中国五大麺
林田は中国修行時に中華麺に出会ったことがある。その一杯の麺は、見た目はシンプルであったが、口に運ぶと奥深い旨味と風味が広がり、林田の味覚に感動をもたらした。
中国は広大である。中華麺は地域によって異なる味わいや特徴があり、その多様性も魅力の一つであった。中国には沢山の郷土料理があり、地方の特色を生かした独特の味付けがなされている。
代表的な中華麺として中国五大麺がある。但し、何が中国五大麺であるかは定説が固まっていない。刀削麺、担担麺、伊府麺は確実である。残りの二つに熱乾麺、炸醤麺、打鹵麺、魚焙麺が入る。
刀削麺は中国山西省発祥の麺料理である。麺の生地の塊を刀状の包丁で削って麺とする。削った麺をそのまま茹でるため、表面が直接茹でられ、ゆで時間が短く、麺のモチモチ感を味わうことができる。麺が太くて平たい。
坦々麺(担担麺、タンタンメン)は中国四川省発祥の辛い中華麺である。発音が重なるところがあるが、湯麺とは別物である。麺には豚肉のそぼろとネギなどを載せ、タレには四川風の花椒と唐辛子と少量の芝麻醤を利かせる。唐辛子の辛味と胡麻のまろやかさが絶妙なコンビネーションになる。担々麺は赤茶色のスープである。見た目からして辛そうである。むせるような辛さである。漫然と食べていると鼻の方に入ってしまうため、真剣に食べる必要がある。
担々麺には、ごま(胡麻)を使ったものがある。白ごま担々麺や黒ごま担々麺、練りごま担々麺がある。ごまの豊かな滋味が加わり、辛さだけでなく、味で勝負する。練りごまはごまを細かく擂り潰すことで、ごまの油分が滲みだし、それが細かく砕けたごまと混ざり合ってペースト状になる。
伊府麺は卵で生地を練り、油で揚げた麺。清の乾隆帝時代に広州の食通家の伊乗紋が考案した。色艶は黄色みがかっている。油で揚げるために麺の中の水分が蒸発し、油の力で麺全体が膨らんで大きくなる。
熱乾麺は武漢の麺。小麦の麺を一度ゆでた後、冷やし、胡麻油をかける。食べる前にもう一度麺を熱湯にくぐらせ、お碗に入れた後、胡麻ペーストや胡椒などと一緒に混ぜて食べる。漢口で商売をしていた湯麺売りが売れ残った麺を持ち帰り、翌日茹で直して食べたところ美味であったことが出発点とされる。
炸醤麺は山東省発祥の麺。汁無しの麺で肉とキュウリが乗っている。明朝末期の李自成の乱の農民反乱軍の軍用糧食に由来する。中華麺はスープと一緒に煮込むことが標準であったが、運搬や食事の利便性を考慮した汁無し麺が求められた。
打鹵麺は東北のあんかけ麺である。卵、豚肉、鹿角菜、黄花菜、きくらげなどを具とする。スープには水溶き片栗粉を加え、とろみをつけた濃厚な味わいにする。
魚焙麺は河南省の麺。黄河で泳ぐ鯉の姿をあんかけで再現した。魚の甘酢あんかけ料理の糖醋魚と麺を油で揚げて餡を絡めて食べる焙麺を組み合わせた料理である。糖醋魚に使ったソースが残飯になることを減らすために焙麺と一緒にしてソースを食べ尽くすようにした。熱乾麺と重なるが、フードロス削減が新たな料理を生む。