍を弾いた。
「ヴェルダン!」
僕は剣を振り抜き、白き炎を展開して黒炎を相殺する。火花が散り、空気が焼ける。
「さすがね……エイル」
チュロシュの声は柔らかいのに、次の瞬間には足先が閃いていた。
赤い靴の踵が石畳を砕き、父の胸を狙って迫る。
「甘い!」
ロドルフの剣が唸り、蹴りを受け止めた。重い衝撃で二人の体が軋む。
「エイル、ヴェルダン! 連携しろ!」
「はい!」
「了解!」
三人同時に駆け出した。
僕は白き炎で道を切り開き、ヴェルダンがその隙を槍で突く。ロドルフが最後に剣で押し込む。
連撃は鮮やかに決まる――はずだった。
「……ふふ」
チュロシュの右目の炎が爆ぜ、僕らの武器を一瞬菓子に変えた。剣は白い砂糖菓子に、槍は細長いキャンディに。
「なっ……!」
手応えが消え、僕らの武器は砕け散った。
「武器に頼る子たち……そんなの、私の前では通じない」
チュロシュの声は冷酷に変わり、踊るように回し蹴りを放つ。
父が腕で受け、僕とヴェルダンは横へ転がって回避した。
立ち上がり、僕は息を荒げながら叫ぶ。
「……だったら、武器に頼らない! 僕は、僕の炎で戦う!」
白き炎が再び剣の欠片を包み、刃の形を描き出す。
ヴェルダンも赤い瞳を燃やし、素手にまで魔力を巡らせた。
「いい子たちね……その光を、もっと見せて」
チュロシュの微笑は優しいのに、右目の炎は冷酷だった。
父、ヴェルダン、そして僕――幹部級との本格的な死闘が始まった。




