優しいだけのお兄ちゃんは今日もJK義妹パンツを手洗いする!
洗濯カゴの中の薄ピンクの布切れが妹のブラジャーとパンツだとわかるのには三秒と掛からなかった。
「ぎゃぁあああああ~~~~~~!」
一拍空けてから俺は脱衣所で悲鳴を上げた。
触っちゃいけないもの触っちまった。
(あの、おバカ妹め……! 他の洗濯物と一緒に出しちゃいけないもの出してやがる!)
使用済み現役女子高生パンツとブラジャーが今俺の手の中にある。
ほんのりまだ温かいし、女の子特有の甘い匂いがする。
生地は意外と薄くレースがついたデザインはかわいらしい。
(これはかなりやばい……!)
どうしても変なことを考えてしまう。
ていうか考えるなって方が無理じゃないか!?
それでも落ち着け俺。
心頭滅却すれば火もまた涼し……。
いや無理。
ドキドキは収まらない。
かなりヤバい状況だけど何とか頭を動かし整理する。
親父、俺、リナの三人暮らしの我が家では洗濯も含め家事全般はこの俺、緒方霞が取り仕切っている。
リナこと高山莉菜は実の兄妹ではない。正確には親戚同士の間柄だ。
同い年の同学年で、この春から俺と同じ高校に通うため家に下宿している。
以前は俺がリナの家に住んでいたことがあり、兄弟のような関係だったから妹だと思っている。リナも俺のことを『兄ちゃん』と呼ぶ、昔は「お兄ちゃん」だったけど。
ラブコメに出てくるような義理の妹に近い関係のため、俺は『義妹もどき』と呼んでいる。
俺たちの戸籍上の関係とか小難しいことはどうでもいい。
血の繋がりあろうがなかろうが、実妹だろうが義妹だろうが親戚だろうが大切な妹だから。
妹のためなら俺は何でもする。
とは言え、年頃の妹の下着を俺が洗濯するのはありえない。
下着は他人だろうと兄妹だろうと一番見られたくないものじゃなかろうか?
恐らくリナは間違えて洗濯物として下着を出した。
今の俺の目の前にあること自体が不測の事態であり、ただの間違え。
(そうだ! そうに違いない――)
「兄ちゃんどうした~? なんか叫び声がしたけど?」
「うわっ!」
少し離れた妹の部屋から急に下着の持ち主の声がしたから俺はビクッとする。
なんていうか心臓に悪い……。
「ご、ごめん、リナ……お前今何してる?」
「勉強。この前の小テストの結果が悪くて明日追試」
「そ、そうか。そりゃ大変だな。
ところでさ、今日何か間違えとか忘れてることとかないか?」
つい遠回りな聞き方をしてしまう俺。この場は穏便に片づけたい。
いくら兄妹のような間側でも、踏み込んではいけない領域はある。
下着なんかはそう。
可能な限り『ブラジャー』とか『パンツ』とか危険なワードを避けてこの場を乗り切りたい。
俺は余計なことを一切言わず、リナが間違えて下着を出したことに気付いてくれるのがベスト。
「間違えてるって?」
残念なことに俺の思惑を知らないリナが気づく様子はない。
「何ていうかな、いつもと違うところがないかとか……」
「だから何を?」
はっきりしない物言いを続ける俺にイライラするのか、リナの語気が強くなってきてる気がする。
見た目は小動物系で、学校でもニコニコしているけど中身は根っからの体育会系、芯が強く気が強い。白黒をはっきり尽けたがるタイプ。
優柔不断な態度は好まない。
(やばい! どうしよう……)
リナより俺の方が優柔不断だと思う。
なかなかこの場で結論を出せずにいる。
「いや、多分俺の勘違いだから、勉強続けてくれ」
「ふーん、わかった。何かあったら呼んでね」
「おう」
兄妹の会話は敢え無く終了。
(「おう」じゃねーよ! 俺ぇえええ!)
心の中で自分に抗議したところで後の祭り。
リナにパンツとブラジャーを取りに来いって言えばいいだけなのに、なぜか言えない。
事態は何一つ状況は好転しない。
今現在も俺はパンツとブラジャーをしっかりと鷲掴みのしたまま。
真実は別でも、洗面用の鏡に映る俺の姿は妹パンツとブラジャーのに手を出したイケないお兄ちゃん。
今この姿を見られれば、流石に軽蔑されるかもしれない。
かわいい妹に嫌われたら俺は生きていけない。
もし嫌われる未来しか待っていないなら、俺は悪魔に魂を売りこの世界を地獄の道連れにする。
(ざまぁああああ!!!)
なんてな……過酷な現実から逃れたくて、つい現実逃避してしまった。
とりあえず握ったままだったリナの下着を洗濯カゴに戻す。
中学三年間はリナと別々に暮らし、最近また一緒に暮らすようになっため直近のリナのことはよく知らない。
俺の知らないこの三年で幼かった妹はすっかり大人っぽくなり、ひいき目なしでも魅力的な女の子に成長してしまった。
勉強はできないし、部屋掃除もできない。寝起きは悪いし。料理もできない。唯一の特技は運動だけ。
それでもリナはかわいい。
世界一、いや宇宙一かわいい妹。
かわい過ぎる義妹もどき。
そんな妹がいるお兄ちゃんの俺は、強敵過ぎる妹下着にどう立ち向かえばいいのか?
ぱっと頭に浮かんだ選択肢は以下の三つ。
『作戦 戊』
リナを呼び下着だけ回収してもらう。
『作戦 己』
下着は洗濯せずに他のものだけを洗濯する。
洗わなかった下着は元の洗濯カゴに入れたままにする。
『作戦 庚』
他の洗濯物同様、下着も洗濯する。
以上三つの作戦をシュミレーションし、最適解を見極める。
まずは早速「作戦 戊」を検討する。
リナを呼び下着だけ回収してもらう。
「リナ~間違えて下着出してたよ~」
「やだ~兄ちゃんのエッチぃ~ちょっと見ないでよぉ、下着はわたしが持っていくね」
「見ちゃってごめん~リナ、でもこれからは気を付けて洗濯物を出しておくれ」
「わかったぁ~兄ちゃん~大好き~」
「俺もだよリナ~」
「お兄ちゃんのほっぺにチュ~」
グッドエンド。パチパチパチパチ
――この作戦は完璧だ。
全てが丸く収まる。
その上ご褒美のチュウまでしてもらえる……。
問題があるとすれば、妄想リナの性格が実物とかなり違うことくらい。
そこが一番問題か。
俺のシナリオ通りに事は進むだろうか?
下着を見られた妹の機嫌が途端に悪くなり、速攻でビンタが飛んでくるだけじゃないか?
その時は、一発でも百発で甘んじて殴られればいいが、もし拗ねたリナが口を利いてくれなくなったら俺の精神的ダメージが大き過ぎて立ち直れなくなりそう。
リスクがあるのでこの作戦は一旦保留とする。
別の作戦も考えてみよう。
次に『作戦 己』
下着は洗濯せずに他のものだけを洗濯する。洗わなかった下着は元の洗濯カゴに入れたままにする。
触らぬ神……触らぬパンツとブラジャーに祟りなし。
下手に手を出さなければ、大きな損害を被ることはない。この作戦は一見無難に見える。
だが他の洗濯物は既にリナの手で洗濯ネットに収納されて既にまとめらていることから洗濯する時に下着だけ気づかなかったと言うのは無理がある。
何より洗濯されない下着が残ってしまう。これは衛生上良くない。
またリナが下着の替えをどれくらい持っているか知らないが、今晩洗わない場合、明日はもちろん明後日もこのパンツとブラジャーは使えないかもしれない。
何より気づいていたのに気づかない振りをするというのは、妹に嘘を付くと言うこと。人としても兄としてもダメな気がする。
俺はリナに嘘を付きたくない。
問題点が多いため『作戦 己』は却下とする。
最後に『作戦 庚』
他の洗濯物同様に下着も洗濯する。
メリットは洗濯物が全て片付く。
『作戦 己』のようにリナに嘘をつかないで済む。
デメリットは洗濯すれば再び下着を触るということ、触ったことが後で妹にバレること、何よりも下着を回収する時、リナがどんな反応をするか想定不能なこと。
妹の使用済みブラジャーとパンツを触るという行為が許されるのだろうか?
ただのド変態行為ではなかろうか?
リナに嫌われて別々で暮らすことにでもなったら俺は……。
(やだ――! 兄ちゃん寂しい――! これからも妹のお世話したい――!)
……と言うわけで、『作戦 庚』はボツ。
他の代案も浮かばないので、堂々巡りにはなるが『作戦 戊』か『作戦 己』を再検討する……。
とりあえず下着を洗わないで放置は良くないから消去法で『作戦 戊』だな。
よし、怒られるかもしれないが覚悟を決めた俺はリナを呼ぼうとする。
だかその時――
別の考えが頭を過る。
リナは俺のことを信頼しているから敢えて下着を洗濯物として出したのでは?
決して妹パンツとブラジャーをクンカクンカする大義名分が欲しくて俺は適当なことを言っているわけではない。
そもそもリナが間違えてパンツとブラジャーを出すとは思えない。今までそんなこと一度もなかった。
どうも難しく考えすぎている気がする。
ブラジャーとパンツを洗濯すると言っても洗濯機に他のものと同様に放り込むだけ。
干す時にはどうしても下着をしっかり触ることになってしまうがこれは仕方ない。
大したことではない楽勝楽勝。
他の洗濯物と同様にリナのパンツとブラジャーも他の洗濯物と同様に洗濯ネットに入れると、いよいよ洗濯機を回そうとする。
後は洗剤を投入し、電源スイッチオン……。
(ん……ちょっと待て)
そもそもリナは今までどうやって下着を洗濯してたんだ?
俺がいない時間に洗濯機で回していた?
いや――
洗濯機を使った場合、中に水滴が残ってたりと使った形跡が残るはずだが、ここ数か月俺以外が使った形跡を確認したことがない。
となるとリナは他の方法で洗っていることになる。
うーん全然わからん……。
いつどこでリナはパンツとブラジャーを洗っているのだろう?
一日中リナに張り付いてるわけでもないし。
そもそも男の俺が女の子の下着の洗い方なんて考えたことがない。
他の衣類と同様に洗濯機で回すだけで良いのか?
(わからない……わからないから調べてみよう)
俺の親友はたまたま女の子なので、彼女に聞くのが一番手っ取り早いが、さすがに『普段下着をどう洗ってる?』なんて聞けないからネットで調べることにする。
ポケットからスマートフォンを取り出しSNS『Throughter』アプリを起動する。SNSでつぶやけば誰か答えてくれるかもしれない。
カスミン『女の子下着の洗濯方法を教えてください。家族不在で困ってます(泣)』
(これで入力、送信と……)
家族不在どころか親父は自室にいるだろうし、リナも同様部屋にいるから全員揃っている。
でも聞ける相手がいないという意味では、家族不在と変わらない。
ちなみに『カスミン』というのは俺のSNSネームだ。
それから待つこと五分……嬉しいことに俺のつぶやきにコメントをしてくれる人がいた。
フィールドリバーA『それは大変ぽー
まずは下着に付いている洗濯表示を確認するぽー
使える洗剤や洗濯機で洗えるか書いてあるぽー
洗濯機で洗って大丈夫でも、手洗いした方が下着は痛まないし長持ちするぽー
下着さんも喜ぶぽー
洗い方は動画サイトや下着メーカーのホームページにあるぽー』
喋り方が変だし変わったSNSネームだけどコメント内容はまともそうに見える。
(ありがとうフィールドリバーAさん!)
カスミン『ありがぽーございますぽー!』
ちゃんとお礼をした方が良いかと思ったが、どうやらフィールドリバーAさんと会話する場合は文章の節々や語尾に『ぽー』をつけるのがルールのようだ。
他の人に習って俺も『ぽー』を付けたお礼をした。
フィールドリバーA『グッドパンツ! あ、間違えグットラックぽー!』
絡みづらい返事が来たので、俺は『いいね!』ボタンだけを押しフィールドリバーAさんとの会話を終わらせた。
次に俺は言われた通り有名動画サイト『MeatTube』で『女の子 下着 洗濯方法』の三つのワードを入れて検索する。
すると都合よく下着の洗い方動画がヒットした。これを見ればリナのブラとパンツを洗濯できるはず……。
しかしだ……下着洗濯動画は当然女性下着が出てくる。
そもそも男の俺が本来見て良いものか。と言うか本来は見てはダメな気がする。
何だかムフフ内容が多いソーシャルゲームやる時よりも緊張する。
だがここで止まるわけには行かない。
妹の期待に応えるために進まなければならないから。
俺は躊躇いながらも動画再生ボタンを押した。
◇◇◇◇
「ふぅ~」
ランジェリーウオッシュのシャボンがキラキラ光る洗剤の入ったぬるま湯を捨てる。
桶には、まだ泡の着いた薄いブルーのブラジャーとパンツとブラジャーの中に納まるパットが入っている。
それらを一度取り出し、桶を一度綺麗にして、温めの綺麗なお湯を溜めて、泡が残ったブラジャーを軽く振り洗いをする。
俺には聞こえる……。
「わーい綺麗になった」と喜ぶ妹ブラジャーの歓喜の声が……。
「早くわたしの泡も落として」という嫉妬する妹パンツの不機嫌な声が……。
(そう慌てるなよ。パンツちゃんもブラジャーちゃんも俺様のテクでふんわりピカピカしてやるぜ!)
パンツとブラジャーを洗っている時だけチャラ男風な発言をしたくなるのはどうしてだろう。
実は俺にチャラ男の才能があるのか?
まさかな……学校では陰キャでモブ以下だし。ありえん
念のために言っておくが俺は変態でなければ、変なものを拾い食いして頭がおかしくなったわけではない。
妹パンツとブラジャーを初めて手洗いして早二か月、あれから何度となくこの試練を乗り越えていた。
最初の頃は同じ年の妹の下着を洗濯することに戸惑いを感じたけど、数をこなすうちに慣れたのか恥ずかしさは徐々に感じなくなった。
下着の手洗いは手間だけど苦痛ではない。
ちなみに今使っている下着洗濯専用ランジェリーウオッシュは、ネットで一番評判の良いものをこの前入ったアルバイト代で買った。
少し値が張ったものの、泡立ちも匂いも良い。
後はリナが気に入ってくれればいいけど……。
でも感想は聞きづらいな……。こればかりは仕方ない。
そんなことを考えながらブラジャー裏に残る泡を落とす。
そう言えば一つだけ気になることがある。
ブラジャー裏のタグにある『B65』って何だろう?
今まで洗ったやつには全部書いてあったような……。
◇◇◇◇
エピローグ 義妹もどきのヒトリゴト
只のいたずらのつもりだった。
洗濯物に私の下着が紛れていれば、兄ちゃんがびっくりするだろうと。
部屋にいたから兄ちゃんの様子を見ていたわけではないけど、悲鳴のような声が聞こえたから、わたしの狙い通りで下着にびっくりしたのだと思う。
後は兄ちゃんがわたしを呼びに来て下着を回収するだけ。
悪ふざけはすぐに終わるはずなのに、いつまで経っても兄ちゃんはわたしは呼びに来ない。
段々と不安になったこと。自分の下着を兄ちゃんに晒すことがやっぱり恥ずかしいことだと改めて認識したわたしは、兄ちゃんの様子をこっそりと見に行った。
すると兄ちゃんが真剣な表情でわたしの下着を洗っていた。
完全に想定外で大失敗。
でも、よくよく考えたら当然のことなのかもしれない。
兄ちゃんはわたしのためになら何でもしてくれる。
たとえどんな理不尽なことでも。
これまでずっとそうだった。
兄ちゃんは優しい。
世界中の誰よりも……。
でも負けず嫌いのわたしにも意地のようなものがあり、何とか一矢報いたいと思った。
だから初めて下着を洗ってもらった後も、かわいい下着の日は何度か洗濯物に出して兄ちゃんを困らせようとした。
普通の妹ならこんなことはやらないだろう。
でも私は妹であって妹じゃない。兄ちゃんが言うところの義妹もどき。
義妹もどきなら本当の妹がやってはいけないことをやってもいい。
義妹もどきだから本当の妹が考えないようなことだって考えてしまう。
兄ちゃんは不満を言うわけでもなく、わたしの下着を洗濯を黙々とこなす。
最近では慣れてしまったのか全く恥ずかしがる様子もない。
この前は鼻歌を歌いながら楽しそうにわたしのパンツを洗ってた。
恥ずかしい……。
恥ずかしいのにいつまでも慣れないのはわたしだけ。
(はぁ……)
うちの兄ちゃんは少しヘン……。
それともおかしいのはわたし?
多分どっちもか……。
兄ちゃんはわたしのことを好き過ぎる。
わたしも兄ちゃんのことが好き……。
でも同じ好きでも、兄ちゃんとわたしでは多分違う。
だからイライラするしムカムカする。
兄ちゃんはわたしより下着を洗うのが上手くなってしまった。
兄ちゃんが洗うとわたしが洗った時よりふんわりしているし、いい匂いがする。型崩れもしていない。
下着専用ハンガーとかちょっと高いランジェリーウオッシュまで買ってみたい。
普通はそこまでやらない。
でも兄ちゃんは凝り性だ。
料理でも掃除でも、一度始めると徹底的にやる。
だから下着の洗濯も徹底的にやる。
今日は兄ちゃんが洗った下着を着ている。
兄ちゃんに全身を包まれているみたいな気がしてドキドキする。
何もない普通の日なら別に良いけど特別な日はダメ。
この前、部活の練習試合の日に兄ちゃんの洗った下着を着て試合に臨んだらミスを連発してボロボロだった。
試合中ずっと兄ちゃんに胸やお尻を触られてるみたいで身体が熱くなりまともに動けなくなった。
こんなこと誰にも言えない……。
大切な日には絶対兄ちゃんの洗った下着は着ない。
でも洗濯してもらうのは止めない。
だってもっともっとドキドキしたいから……
(ねぇ兄ちゃん……)
優しいだけのお兄ちゃんは今日もJK義妹パンツを手洗いする! ~END♡
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