1_8.
夜、公爵様に呼びだされた。
えっ、何!?
もしかしてし怒られる!?
クッキー焦がしちゃったから!?
公爵様のもとへ向かう。
公爵様は食事をしていた。
広い食堂に1人。なんだかさびしそうだ。
って、あれ?奥様はどうしたんだろ。
公爵様向かいの席を指して言う。
「先に食べはじめてしまい申しわけない。食べながらでいいから話を聞いてくれ」
「そういうわけにはいきません。奥様がいらっしゃるるのですから、私などと同席するのはおかしいです。いえ、いらっしゃらなかったとしてもおかしいです」
「...わかった。食べるのは後でいいから一旦座れ」
そこまで言われてはさらえない。
「さて、大切な話があるのだが。私はお前の、ラナの旦那だ。わかるか?」
「......はい?あなたが旦那様じゃないはずないじゃないですか!急にどうなさったのです?」
「いや、わかったのならいいんだが。とりあえず料理を食べたらどうだ。冷めたら味気なくなるだろう」
「温かい料理のおいしさには共感いたしますが...。ここで食べるのは...。部屋で食べてもよろしいでしょうか?」
「...わかった」
2人はそれぞれのさす"旦那"の意味合いが違うことに気がつかなかった。
公爵の方はラナが勘違いに気付いたものの恥ずかしくてごまかしたのだと考えたし、それ以上に夕食の誘いを断られたことがショックでまともに頭が回っていなかった。
ラナはラナでなんでそんなことを聞くのかとは思ったもののわざわざ聞き返すほどのことでもないと判断した。
ラナの勘違いは正されるどころか、公爵まで違う方向に勘違いしはじめた。
そして公爵がそれに気づかないまま使用人達に伝えたため、屋敷中の者が勘違いをするという悲劇がおきた。
もし公爵が人払いをしなかったら、せめてもう少し頭が働いていたら。
もしラナがもう少し察しがよかったら。
そんな勘違いはおきなかったはずである。
だが勘違いはおきたので、結婚式の準備は予定どおり進んでおり、ラナだけがそのことを知らない。
といってもそれにラナが気付くことはまずありえないので、部屋で食事をとりながらときおりくしゃみをし、うわさをされているのか、それとも風邪でもひいたのか、と首をかしげながら、1日を終えたのだった。