第17話 ふわふわポップ
桃未からまさかのお誘い――!!
何となく高揚感、妙な胸騒ぎ。それらを勝手に感じて、いざ桃未の部屋へ――のはずが、入ったその時から今まさに目覚めたこの時までの記憶が全く無い。
とりあえず何も無かった……のは当たり前だとして、どうやら俺は桃未の部屋のベッドに寝かされていたようだ。
上着は脱がせられてTシャツだけになっているのが何よりの。それにさっきから感じるふわっとした羽毛布団に包まれている感触が――
「――んん?! って、ちょい!!」
この感触、どう考えても羽毛布団じゃなくて……。
もぞもぞと動くソレは俺の驚きに驚かず、何を言うかと思えば。
「ほよ? 悠真くん、おはよぉ」
「な、ななな……」
「ナナフシギ?」
「何で俺と一緒にベッドで寝ているんだよ! 桃未はそんなタイプじゃ無いだろ!?」
「おっふ……なんてピュアなのこの子は。あたしは添い寝タイプなのだよ。知らなかった?」
そもそも初めて桃未の部屋に上がり込んだうえ、多分同じ布団で寝ることなんて今まで無かったはず。
それがどうしてこうなってる?
新葉さんにフラれ? 何故か桃未の部屋に上がり込み、知らぬ間に眠っていたのは仕方が無いとしても、いきなりこんな状態になってることがおかしい。
少なくとも桃未は俺以外の男を寄せ付けないくらいの天然の純粋女子なはずで、こんな簡単に添い寝などするはずもないのだが。
「おーい、悠真くぅん。聞いてる? さっきからあたし、何度も君を呼んでるんだよ?」
「あぁ、うん……なに?」
「むふふ……悠真くんの寝顔は可愛かった! だから許しちゃう!」
「うん。うん……? 何を許すって?」
「悠真くんが手のひらで感じた感触のことを言ってるのさ! 身に覚えがないとは言わせないんだぜ?」
やはりふわっと感じたアレは桃未の――でも俺の寝顔をさらけ出したことでおあいこになるなら問題は無いよな。
「まぁいいけどぉ、まさか悠真くんが本気だったなんて、お姉さんはすっかり油断しちゃってたよ! あたしのお部屋にせっかく連れ込んであげたのに、まさかずぅっとふさぎ込むなんてね。それはそれは母性本能をくすぐられちまったんだぜ~」
新葉さんのことか。冗談半分で付き合うとか言われてはいたものの、あの人があまりに美人過ぎて俺もその気になってしまったんだよな。
どこかに出かけるとか無いに等しいのに、顔を合わせるだけで緊張しまくりだった。妙な言動さえも可愛いと思っていたわけだし。
それがあんなあっさりとした切られ方をされたもんだから、俺の中でショックが想像以上に大きかったということなんだろう。
だから桃未は俺を添い寝で慰めつつ、同じ布団の中で寝てしまっていたと。
それはともかく、
「だからって俺の真横にポップするとか、いきなりすぎるだろ」
「こらこら! あたしをモンスター扱いとは何事だ~!」
「ただでさえふわっとした桃未が俺の至近距離にポップしてるうえに、意図的じゃないモノまで……ある意味モンスターだ、お前は」
おかげで失恋のショックがどこかに消えたが。
「フフフ……つまりお姉さんはすごいということだね!?」
「あ~すごいすごい」
「つまり悠真くんはあたしの彼氏のフリを継続してくれるわけだな?」
「ま、まぁ……そうなる」
あくまでもフリのままなのか。何だか何とも言えないし、背を向けて冷静になるしかなさそうだ。
そうして正面に見える桃未を避けるように体を横にして背を向けると、
「ツンツンツンツン……へいへい、そこの彼氏くん。泣いてるんですかぁ?」
なぜか桃未が俺の背中に指で連打してくる。
「泣いてない!」
「えいえい!」
「くすぐったいからやめてくれ~」
背中を触られることがないせいか、かなり感度がやばいことになりそうなんだが。
「ならばこれでどうだぁ~!」
どうやら俺が泣いていると勘違いしているだけでなく、地味な攻撃で何とか自分に振り向かせようとしているようで、俺に覆いかぶさろうとしているのか影が見える。
「あぁ、もう! 何だよ、桃未さ――んがっ!?」
「ぎゃおぉぉー!?」
とてつもなく鈍い音とともに首の辺りに痛みが襲った。そして桃未の方も口元を押さえている。
一瞬の出来事だったが、お互いに響き渡った鈍い音で俺も桃未も涙目になっていた。
「いったぁぁぁぁぁい!!」
「……つーぅぅぅ……」
お互いにどこかをぶつけて痛みで悶絶……というか、何でそんなことに?
「何やってんだよ? まさか俺に噛みつこうとしたとかじゃないよな?」
「桃未さんをまだモンスター扱いとかひどくなぁい? 頭にきたからお仕置きしようとしてたのにぃ」
「……そう言われても」
「悠真くんはアレだね、普通のカップルさんがするようなことをやるのも大苦戦しそうだよ……てっきりあたしの方が駄目な奴かと思っていたのにさ~」
俺に覆いかぶさろうとしていたのは予想出来たけど、桃未の部屋、それもお互いに布団の中にいる状況で、結局何がしたかったのか意味が分からなかった。
「むふふ。悠真くんは育てがいがありそうで何よりだよ……」




