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Haphazard Fantasy ~AIエイルの不思議な冒険~  作者: 加藤大樹
第三章 愛の魔女の試練
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第20話 魔女の影

「ヴェルダン……大丈夫?」

 僕は親友の肩にそっと手を置いた。

 黒騎士が霧へと崩れ落ちて消えてから、広場には重たい沈黙だけが広がっている。


「……ああ」

 ヴェルダンは槍を杖にして膝をついていた。赤い瞳は潤み、涙を必死にこらえている。

「父さんは……最後に俺を認めてくれた。だから……俺は守る騎士として生きる」


 その言葉に胸が熱くなった。

 僕は剣を握り直し、彼に誓うように頷く。

「一緒にだ。僕も隣で戦う」


 互いの決意を確かめ合う一瞬。

 でも、その安堵はすぐに打ち破られる。


「ふふ……なんて甘くて愛しい光景かしら」


 冷ややかな声が広場に響き、背筋を凍らせる。

 赤い靴音が瓦礫を踏みしめ、夜気を震わせた。


「……!」

 僕は即座に剣を構えた。白き炎が刃を包み、闇を照らす。

 現れたのは、黒いワンピースに赤いハイヒールを履いた幼い少女――愛の魔女グックルガム。

 大きな黒いとんがり帽子と鳶色の瞳。子どものような姿なのに、不吉さが漂っていた。


「あなたたちの決意も、涙も、全部……とても愛しいわ」

 グックルガムはうっとりと息を吐き、にやりと笑った。

「でもね、愛は壊れるものよ。私が証明してあげる」


「黙れ!」

 ヴェルダンが怒鳴り、槍を構える。疲弊しきっているはずなのに、その赤い瞳にはまだ強い意志が宿っていた。


 グックルガムは首を傾げ、甘やかすように囁く。

「ねえ、ヴェルダン。お父様の最後の言葉……“守れ”だったわね」


 ヴェルダンの瞳が揺れる。

「……!」


「父に命じられて守るあなたは、結局父の影から抜け出せていない」

 鳶色の瞳が妖しく光る。

「あなたの“守る”は幻。幻ほど脆いものはないのよ」


「違う……俺は……!」

 ヴェルダンの声は震えていた。


 その隙を狙うように、濃い霧が広場を覆った。

 甘い香りが漂い、頭がぼやける。


「……母さん?」

 聞こえるはずのない声が耳を打つ。

「エイル……」

 胸の奥を抉るようなその声に、足が勝手に前へ出た。


「くっ……!」

 思わず膝が崩れそうになる。だが、剣先の白き炎が揺らぎ、僕を現実へと引き戻した。

(これは幻だ……惑わされるな!)


「エイル!」

 ヴェルダンの叫びが飛ぶ。

「こいつの幻に呑まれるな!」


「分かってる!」

 僕は剣を強く握りしめ、白き炎を燃やした。霧が焼かれ、母の声は遠ざかる。


 グックルガムは舌打ちし、鳶色の瞳を細めた。

「やっぱり、あなたたちの愛は壊しがいがあるわ」


 赤い靴音が再び響き、霧はさらに濃く渦を巻いた。

 黒騎士を越えた直後、僕たちを待っていたのは――愛の魔女が仕掛ける新たな試練だった。


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