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匣の街  作者: Mr.Y
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キキララ姉妹と△市の謎

 衝撃だった。キキが私の『小説家になろう』でのアカウント、月空リリを知っていたのだ。

 どこで知った? 小説家になろうをぱっとみたってランキング圏外常連の弱小小説なんて絶対知られっこない(自分でいってて惨めでもある)はずだ。それをあろうことか仲の悪い姉、キキが知っているとはどういうことだ、とすぐに思いついたのが風呂に入るときにリビングに置きっぱなしになっていたスマホだ。

 スマホは時間も場所も選ばない、うってつけの執筆道具だが、そういえばロックは顔認証にしていたのだ。単純に面白い機能だから使っていたが、姉のキキとは一卵性双生児だ。私と同じ顔の彼女なら顔認証のロックなんてあってないようなものだ。なんてデリカシーのないやつだ。私が逆の立場ならそりゃ少しは気になる。ちょっと私の知らないやつの私生活や趣味を覗くかもしれない。覗いたらあとはそっと心の奥底にしまい、少しの優越感に浸りながら遠くから眺めるに違いない。ああ、やだやだ。双子だからか、姉妹だからか、なにをどうするのか、どうしたいのかわかってしまう。

 つまりやつは私が小説を書き始めたときから読んでいることになる。しかも月空リリのファンを自称し『匣の街』の更新が止まっているのを心配しているのである。まず私が思ったのは「キキを亡き者にしよう。ドラム缶にいれコンクリート詰めにして雪の花けぶる冬の日本海に沈めよう」だった。そうすれば羞恥により熱く真っ赤になった顔もいくらか冷めるだろう。だが私は真っ当な人間であり、常識人であり、慈悲心も持ち合わせている。キキを亡き者にしようとは思っても行動には移せないでいた。残念ながら。

「それでどうして止まっているのかなぁと」

 私の胸中なんぞ、やつにはどこ吹く風なのだろう。

 小説というものは私の精神の吐露に他なく、ある意味、私の思考、精神を私自身すら気づかないところまで現したものだ。つまりは小説は精神的な裸体ともいっていいのかもしれない。変態じみた表現かもしれないが、小説を書くということは匿名という覆面をかぶった精神的露出ともいえる。しかもその露出を広大なネット上でさらし、皆にもっとみて欲しい、感じて欲しい、詳細な部位まで読み込んで欲しいと望む変態的露出狂だ。なんで恥を忍んで狭量な私見を書いているかというと、読者諸兄姉にも私の羞恥心の一端でもいいから感じて欲しいからだ。あまりの衝撃による自虐では無い。決して。

「いやぁ、それにしても、まさか陽キャな妹が陰キャな趣味していたとは思わなかったよ。興味っていったら車とか飲み歩き、美容と料理かと思っていたらまさか、ねぇ」

 やはり日本海に沈めることを行動に移すしかないと身を乗り出しかけたたとき「でも感動した。正直、読みながら涙が止まらない作品もあった」と真剣な眼差しでいわれた。

 読者諸兄姉がもし小説を書いたことがあるならわかってもらえるかもしれない。

 毎日、悩みながらちまちまと文章を重ね、わずかなひとの目にしかふれず、静寂のなかで我一人饒舌かつ情熱的に書き綴った小説に「感動した」と単純(シンプル)な感想を私の目の前でいってくれるのである。私の目の前で、である。思わず二回いってしまった。これが長々と解説や分解、解説してどう感動したのか語ったならば私は冬の日本海におもむかねばならなかっただろう。だがキキは「感動した」と直感的にいった。それは彼女の心に私の小説が真っ直ぐに突き刺さったということだ。私が『こころ』を授業で読んだときと一緒だ。作者はなにがいいたいとか、文法だとか、そんな枝葉末節などはどうでもいいのだ。真っ直ぐに突き刺さった熱い感動を言葉にするときひとは「感動した」としかいえないのである。そう「感動した」と感想をもらった私もまた感動した、としかいえない。だが相手はあのキキである。それを言葉にするのははばかられた。

 キキは言葉にした。だが私が黙ったままなら、キキの(スマホを勝手に覗くという)不正にも目を瞑り、小説で感動を与えた私のほうが上だ。こんなときにもおまえは面子(メンツ)を気にするのか、と読者諸兄姉は思われるだろうが、それが兄弟姉妹というものである。決して相手に弱みをみせてはならない、と半ば強迫観念というかライバル心というものがある。私だけかもしれないが。

 しかし、「感動した」といっても多くの感動がそうであるように一度感じてしまうと次はもっと、と欲求が増してくるものだ。ましてやこの私である。私は貪欲だ。他人より並外れた創作意欲(ブクマも評価もつかないが書き続けている)がある。いや、むしろ私には欲望と呼ばれるものは創作意欲しかない。確かにもっと感想が欲しくなる。しかし一方でさめてきている私もいる。感想の欲しさより別の欲求も湧いてくる。そもそも暫時の感動になんの意味があるというのか。その言葉を頂くのはありがたいが、それだけでは執筆意欲にわずかばかりの火を灯しこそすれ、行間すら埋まらない。

 キキはタバコに口をつけ、肺いっぱいに煙を吸い口から細く吐き出す。「感動した」という感想は謝罪なのかもしれない。キキの口からため息のように出た煙は自分のなかに隠していたなにもかもを吐き出しているようにもみえた。

「けどスマホを覗いたってことでしょ。デリカシーのないやつだ」

「ふん」とキキはそっぽを向くが、まぁ、許してやろう。度量をみせてやることでやつより上に立てるなら安いものだ。舐められないために度量をみせ過ぎもよくないが。

「癪だけど、おもしろかったし、続きが気になるんだよね。そこでさ。ネタ提供というか……」

 そういってスマホにはいっている写真をみせた。

 そこは倉庫だろうか、黄色いプラスチックの荷箱に土器や土偶などが入っていた。

「星野解体屋が凹凸建設から受け持ったところが旧市営体育館だったんだけど、そこから出てきたんだ。凹凸建設は作業が遅れるから、そういうものはみなかったことにして、埋め戻してくれって。実はよくあることらしい。遺跡とか化石とか。けどお父さん、信心深いじゃん。やたら縁起担ぐし」

 確かに縁起を担ぐ、初詣は欠かさないし、祭りごとは率先して参加する。厄年にはうるさく、厄祓いは必ずしていた。ついでに背中に彫った鍾馗様は厄除け魔除けも兼ねて彫ってもらったらしい。

「だから埋め戻すなんてもってのほかだって、倉庫にいれたんだよね」

「それをどうしろと」

 正直、私のところにそんな話を持ってこられても困る。神社か遺跡発掘に興味がありそうな大学にもっていくべきだろう。

「重機でばらばらの状態で掘り起こされたんだけど。この土偶とか土器とかはたぶん大きな石に覆われたところに埋まっていたんだ。ちょうど箱型にさ。掘り起こさたとき、そんな感じだったんだよ」

 確かに私の創作意欲に引っかかった。

「たぶん最初にあった市営体育館を建てたときにも見つかっているはずなんだよ。基礎工事の過程でさ。それが……」

「あえて動かさず、基礎工事をしていた」

「そう。そして凹凸建設の責任者に私はいったんだ。お父さんは信心深いからそういうのは気にするってね。ただばらばらの状態で埋め戻すのはどうだろうってね。そしたら『いいからそのまま埋め戻して。もし欲しければ持っていってもいいよ。バチなんて当たらないから。それにお父さんの背中の鍾馗様が守ってくれるさ』ていったんだ。そりゃ、お父さんの背中の彫物なんて知ってるひとは知ってるだろうさ。けど凹凸建設は東京の業者で、仕事の下請け欲しくて接待したのは私だし。お父さんとあの責任者は接点ないはずなのに、なんで知っていたのか。それに遺跡が出てきたことを当然のように受け止めていたし。あのときは私もどうにかしていた。ああ、そうですねって、納得したんだ。けど思い返してみれば、凹凸建設の言葉は引っかかることだらけなんだよ」

「つまりは?」

「謎だらけ。あと凹凸建設と市長は何度も旧市営体育館の解体で会っていた。市長なんて忙しいだろうにさ。わざわざ工事現場に来て長々立ち話をしていた。……もしかしたら工事のうるささに紛れて、周囲に聞かれてはならないなにかを責任者と話していたのかも」

「ふむ」

 創作意欲は捗る。これはもう小説的にはミステリー要素満載ではないか。市長と凹凸建設は繋がっており、体育館の地下にあった祭壇を破壊し封印されたなにものかを呼び出そうとしているに違いない。

 現実はどうか知らないが。

「それっていつ?」

「確か……四月の中頃だったかな」

「『△市UFO事件』の前か」

 私は確信した。市長、凹凸建設、UFOはなにかしらで繋がっているのではないか。

 いや、市長と凹凸建設がUFOの封印を解いたのだ!

 ちょうど他の公共施設も耐震性の問題だとかで工事をしている。それらの封印を解き放って、△市上空にUFOが舞い踊った! ……いや、冷静になれ、私。そもそもUFOの封印てなんだよ。UFOは呪物か、妖怪か。土器や石箱で封印できるものなのかよ。

「もし、よかったらいまから倉庫行く? 現物みたほうがインスピレーションが湧くんじゃない?」

 私はよほど難しい顔をしていたのだろう。キキが危ないものをさわるように気遣いながら私にいってきた。


 キキの運転するオレンジのハスラーのなかで考えていた。確かオカルト雑誌MUにあった南魚文が書いた記事には北斗七星を模した場所で封印としている、と書いていた。名前は伏せられていたが、もしそれがこの△市なら体育館と他の場所も確認してみれば北斗七星の形になるはずだ。

 私は恐る恐るマップアプリを開いて他に工事のあった公共施設を照らし合わせてみると確かにぴたりと一致した。もうパズルで抜けたピースがはまるかのようにだ。

 けれどなぜ公共施設なのだろう。

 そしてなぜ北斗七星なのか。北斗七星の形ということは 七ヶ所、それぞれなにかが封印されたとは考えにくい。全体としての封印なのだろう。

 南魚文は星の力を借りようとした、と書いていた。けれどもそれは本人は煮え切らないようであり、ほかの可能性も考えているようでもあったのだ。

 いつも思うが、なにか人の手に余ることは、なぜ封印なのだろう。完全に埋めるということは考えなかったのだろうか。UFOにしろ妖怪、怪異にしろ破壊すれば、あるいは(物騒な話だが)殺してしまえば終わりだろう。できるかどうかは知らないが。封印ならまた出てくる可能性もあるわけだ。それは先送りで根本的な解決にはなっていない。古来からいまに至るまで日本人は先送り体質の民族なのだろうか。いや、先送りではなく再利用しようとしたのではないか。力を失って人間にも扱えるくらいになったら利用しようとしたのか。利用? どうやってUFOだとか怪異だとかを利用しようというのか。それだったら記録として残しておくはずだ。そんな話しは聞いたことがない。やはり破壊できないし、完全に消滅できないからとりあえず蓋をしたのか。

 それに北斗七星を模した魔法陣のようなもので封印となると、△市全体がなにかの封印ということになる。それならば古井戸を埋めるときガスが堪らないように筒を出しておくように、七つの筒を通しておく、とか。これが個人の家なら家族が災いやら(UFOだから放射線?)の影響を長々受けるが、公共施設ならば不特定多数が影響を受けるがそこで生活しているわけではない。影響を受けるのは短時間だ。それだと北斗七星の形はいったいどんな意味がありのだろう。やはり北斗七星の不思議な力にあやかり星座を模した封印のほうが自然に感じる。

 わからないことだらけだが、この七つの場所になにかがあったのだ。ほかは知らないがその内のひとつにはいまからお目にかかれる。

「月空先生、ストーリーができあがってきましたか?」

 自分の世界に入ってしまい、ずっと黙っていたのをキキが茶化してきたので、私は「はっ」と鼻で笑って返した。

 確かに真実にたどり着くための手がかりが少ないが、小説のネタとしては楽しめる。そうだ。いま私は自分でいいことをいった。私は警察でも探偵でもない。真実にたどり着く必要なんてない。私はおもしろおかしい小説が書ければそれでいいのだ。

 さてこの話、どうおもしろおかしくしてやろうか。

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