第17話 父と子の衝突
黒騎士の赤い瞳が、ヴェルダンを射抜いていた。
その視線は冷酷で、けれどただの敵意とは違う何かがあった。
僕は背筋に寒気を覚えながらも、隣に立つ親友の横顔を見つめる。
「ヴェルダン……」
声をかけようとしたが、彼はすでに前を見据えていた。
「父さん……」
槍を握る手が震えている。けれどその震えは恐怖ではなく、迷いから来るものだった。
「どうして……どうしてあんたが黒騎士なんだ!」
黒騎士は答えなかった。ただ、剣を構え直し、低い唸り声をあげる。
その声は獣の咆哮のようであり、人間の呻きのようでもあった。
次の瞬間、地面が弾ける。
黒騎士が踏み込み、剣を振り抜いた。
ヴェルダンは槍で受け止め、火花が散る。
「ぐっ……!」
押し込まれながらも、ヴェルダンは必死に踏みとどまった。
赤い瞳と赤い瞳が重なり、まるで鏡合わせのようだった。
「父さん!」
ヴェルダンが吠える。
「俺はあんたを越える! この槍で証明してみせる!」
僕も剣を構え、白き炎を灯した。
「ヴェルダン、一緒に!」
けれど彼は首を横に振った。
「これは……俺の戦いだ! エイル、下がってろ!」
「でも――」
「頼む!」
赤い瞳が僕を真っ直ぐに見据える。そこには迷いのない決意が宿っていた。
僕は息を呑み、剣を下ろした。
「……分かった。でも、倒れるな。絶対にだ」
「約束する」
ヴェルダンが短く答え、再び槍を構えた。
黒騎士が静かに剣を掲げる。
その刃先には殺意と共に、言葉にならない重みが宿っていた。
まるで「父親としての試し」を与えているかのように。
轟音と共に剣と槍がぶつかり合う。
火花が広場を照らし、周囲の空気が震えた。
ヴェルダンは何度も押し戻され、石畳に膝をつきそうになる。
それでも立ち上がり、槍を突き出した。
「俺は……守るために戦う!」
その叫びと共に、槍が閃いた。
黒騎士の仮面の残骸が砕け散り、さらに素顔が露わになる。
赤い瞳の奥に、一瞬だけ――確かに人の苦悩が揺れた。
「……父さん……!」
ヴェルダンが息を呑む。
黒騎士は沈黙したまま剣を振り下ろす。
その一撃は容赦なく、父と子の絆さえ断ち切るかのように鋭かった。
僕は思わず剣を握り直す。
(ヴェルダン……耐えてくれ! 僕は、見捨てない!)
赤と白の光が交錯し、夜空を切り裂いた。
父と子の衝突は、もう誰にも止められなかった。




