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踊り子

近場にあるそのホームセンターには結構出向く。店内に鳴り響く世代直撃の懐メロBGMを聴いているとついつい口ずさみそうになるのだが、もっと大胆にサビの部分に合わせて身体をクネらせ『不思議な踊り』をしている同じ世代っぽい女性を見かけた時には流石に吹き出してしまいそうになった。



確かに彼女はその瞬間完全に『油断』していた。奥まった場所にある電化製品のエリア付近の通路、基本的に人気ひとけの少ない場所だから他のお客の視線は無い筈だった。飼い猫のご飯のついでにブルーレイディスクのパックを購入しようとしていた一人を除いて。



<やば!!!>



本能がその場から立ち去った方が良いというアラームを鳴らしていたが運悪く間に合わず、何かを察知したらしいその女性はこちらを振り向いてしまった。


「…」


「…」



無言で見つめ合う。たっぷり10秒はあったろうか。



「あ、いや何でもないですよ」



誤魔化そうとした際のその表現があまり宜しくなかったらしい。怪訝そうにこちらを見たショートボブの女性は、



「見ちゃいましたか?」



とかなり真剣な表情で問い掛ける。その圧に耐えきれず潔く観念して「はい…」と答えた。



「そうですか…」



その声のトーンは残念がっているようでもあり、逆に何か納得しているような響きもあった。



<俺はこの後どうなるんだろう>



別に悪いことをしたわけではないのに何故か申し訳ない気持ちで「処遇」を待ち構えていたが意外だったのは彼女が、



「猫ちゃん飼ってるんですか?」



と買い物カゴの中身を確認しながら訊ねた事だ。



「ええまあ。二匹います」



「そうですか…種類は?」



「えっと…雑種です。保護猫なので」



「そうですか…いいですね」



そう言ったのち「では」とその場を立ち去る彼女。そこには恥じらいがあるんだろうなと容易に想像できたので自分もタイミングを見計らってレジの方に向うことにした。何事もなく帰宅して玄関で迎えてくれていた茶トラに向かって、


「ただいま!ごはん買ってきたぞ!」


と伝える(?)と「なーお」とどこか嬉しそうに返事した。キジトラの方は居間でごろ寝していた。



☆☆☆☆☆☆☆☆



二週間ほど経った休日。市内の公民館的な施設で猫を題材にしたアーティストによる展示があると知り、猫好きとしては外せないなと思い出かけてみることに。実際には施設内の割とこじんまりした区切られたスペース内での展示ではあったが、美大卒の猫が好きそうな淡い色合いの服装の男性が迎え入れてくれてなかなか良い雰囲気だった。彼が製作したという大小様々な木の板に描かれる猫の絵は、古典的なモチーフを取り入れつつも全体的にポップな感じに仕上がっていてかなり見応えがあった。最近の自分の好みに合う猫の『シルエット』を模様にしたグッズも販売されていたので迷わず購入。



そして会場を後にしようとしたところで入れ違いに一人の女性が。何故だか猛烈に見覚えのあるその人がホームセンターで出会った「踊る女性」出会ったことに少し戦慄を覚える。


「あ…」


「…」


完全に視線が合ってしまったのと少し狭い空間であった事が災いして、一瞬身動きが取れなくなる。


「猫好きなんですね」


無言だとマズいと思って出てきた言葉がそれ。


「そうですね。家の近くでしたもので」


なんだか知り合いでもないのに相手の情報に詳しくなっていってしまっている。気を利かせて「お知り合いですか?」と訊ねてくれたアーティストの方に、


「少し前に知り合ったばかりですが」


と答えるしかない空気。女性の方も空気を読んでくれたようで、


「貴方もその作品買ったんですか?」


と自然なカタチで会話が始まる。そうなったらなったですぐに立ち去るのも変な状況になってしまったので今一度彼女と展示された作品を眺めてみることに。「これは素晴らしいですね」とか「これ可愛い!」とか女性は思ったままを結構すぐに口にしてしまうタイプらしく、相槌を打っているうちに徐々にお互いタメ語になっていってしまった。彼女はそこで小さ目木の板に描かれたいかにも『王道』という感じの三毛猫の絵を購入する。そのまま一緒に会場を後にしてから女性が何か思うところがあるような表情をしていることに気付いた。


「どうなされましたか?」


その言葉でハッとした表情になった彼女は躊躇いがちにこう告げる。


「この後お時間あるようでしたら来てもらいたい場所があります」


「時間は大丈夫ですけどどこに行けばいいんですか?」


多分その時の自分にはホームセンターでの一件以来感じていた何らかの引け目があったのだと思う。何かの縁だと思うことにして彼女に着いてゆく事にしたが、向かっている場所は徒歩で5分くらいの場所にある「占いの館」という看板の出ている古びたビル。



「え、こんなところにこんな場所があったんですね…」


「『こんな場所』ですけど、一応わたしの『職場』です」



怒っているのではないようだったが中々凄みのある言葉で伝えられた。この辺りから色んな想像や妄想が頭の中を駆け巡ってゆく。



<やべーぞ。何がやべーか分からないが、俺はこの後どうなるんだろうか>



彼女に手招きされビルの中に入り階段で三階まで向かい、やはり『占いの館』と掲げてある部屋の前で立ち止まる。そしてバッグから鍵を出した彼女。少し薄暗い部屋の中には見たこともない不思議な紋様が描かれた絨毯は敷いてあったが、部屋の照明を付けてもらうと全体的に応接間みたいな場所で座り心地の良さそうなソファーが印象的な清潔感のある場所だった。女性はおもむろに上方を指差して、



「この間、照明の色合いを変えようと思ってホームセンターで買ってきたんです」



と言う。確かにライトが暖かい色合だからなのか全体的な印象が柔らかく感じられる。



「占い師さんだったんですね。びっくりです」



その言葉には返事をせずに先ほど購入したばかりの猫の絵を取り出して、



「この辺りにこの猫の絵を掛けたら良さそうじゃないですか?」



と謎の質問をする。ただお客さんの目になって見回してみると言われた通りだと感じたので「確かにいいですね」と素直に答えておいた。満足そうに頷く彼女ではあったが流石にこちらもずっと感じている困惑を抑えきれない。


「ここで一体何をするつもりなんですか?」



たまらず質問したときの声にはちょっと不安が現れてしまっていたと思う。女性は意図を汲んでくれたようで、



「では単刀直入に。お代は要りませんので、貴方の運勢を占わせてくれませんか?」



と大胆に答えた。お代は要らないと言っても占って欲しくない場合もあるけれど、まあ人生経験だと思えば悪くはないのかなと感じさせる空気はあった。「いいですよ」と了承すると、ソファーに座るようにと指示された。彼女はトランプ…ではなく恐らくはタロットのデッキを取り出し向かい側のソファーに腰掛け、間のテーブルにカードを並べてゆく。それから殆ど彼女の言うままに直感でカードを選んだりしながら占いの結果を静かに待った。途中、彼女が驚きの眼差しでカードの並びを見ていた時にはドキドキしたりしたが、間も無く彼女は冷静な語り口でカードの並びの『意味』を説明してくれた。



「この位置にある『星』のカード。占星術者を暗示している事が多いのですが、わたしも占星術を取り扱っていたりするんですよ。そして全体的に貴方の人生がこれから良い方向に進むという暗示になっています」



「あ、それは良かったです。悪い結果でなければ全然問題ないです」



ほっと胸を撫で下ろしていたら彼女がどこか困った表情でこちらを見ている事に気付く。



「何か問題でも?」



「いえ、わたしは『占い師』として仕事をしていますから、結果には自信を持っているわけです」


「はい」


「ただ自らを占う場合には、中々難しい問題が生じてきますので代わりに貴方を占ったのですが、ここまではっきり暗示があるとわたしとしても認めざるを得ません」


「え?何を認めないと行けないんですか?」


「プライベートな質問になりますが、伴侶はおりますでしょうか?」


「伴侶?いえ独身です」


「ではこれもプライベートな質問ですが、お付き合いされている方は?」


「今はいないですね。ちょっと前に別れたばかりなんですよ」



伝えると彼女は「ふぅ」と息を吐いた。それから無言で「名刺」を手渡してきた。本名かどうかは分からないが下の名が「真弓」さんである事が分かった。



「真弓さんですか。俺は朋也と言います」


「つまり弓と矢ってことですか」


「え?どういうことですか?」


「いえ、なんでもありません。ところで、この間わたしの『痴態』を見てしまった責任は感じておられるでしょうか?」


「『痴態』????え?踊ってた事ですか?」



流石に大袈裟な表現だと感じたが、やっぱりあの時は恥ずかしかったんだなと分かった。



「だから…今度、一緒にカラオケ行きませんか?それで帳消しにしてあげます」


「は?」



何故そうなる。『この人頭おかしい』と思いかけたが、そういえば最近あまりカラオケに行ってなかったなぁと思い、考えてみれば「ヒトカラだと行きにくい」と感じていたからだという事に思い至る。



「良いですよ」



以来、彼女とは一緒にカラオケに行く仲になった。多分、真弓さんの中で何かが弾け飛んでしまったらしく自分ら世代なら誰もが歌える名曲を熱唱しながら不思議な踊りを見せてくれている。それにしても面白いのは曲の選択もそうだし猫の話題とか、映画の好みに至るまで悉く彼女と一致してしまうという事である。それに対して「不思議ですねぇ」と真弓さんに話したら何か意味あり気に「ふふふ」と笑っていた。

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