第21話 桃未先生とお呼び!
「うっわ……、悠真それはひどくない?」
週明けの教室。俺に速攻で声をかけてきたのは、またしてもあんずだった。テストの結果が前回よりも酷くなっているせいか、あんずの表情も以前より怪訝そう。
そんなあんずの表情はともかく、
「うぅっ、何でこうなった……。ちゃんと要点を押さえていたのに……」
何でこんなに成績が下降したのか、俺はいまいち納得がいかない。
「ってかさ、こんなひどかったっけ? それともあの年上の女に夢中でこんな酷くなった感じ?」
「断じて違うぞ。てか、誰のことを言ってるのか俺には分からないな」
誰に頼るでもなく、自分なりの要点を押さえて勉強して挑んだテストの結果が返ってきたに過ぎないわけだが。
その結果は散々なもので、下手すると今後に悪影響を及ぼす可能性がありそうで嫌になるし痛すぎる。
「……次のテスト対策は一緒にやる?」
「あ! それならウチもウチも!!」
……などと、同じクラスの女子が便乗で身を乗り出してくる。
「いや、俺は自分のペースでやる。だから女子の力は借りない! 下手したら今回よりも落ちるかもだし」
「何~!? umaのくせに生意気! 言っとくけど、あんたよりウチらの方がマシだからな!」
「そんな強がり言って、悠真……、あんた本当に大丈夫なわけ?」
全く、あんずだけでも面倒なのにクラスの女子が加わってくるのはメンタルにくるぞ。
「問題無い。というか、俺がクラスの女子と勉強会をするのはマインドが落ち着かないからな」
「ふぅん? 他にアテはあるの? もし無かったら、いつでも声をかけていいし。最低でも来週までに声をかけてくれたら調整出来るし」
「お構いなく」
実はあんずはクラスで一、二を争う人気女子。あんずに便乗して話しかけてきた女子も総じてレベルが高いが、どういうわけか俺に話しかけてくることが多い。
これに腹を立てながら睨んでいるのは、当然ながら同じクラスの男子全てだ。そしてすでに女子大生の桃未も俺が女子と仲良くすることに腹を立てるタイプなので、うかつな行動は出来ない事情がある。
「贅沢な奴だな、お前」
そんな中、黙っていられなかったのか笹倉が不機嫌そうに話しかけてきた。
「レベルの高い女子だけでも腹が立つのに、北向の誘いを断るとは! このハーレム野郎め!」
「笹倉……お前も星里香を誘えよ。あいつなら、いま廊下にいるぞ? あいつの視線の強さが分かるだろう?」
「……とっくに気付いてたっての!! もしかして期末対策を元カノに頼むのか?」
「あいつは優しくないからな。それにもう関係無い」
元カノになった時点で一切関わりたくないしな。
「悠真。桃未さんはオレのこと、何か言って無かった?」
笹倉がうざいと感じていたら、それとは全く関係無しに越後が桃未について訊いてくる。
「いや、何も聞いて無いけど……」
「女子大生な桃未さんからマンツーマン指導を受けたら、オレはどうにかなっちゃいそうだよ~! はぁ~桃未さん、いいなぁ……」
桃未のストーカーをまだやっていたとは驚きだな。こういう気配がある時は、どういうわけか桃未も俺を迎えに来なかったりする。
次のテスト対策をどうするべきか思い悩みながら一人で帰ろうとすると、どこからともなく桃未がひょっと現れた。
「そこいく少年! 何をそんなに悩んでいるのかね?」
「……何が?」
「ぬふふ。あたしには全てお見通しなのだ~!」
こいつ……どこかで隠れていたのか?
俺の表情を読み取る能力とか、いつの間に。
「悠真くん、あたしのお部屋に来やがれ!」
「え、ど、どうした? なぜ……?」
「早くっ! ノートとテキストを手にお部屋に来るのですっ!」
「わ、分かったよ」
添い寝以来の桃未の部屋に到着した。
部屋に入るなりすぐに、一体どこから調達をしてきたのか、桃未は何故か白衣を着ている。
何のイメージを参考にしたのか、丸メガネをかけて準備万端といった感じだ。おまけに普段はそんな路線じゃないはずなのに、白衣の胸元をわざと開けている。
セクシーに思えなくも無いが、桃未には似合わない。
「桃未、それは何の真似?」
「桃未先生とお呼びなさい!!」
「も、桃未先生……どうして白衣? それだとどう見てもドクターの方なんだけど……」
「悠真くんはポイントだけ抑えて他を疎かにしたって聞いたぞ~!! なので、先生は厳しくいくんだぞ!」
どこの誰からの情報なんだろうか。
「一応聞くけど、先生って響きのイメージで医者を思い浮かべた?」
「ち、違うぜ! 桃未を偉そうに思えばいいさ。お分かりかね?」
「偉そうに思えとか、どこのやぶ医者なんだか……一応訊くけど、テストの結果は誰から?」
まさか星里香?
いや、それは無いだろうからあんず?
「むっふふふふ……情報など、桃未先生にはあらゆる後輩に泣きついて電話……じゃなくて、とにかくあたしの目が黒いうちは成績下降することを許さないんだぜ!! 今夜は寝かしませんよ? いいかね、悠真くん」
セリフだけ聞いていれば大胆な感じに思えなくも無いが、今の時点で真っ先に寝てしまいそうなのは桃未の方だ。
慣れないメガネに加えて度が合っていないようでふらふらとしているし、白衣の心地よさに早くも目がトロンとしているのが確認出来る。
とはいえ、俺の為に体を張ってくれるおかしな頑張りに免じて頑張るしかなさそうだな。
「ほへぇ……寝たら駄目なんだぞぉ~」
「はいはい……分かってるよ、桃未」
 




