第22話 熱いたこ焼きと想いの桃未
「おおおーしゃぁぁ!! 行くぜ~行ったるぜぇ!」
「お、落ち着けって! 何もそこまで喜ばなくても……」
「何を言うかー! 悠真くんの努力の賜物だぜ! うぅ、良かった……よがっだぁ~……グズッ」
桃未先生のスパルタな教えのおかげか、テストの成績が相当良かった。そんな俺のテストを受ける前、桃未はあらかじめ俺に伝えていたことがあった。
それは俺の点数が目に見えて分かるくらい上がったら地域祭りに一緒に行き、奢ってやるぜ的な言葉だ。
桃未と一緒に行くだけでも俺にとっては十分すぎるご褒美なのだが、よほど嬉しかったのか、ずっと泣いていて申し訳なくなりそう。
そんなこんなで地元で定期的に開催されている地域祭りに来ている。地域限定なので、変な予感を感じなくても見知った顔がそこかしこにあったりして。
「あっれ~~! ゆうゆうくんじゃん!! 奇遇~~」
「本当だ。結城君がいる。それと、桃も!」
「あ、ども」
クラスの連中よりも先に出会ったのは、桃未の友だちでもある梨花さんと美柑さんだった。
梨花さんは桃未の配信ぶりに会うからいいとしても、美柑さんは基本的に面倒くさがりな人と聞いているので滅多に出会うことがない。それだけに綺麗なお姉さんたちに囲まれて少し照れてしまいそう。
しかし地域限定祭りなんて案外そんなもんで、出会わない方が珍しい。
「くっ……何で美柑までいるのさ」
桃未曰く花梨は毒にならない友人だから気にしてないけど、美柑は隙あらば何かしてくるタイプだから油断したら駄目なんだとか。
「ゆうゆうくん。良かったらウチらと一緒に回らない?」
そう言いながら花梨さんが俺の右腕に絡んでくる。
「……じゃあ、私はこっちの腕」
かと思えば美柑さんもそれに乗ってくるし。
「あーー!!」
――などと桃未が悔しがっていても、年上お姉さんな二人は俺から離れようとしない。
「桃未はいつもゆうゆうくんにくっついているじゃん! お祭りの時くらいゆうゆうくんに甘えるのをやめて大人になりなよ」
「そうそう。桃は一人で歩きなよ。結城君は私らがもてなすから!」
「ぬぬぬぬ……あたしはオトナ……あたしは大人」
桃未が何やら葛藤してるようだが、友人二人に強く言えないのか黙ってついてきている。
そんな中、俺は年上お姉さんたちに腕を組まれながら屋台に売られているわたがしやフランクフルトといったものをまるで餌付けのように買い与えられ、なおかつ何故か彼女たちに食べさせてもらっている状態だ。
「結城君、あ~ん!」
「あ~……むぐっ」
「美味しい?」
「は、はひ、とても……」
美柑さんから差し出されているのは、黒くて甘い液体を塗られたバナナだ。ひたすら甘い感触が口の中に突っ込まれてくるからどうしようもない。
「ゆうゆうくん、ウチのも食べて~」
「ふぁい」
「どっちが甘い?」
「同じくらい甘い……です~」
これだけでも甘いのに、花梨さんは間髪入れずにりんごがかなり甘くなっている飴を口の中にぐいぐいと押し込んでくるから逃げることは不可能だ。
一見すると綺麗なお姉さんたちにがっちりと腕を組まれているハーレム状態。しかし、二人とも容赦なく甘いもので攻めてくるから何とも言えない。
そんな状況をずっと黙っているなんて桃未らしくない――なんて思っていたら、少し離れて歩いていたはずの桃未の姿がいつの間にかいなくなっていた。
「あれ? 桃未さんは?」
二人がいる時は一応、「さん」付けで呼ぶことにしている。
しかし俺の疑問を気にもしていないのか、花梨さんと美柑さんはひたすら俺の口に甘いものを攻めてくる。
これはどうしようもない……。そう思っていたら、どこからか桃未の馬鹿でかい声が前方から聞こえてきた。
「悠真くぅーーん!! あっつあっつのたこ焼きを発見したよ~~!!」
たこ焼き!
甘いものばかりでどうしようかと思っていたところに、それは真面目に助かる。
「……というわけだから、俺、桃未さんのところに行きます」
「こらこら、こんなハーレム状態滅多に無いんだぞ? それなのに、彼氏のフリをさせてお預け状態にしとく桃未の方がいいの?」
「結城君さえよければ、もっと甘い味を直接注いであげるんだけど……駄目?」
……などと、二人のお姉さんたちは怪しい響きの言葉で俺を引き留めようとしている。だがたこ焼きの魅力に勝てるわけもなく。
「せっかく桃未が……じゃなくて、あつあつのたこ焼きがあるみたいなんで、とりあえず行ってきます! すみません、また!」
「あっ……ゆうゆうくん!?」
「ん、残念」
ほぼ力づくで二人から離れ、俺は桃未がいるであろう所をめがけてダッシュした。
すると茂みのある石段付近に、たこ焼きを差し出す状態で桃未が俺を待ち構えていた。
「さぁさぁ、あたしのたこ焼きめがけてカモ~ンヌ!!」
上手くそこに行けるかなんて関係なく、桃未が持つたこ焼きめがけて口を大きく開けて突き進んだ。
「むぐっ!?」
「おっほ……いつになく大胆よのぅ。よいぞよいぞ、悠真くんに食べられるこの感触もまた良き思い出なのだ~」
何やらおかしなことを言っているようだが、さっきまでの甘い感触と打って変わって、甘じょっぱい感触が口の中に広がった。
しかし……熱くて柔らかいたこ焼きを味わっていた次の瞬間、悲鳴が飛んでくる。
「ぎゃおーーー!?」
「――っ!? な、なん……うぇっ!?」
「悠真くん、あたしの指は食べられないんだぞぉぉ!! 噛むのはやめておくれ~」
や、やはりそうだった。たこ焼きにしてはおかしいと思っていたけど、まさかの。
「……ご、ごめん」
「許さん!!」
「え、そんなに指が? ちょっと指を見せて」
「あたしの指のことじゃな~い!」
ん?
指のことじゃない?
じゃあ何だ?
何か分かんないけどきちんと謝ろう。
「ごめんなさい。俺が悪……」
「ん~? 何に対してのごめんなのかな?」
「いやっ、だから桃未の――」
「そう! 桃未さんは激おこなのだよ! 悠真くんにはあたしという絶対的なお姉さんがいるというのに!! それを~……」
あぁ、あの二人の行動のことか。
「あれは何というか……ん~」
俺からくっついたわけじゃないし俺が悪いと認めるのはどうなんだ?
「いい気になるなよ! このすっとこどっこい!! そういうわけだから、悠真くん」
「は、はい」
調子に乗ったように見えたわけか。それなら確かに俺が悪いことになるな。
「あたしの横に来い!!」
ここで逆らってもどうしようもないので黙って桃未の横に立つことに。
「悠真くんの唾液が乾くまで、あたしにたこ焼きを食べさせたまえ! そして思いきりあたしを甘やかすのだ~!!」
「お、おぉ……分かった」
そんなことでいいのかと思いつつ、桃未の指は確かに俺の唾液でべとべと状態。自然の風で乾燥させながら俺が桃未にしてあげなければ。
「んあ~ん……! ほれほれ、あたしの口は悠真くんからの施しを待っているぞ~!」
 




