第10話 黒騎士との交戦
村の広場は混乱の渦だった。
黒騎士の剣が振るわれるたびに地面が裂け、火の粉が舞い上がる。
すぐ隣では、愛の魔女グックルガムが笑い声を響かせ、霧に囚われた村人たちが泣き叫んでいた。
(ヴェルダン……絶対に負けるな!)
黒騎士が仮面の奥から冷たい視線をこちらに投げかける。
「小僧が一人、槍を振るか」
その声は岩を砕くように重く、低かった。
「小僧じゃねぇ!」
ヴェルダンは赤い瞳を燃やし、真っ直ぐに睨み返す。
「俺は……スタール家の息子だ!」
槍の突きが閃き、夜を裂いた。
黒騎士は剣で受け止め、火花が散る。
ヴェルダンの腕が痺れているのが、僕にも分かった。
それでも彼は一歩も退かない。
「ふむ……力は悪くない」
黒騎士が呟く。
「だが、甘い」
剣が横薙ぎに走った。
ヴェルダンは槍を交差させて受け止めるが、石畳が砕け、膝が沈む。
「ぐっ……!」
それでも立ち上がるその姿に、僕は胸が熱くなった。
(ヴェルダン……!)
そのとき、黒騎士の仮面の隙間から赤い光が覗いた。
燃えるような赤い瞳――それは、ヴェルダンと同じ色だった。
「……っ!」
ヴェルダンの表情が揺らぐ。
(同じ……赤……? ヴェルダンと、この黒騎士が……?)
黒騎士が低く笑った。
「その眼差し、誰かを守ろうとする意志……かつての自分を思い出すな」
次の瞬間、剣が突き下ろされる。
ヴェルダンは体を捻り、槍を薙ぎ上げた。刃と刃がぶつかり、火花が散る。
「俺は……守るために戦う!」
ヴェルダンの叫びに、僕は息を呑んだ。
黒騎士は剣を押し込みながら低く答える。
「守る? そんなものは弱さだ」
槍が軋み、ヴェルダンが押し潰されそうになる。
「ヴェルダン、踏ん張れ! 僕が後ろにいる!」
僕は必死に叫んだ。
「分かってる! だから俺は折れねぇ!」
ヴェルダンが吠える。
槍が閃き、黒騎士の仮面に亀裂が走った。
その奥で、再び赤い瞳が光る。
「……!」
ヴェルダンの背筋に冷たい衝撃が走るのを、僕は感じ取った。
黒騎士は一歩退き、剣を下ろす。
「……まだ早い。だが、いずれ分かる」
そう言い残し、霧の中へと姿を溶かしていった。
「待て!」
ヴェルダンが追おうとしたその時、魔女の笑い声が響く。
「ふふ……赤い瞳は血の証。ねぇヴェルダン、父を前にした気分はどう?」
「父……?」
ヴェルダンが震え、僕の方を振り返った。
僕は言葉を失った。
ヴェルダンの父親ダーグル・スタールは何年も前に行方不明になっている。
ただ剣を強く握りしめ、震える彼の背中を見つめることしかできなかった。




