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「お嬢様、たいくつではございませんか?」
「えぇ、大丈夫よ。たしかに田畑は見なれているけれど、領民の服装や家の形などは我が領と違うから、とても興味深いわ。」
「それはよかったです。」
そこで会話は途絶えた。
今は王都にある公爵家のタウンハウスへ向かっている途中だ。
公爵家がよこしてくれた馬車はとても上等だ。ゆれが少ないから、本を読んでも酔わないし、ずっと座っていても平気なよう柔らかいクッションがしかれている。
3日間にわたるとはいえ、昼はレストランに寄り、夜は宿で寝泊りするというなんとも贅沢な仕様だから、とても快適だ。なんなら護衛までついているし。
自分はメイドとして働くのだからと専属の待女は全力で振り払い、もとい連れてこず、公爵家からの待女を用意するという申し出も丁重にお断りし、もとい誘いもつっぱね...あれ、反対か。
まあそんな感じで馬車に1人で座っているが、気をつかった御者さんが話しかけてくれるため、たいくつしない。
それになによりも、普段とは違う景色が見ていてあきないのだ。
降水量が多く米の栽培を中心に行う我が領とは違い、王都に近づけば近づくほど、麦や綿花、野菜など普段お目にかかれない作物が増えていくのだ。
特に、交通の便や他国からの襲撃へのそなえなどの観点から、王都は海の近くにあり、私ははじめて海を見ることができた。海なし領民としては感激の思いだ。
空の色をうつしたあの大きな海の先に色々な国があり、たくさんの人が暮していると思うとても心が躍る。
私があまりにも目を輝やかせていたからだろうか。御者さんは小さな港に馬車をとめて、海の近くまで連れていってくれた。
さすがにはしたないと思われるだろうから、砂浜の少し手前から眺めるだけだったが、薄着で黒い肌をさらし、真っ白い歯をのぞかせて豪快に笑う漁師たちはとても好感がもてる。
浅瀬で遊ぶ子供も、漁師についてまわって一生懸命仕事をする少年たちもとても明るい。
こんなにも幸せそうに笑っているのは、きっとこの国が平和だからだろう。
その平和のために公爵様が重要な役割を担っていると思うと、なぜか少しほこらしくて、王都へ行くのがとても楽しみになった。
次話からはラナちゃんの"らしさ"がより見えてくると思います。
お星さま、まってます。楽しみすぎて腕をぶつけました。