第19話 赤い瞳の継承
広場に響くのは剣と槍がぶつかり合う轟音。
僕は剣を構えたまま立っていた。けれど踏み出すことはできなかった。
(これは……ヴェルダンの戦いだ)
彼自身がそう言った。父という壁を越えるのは、自分でなければならない、と。
だから僕は、ただその背中を見守ることしかできない。
「はぁああっ!」
ヴェルダンが槍を突き出し、黒騎士の剣を弾く。
けれど反動で腕が裂け、鮮血が飛び散った。
「ぐっ……!」
彼の膝が沈みかける。
黒騎士は容赦なく剣を振り下ろし、その一撃で地面が大きく裂けた。
「ヴェルダン……!」
叫びそうになる。
けれど、僕の声に彼は首を振った。振り返らずに、必死に前を睨み続けていた。
「俺は……俺の意志で戦う!」
ヴェルダンの赤い瞳が強く燃えた。
「父さんの血じゃない! この瞳が何であろうと、俺は俺の道を選ぶ!」
その叫びに応じるように、黒騎士の剣が正面から振り抜かれる。
殺意と重みを宿した一撃。
だがヴェルダンは退かず、槍を渾身の力で突き出した。
火花が散り、剣と槍が噛み合う。
押し込まれる――そう思った瞬間、ヴェルダンが声を張り上げた。
「俺は守る! エイルも、村も、未来も――全部、俺の力で守る!」
その叫びと共に、槍先が閃光を放った。
黒騎士の剣が軋み、弾かれる。
ヴェルダンは一歩踏み込み、全力の突きを胸に叩き込んだ。
「――ッ!」
黒騎士の巨体が揺らぎ、赤い瞳が大きく見開かれる。
その光が揺らぎ、苦悩と安堵が同時に浮かんでいた。
「父さん……!」
ヴェルダンの声が震える。
黒騎士は沈黙ののち、かすれた声を漏らした。
「……守れ……ヴェルダン……」
その瞬間、彼の身体は音もなく崩れ、闇の霧となって散っていった。
残されたのは、赤い瞳を宿すヴェルダンと、砕けた石畳だけ。
広場に静寂が訪れる。
ヴェルダンは槍を握り締めたまま膝をつき、荒い息を吐いていた。
僕は駆け寄りたい衝動を抑えながら、その背を見つめ続ける。
やがて彼はゆっくりと立ち上がった。
その赤い瞳には涙が浮かんでいたが、同時に決意の光も宿っていた。
「父さんは……最後に俺を認めてくれた」
ヴェルダンは震える声で呟く。
「なら俺は……守るために戦い抜く。それが……俺の生きる証だ」
僕は胸が熱くなり、剣を握り直した。
「ヴェルダン……僕はずっと隣にいる。一緒に戦おう」
赤い瞳と、僕の白き炎が交わる。
父を越えたその背中は、確かに一回り大きく見えた。




