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生ある叫びの回顧録

作者: 笹門 優

急に思いついた短編ネタ。

そう言う時の手というのは中々止まらずほぼ一気に書き上げた。

しかし、こういう作品は書いた本人もいまいちこれといったジャンルを付けづらいものですな。


 目出度い。今日は何て目出度い日だろうか!


 この目出度い日を何と言い表せるのだろう!? 何と言葉に出来るのだろう!?

 否否否、言葉に何て表せない。如何言い繕ったところでこの気持ちを表わし切れる筈もないよ!

 だがそれを言葉に表わしたい、残しておきたいと思うのは理解出来ても理解されても、何とも難儀な考えではあるかも知れない。まあ、現実的ではないだろうかな。

 ならば如何するか?

 諦めるか?

 言葉にしたらたった数行の思考とは言え、この感動を放っておいて良いのだろうか? ただ忘れてしまうのを待っているだけで良いのだろうか?

 否、そんな事は無いだろう。

 ならば、如何する?


 ………………………………。


 ……………………………………。


 …………………………………………。


 ………………………………………………。


 そうだ!

 日記を書こう! この感動の全てを言葉に表せなくとも、それを読みまた思い出せるように、少しでも多くの言葉を紡いでいこう!

 よし、決まりだ!

 いいぞいいぞ。

 今日は冴えているぞ、多分!


 ………………………………。


 ……………………………………。


 …………ん?

 あ……れ……?

 ボクは日記なんて書けないじゃないかっ!? 

 全然冴えてないぞ、今日のボク!?

 何せ此処には日記を書く為のノートも紙も、筆もペンも無いんだから!

 まあ、そもそも今のボクにはそれらを持つ為の手も、文字を確認する為の目も無いんだけどね! HAHAHAHA。

 足も無いし、うん、ボクはどうやって此処に来られたのかな?

 しかしあれだ。そんな前提条件を忘れてるなんて、全然冴えてないじゃないか、今日のボク! 大事な事なので2回言ったよ、ボケてないからね。


 取り敢えず、あれだ。

 書けるようになったらスムーズに書けるように、回顧録風にエピソードを紡いでいこう!

 えっ?

 そもそも忘れない為に日記を書くんだろうって?

 解ってないなあ。

 だらだらと過ごした日常は忘れやすくても、それらをこうして言葉に置き換えておけば、思い出しやすくなるって寸法だよ。


 えっ?

 そんなので覚えてられるのかって?

 知らないよ! 今はそれしか出来ないんだから仕方ないじゃ無いか!!

 と言うかキミは誰だい?

 ボクはひとり寂しく独白を続けていたと思ったんだけど?


 えっ!?

 同居人? この狭い空間に?

 ……そっかぁ、ここはボクのひとり部屋では無かったんだね。  

 ん? キミもひとりだと思ってた?

 そうかそうか、ってまだ他にいたりはしない……よね?


 ………………。


 うん、居ないようだ。

 ………………居ないよね?



 何はともあれ、この目出度い日を…………あれ? 今日は何日だろう?

 何月何日かも解らないけど、この目出度い日を初日…………まあ、1月1日でいいか。初日として記録を覚えていこう!

 記録を付けるんじゃ無いのか、って?

 だから道具が無いんだから仕方が無いじゃないか。

 日付だって覚えやすい日の方がいいだろう? 判明したら直せば良いんだから。


 えっ?

 結局何が目出度いのかって?

 何がってそりゃ……………………………………………………。


 ……………………………………。


 何だっけ?

 えっ?

 それで覚えていられるのかって?

 いいんだよ! 目出度い日とだけ覚えておけば!

 理由も解らず目出度いとだけ言われても覚えておける自信が無い、って?

 ………………………………………ふたりいれば何とかなるさ。HAHAHA。



 と言う訳で


 1月1日

 今日は目出度い日だ!

 理由は解らずとも目出度いのは解る!

 何? 解らないって?

 否、解る筈だ。

 此処に居るって事はキミだって同じ筈だろう?

 目出度いよ。

 目出度い筈なんだ。



 1月4日

 相も変わらず暖かな此処は、何故か安らいでいられる気がする。

 何も見えなくても、それは確かなんだと、そう思わせる。


 そう? って淡泊な反応だな、キミは。

 こうして微睡んでいるだけで緩やかに過ごせるなんて幸せだろう、きっと。



 1月7日

 何だろう?

 何か外側から触れられている気がする。ぷにぷにぷにぷに触れられている?

 そっちも?


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……



 1月13日

 今日もぷにぷにぷにぷに触られている。

 そう思っていたら何か冷たい……空気? が触れた気がした。

 余り気持ちのいいものじゃ無いそれは直ぐに感じられなくなったけど、何だったんだろう?

 キミも解らない? じゃあ、原因理由共に全く不明のまま。 解決しようも無い。


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……



 1月15日

 ふと気づいたら手があった。

 否、冗談なんかじゃ無くて、何か、手が、あるのが解る。

 あれ? 足もあるな。

 何時生えたんだろう?

 謎だ、全く以て謎だ。

 あ!

 何かに触った! 此れがキミだな!


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……



 2月2日

 うわっ!?

 何か今日は彼方此方からぷにぷになでなでされてる!?

 何だ何だ一体何があったんだ!?


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……

 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……

 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……

 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……



 3月13日

 今日は静かだ。

 何時も静かだって? まあ、そうなんだけど、何故か今日は静かだって思えるんだ。

 何時も静かだと思ってたけどボクは違っていたのか、って? そうじゃないよ。 何て言えばいいんだろう?

 何時もは五月蠅いのが解っていなかった、そんな気がするんだ。


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……



 3月14日

 えっ?

 昨日の言っていた事が解った気がするって?

 そうだよね。 うん、ボクは間違っていなかった。


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……



 4月20日

 今日も暗いって?

 否、何時も暗いよ? 暗いよね……?

 あれ?

 こんな会話を前にした様な気がするよ。


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……



 4月24日

 今日は少し明るい気がするよ。

 あれ?

 ボクは目が無かった気がするけど、何で明るいなんて気になってるんだろう?

 この前、キミが言っていたのはこれかあ……。


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……



 5月17日

 今日は何だかジッと見られてる気がするんだ。

 何だろう?

 この、コピー機で顔面を複写されてる様な妙な感じは…………?

 あれ?

 この感じ、前にも同じ事をされていた様な……?


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……


 5月25日

 最近、色々な音が聞こえてくるのが解る様になってきた気がする。 正確には前から聞こえてたけど、声や音楽の違いが解ってきた感じ。

 妙に音が響く気がするのはここが狭いからかなあ?

 否、ホントに狭い……。

 というかさ、何かボク達、抱き合ってない?

 此処は何でこんなに狭いんだろう?

 暖かいのはいいんだけどな。


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……



 6月29日

 今日は運動の日。

 運動と言っても飛んだり走ったりは出来ない。狭いからね。

 手脚を曲げ伸ばしたりバタバタさせたり、その程度。

 あいたっ!?

 何するんだよ!?

 えっ?

 狭いから仕方が無い? ボクの手も当たってた、って、ごめんごめん。

 でもホント、狭いや。

 そろそろ此処から引っ越しかな。

 そんな気がするんだ。


 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

 なでなでなでなでなでなでなでなで……



 7月1日

 今日は惨事の日。

 実際は違うんだけど、そう思ってしまった日。

 ボク達を包んでいた暖かいのが、頭の方へ流れていって、急に周りの壁が押し迫ってきたんだ。

 それはもう驚いたよ。驚愕した。驚天動地だ。大山鳴動だ。

 そしてボクはとても狭い場所へ追いやられた。

 身動ぎできない程狭い空間だ。

 今までの場所も狭かったけど、此処はもっと狭かった。

 でも、ここまで来てボクには漸く解ったんだ。理解した。

 もうすぐだ。

 もうすぐボクの、仕事が始まるんだ。

 ほら。

 ボクは頭上へ下がっていく。

 暖かいだけの世界は今日でお仕舞い。

 さよならをこの世界に告げて、辛くて厳しくて寒くて凍えそうな世界を歩いて行く。

 でも、きっとそれだけじゃない。うん、解っている。

 ほら。

 暖かかった世界よりずっと明るい景色が感じられる。

 色んな音が感じられる。

 さあ。

 お仕事だ。

 人生初の大仕事だ。

 感じる、空気。

 口の中の液体は吐き出し、準備はOK。


 さあさあさあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!


 せーの。


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!」


「お母さん、どうぞ見て下さい。元気な男の子ですよ」



 昔、何かで見た「前世の記憶を覚えている人は、幼い時ほどその記憶を保持している」みたいな眉唾なお話。

 なら胎児なら、前世の記憶は無くとも前世の常識をきっちり持っていてもいいよね、と急に思い至って書き上げたお話。

 という訳で「目出度い」のは自分の意識が芽生え、産まれる準備が出来はじめたから。

 ぷにぷになでなで~はお母さんとかお父さんとかが触ったり撫でたりしてるから、です。

 ちなみに双子ちゃんなのでこの後にもうひとり泣き出します。

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― 新着の感想 ―
ペットか、あるいは何らかの実験生物だろうか、と予想しつつ読み進めると…オチでほっこりしました。 最初の仕事は見事こなしましたね。 数々の困難が待ち受けるでしょうが、元気な人生を送って欲しいです。
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