思い出すなら、今でしょ!
私はお母様の執務室を出ると、カイヤの家へと戻った。
「おぉ、お帰りなさい。オシリスお坊ちゃま」
「ただいま!聞いて!来週の月曜日に海に行くことになったよ!」
私は嬉しくて、つい自分のおじいちゃんに話す感じで言った。
「ほう。それはそれは。……セレを作りにですかな?」
「うん!魔法石を使わずにセレを作れたら、この領はもっと豊かになるはず……。そのためにも色々勉強と研究をしなくては!」
私の言葉にカイヤは頷いてくれた。
「では、海水からセレを作る方法について、説明しましょうかな」
「!カイヤはセレを作れるの?」
カイヤは椅子に私を座るように促したので、素直に従った。私が座ったことを確認したカイヤは、棚から一つの巻物を見せてくれた。
「これは、儂の息子が昔セレを作る工場で働いていた時にもらったものじゃ」
巻物についていた紐を外し、巻物を広げテーブルの上に置いた。巻物には、セレを作るための流れが書いてあった。
「息子は今、この領地を離れ首都で生活をしております。その時に預かったのです。『いつかセレ作りが再開したときに必要だから』と言って」
巻物に書かれている内容はこうだった。
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1.海水を汲み続ける。
2.海水を沸騰させる。
3.沸騰させるとセレができる。
4.セレができたら、魔法石で不純物をとる。
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「……これだけ?」
「そうですな。これだけです。ですが、最後の工程が何よりも大切だったと言っておりました」
「そ、そっか……」
(あれ?入院してた時にテレビで見た方法は、+と-がどうたらこうたらって言ってたような?それが不純物なのかな?でも、順番が違う?)
私は口元に左の人差し指の側面を当て、考え込んだ。
(思い出せ……。思い出せ!今思い出さないで、いつ思い出すのよ!)
私があまりにも険しい表情だったのが気になったのか、カイヤが心配そうに見つめていた。
「お坊ちゃま、大丈夫ですかな?」
「あ、はい。だいじょ……、カイヤ、それは何ですか?」
私はカイヤが立っている後ろの棚にあった、金属製の棒を指差した。
「?あぁ、これですかな?……これは、園芸用のかごを作るときのワイヤーですな」
カイヤはそう言うと、私にワイヤーを見せてくれた。
「この一番太いワイヤーを支柱として使い、この中くらいのワイヤーは支柱と結合するために使うんです
よ。あぁこの細いワイヤーは茎や葉をきれいに見せるために使います」
私はカイヤからワイヤーを預かってまじまじと見つめた。
「このワイヤーは、何製ですか?」
「これは、銅線ですな。鉄は錆びやすいので、銅線を使い、最後はコーティングします」
(あ、なんだっけ?理科で習ったやつ……。電気分解?だった?実験したことがあるはず……。いや、その前に、この世界に電気という概念がないよ、ね……)
そう、この世界はろうそくに火を灯したり、魔法道具を使って部屋や道を明るくしている。
(つまり、電気の代わりを作らないといけない……?)
「……カイヤ、どうしよう……」
「どうされましたかな?」
「セレ……、作れないかもしれない……」
私の言葉に、カイヤは少し困った顔をした。
「……まだ、何も始まっておりませんぞ、オシリスお坊ちゃま」
「え?」
「始めから成功するのであれば、誰も苦労なぞしません。たくさん失敗し、たくさん考えた先に成功があるのです」
「あ……」
「まだ時間はありますぞ。今から考えれば良いのです」
カイヤはそう言うと、ウインクした。
「そ、そうだね!まだ何もしてないもんね!」
私はカイヤの言葉に大きく頷くと、立ち上がった。
「ここに紙とペンはある?作らないといけないものを書き出そうと思うんだ……」
「ええ、勿論」
カイヤが棚にあった紙とペンを用意してくれている間、袖を捲り気合を入れた。
(絶対に電気を作って、セレを作るぞー!!!)
さぁ、理数壊滅的だった私の、テストのためだけに覚えたことを、今こそ思い出すときだ!




