第18話 越えるべき壁
黒騎士の剣が振り下ろされるたびに、大地が裂け、広場が軋んだ。
ヴェルダンは必死に槍で受け止めているが、その衝撃で足元の石畳が粉々に砕け散っていく。
「ぐっ……!」
彼の腕は震え、肩で荒く息をしていた。
それでも、赤い瞳は父の瞳から逸れることなくぶつかり続けていた。
「ヴェルダン!」
思わず叫んだ。
けれど彼は首を振り、振り返りもせず言葉を返す。
「口を出すな! これは……俺が越えなきゃならねぇ壁なんだ!」
その声は苦痛に満ちていた。けれど、それ以上に強い覚悟に染まっていた。
僕の胸が熱くなる。加勢したい。助けたい。
だけど、これはヴェルダンにしか果たせない戦いなのだ。
(僕が出たら、彼はきっと納得できない。父を越えることも、自分を証明することも……)
黒騎士の剣がうなりを上げ、ヴェルダンの槍を押し込む。
火花が散り、赤い瞳同士が交錯する。
「父さん!」
ヴェルダンが吠える。
「俺は守るために戦う! あんたみたいに力だけを振るう騎士にはならない!」
黒騎士の赤い瞳がわずかに揺らいだ。
だがすぐに剣が振り上げられ、轟音と共に叩きつけられる。
ヴェルダンの身体が吹き飛び、石畳に叩きつけられた。
「――ヴェルダン!」
僕は駆け寄りそうになったが、足を止めた。
彼が望んだのは、父と正面から向き合うこと。
僕が介入してはいけない。
ヴェルダンは血を吐きながらも、ゆっくりと立ち上がった。
震える足で、それでも倒れまいと必死に地を踏みしめる。
「俺は……まだだ……」
その姿に、僕はただ剣を握りしめ、祈るように見守るしかなかった。
黒騎士が静かに剣を構える。
その刃には容赦のない力と、言葉にできない重みが宿っていた。
ヴェルダンの槍が閃き、再びぶつかり合う。
父と子の力が交錯し、火花が夜空に散る。
「俺は……負けない! 父さんを越えるまで倒れられない!」
赤い瞳が燃え上がり、槍先が剣を押し返す。
広場を照らす閃光の中、ヴェルダンの背中が大きく見えた。
(ヴェルダン……! 越えろ……! 僕は信じている!)
父という絶対の壁に挑む彼を、僕はただ剣を握りしめ、胸の奥で叫びながら見つめていた。




