第12話 黒騎士の影
村人たちは次々と幻から解放されていた。
僕の剣から広がった白き炎は、夜の霧を払い、みんなの心を少しずつ現実へと引き戻していた。
「夢を見ていたのか……」
「母さんが……そこに……」
まだ混乱の色は消えないけれど、その目に確かな光が戻っている。
「……面白い」
愛の魔女グックルガムが舌を舐め、瞳を細める。
「白き炎……器の子、あなたはますます私を惹きつけるわ」
彼女が赤い靴音を鳴らすと同時に、背後の闇が揺れた。
重い足音が再び地を踏みしめ、広場に冷たい影が差し込む。
――黒騎士。
「来たか……!」
ヴェルダンが槍を構える。
赤い瞳が炎に照らされ、鋭く光った。
黒騎士は無言で剣を掲げた。
その動作だけで、村の空気が張り詰める。
さっき戦った時よりも、さらに重い圧がのしかかってくる。
「ヴェルダン、危ない!」
僕は叫んだが、彼は首を振った。
「こいつは俺が相手する! エイル、お前は村人を守れ!」
言葉と同時に、黒騎士が一歩踏み込んだ。
剣と槍がぶつかり合い、轟音が夜空を裂いた。
衝撃で石畳が砕け、砂塵が舞う。
「ぐっ……!」
ヴェルダンが必死に槍で押し返す。
だけど、黒騎士の剣圧はあまりにも重い。
槍が軋み、彼の膝が沈む。
「ヴェルダン!」
僕は剣を握り、駆け出そうとした。
その瞬間、背後で村人の子どもが泣き声を上げた。
「助けて……!」
まだ幻の残滓に怯えて、動けずにいる。
(僕は……どっちを守る? ヴェルダンか、村人か……!)
胸が締め付けられる。
右目から黒炎が滲み出し、力が暴れようとする。
だが、同時に白き炎が灯り、剣を優しく包んだ。
「両方守る……!」
僕は叫んで、剣を振るった。
白き炎が弧を描き、子どもを覆っていた幻を焼き払い、怯えを鎮める。
「大丈夫だ、もう怖くない!」
子どもを抱きしめる母親の姿を確認して、僕は再び前を見据えた。
ヴェルダンは黒騎士と刃を交えている。
赤い瞳と赤い瞳がぶつかり合い、まるで血で繋がれた因縁を示すようだった。
「守るために戦う……!」
ヴェルダンの声が広場に響いた。
黒騎士は低く答える。
「守ることは弱さ。弱さは必ず滅びる」
剣が振り下ろされ、ヴェルダンが弾き飛ばされる。
土煙の向こうで、彼は苦しそうに立ち上がった。
僕は一歩踏み出した。
「弱さじゃない! 守ることは……力になるんだ!」
白き炎が剣を燃やし、夜空に清らかな光を放つ。
黒炎と拮抗するその炎は、僕自身の意志を象徴していた。
「行くぞ、ヴェルダン!」
「おう!」
僕たちは同時に駆け出した。
黒騎士の影に挑むために――。




