女神になったので、せっかくだから人類を滅ぼしてみました。
少女は、女神となった。
女神となって、箱庭の世界を覗き込んでいた。
両手で抱え持つダンボール箱の中に地球魏の玉が転がっている。
地球儀の表面で、小さな人間たちが暮らしていた。
文字通りの箱庭の世界が、そこにあった。
ちまちまゴミゴミしている世界のどこをクローズアップしても、争いが繰り広げられていた。
個人で。集団で。国同士で。
何処を見ても、人類は争っていた。
それしかすることがないのだろうかと言いたくなるくらいに、とにかく争い合っていた。
言い争う人々。
いがみ合う人々。
掴み合い、殴り合う人々。
腰蓑で石器を手にした集団が、似たような集団と争っている。
槍が、剣が、弓矢が飛び交う。
鎧を纏い、馬に乗り、やっぱり人々は争い合う。
砲弾を飛ばし合う船。
ミサイルを打ち合う戦闘機。
どの時代でも、どの場所でも。
人々は、争い合っていた。
うんざりした。
とても、すごく、うんざりした。
だから、滅ぼしてみることにした。
両手に抱えたダンボール世界をざかざかと揺すり、思い切りよくひっくり返す。
宇宙空間のようにも、虚無空間のようにも思える謎の空間に、世界の断片はバラバラと散らばっていった。
ダンボールの中は空っぽになった。
スッキリとキレイになった。
世界に平和が訪れたのだ。
爽快だった。
やっぱり、世界を平和にするには、人類を滅亡させるのが一番ね――――と女神は思った。
どこからか、女神を呼ぶ声が聞こえてきた。
女神は、耳を澄ました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「真理恵ー! 真理恵ー! ご飯よー!」
「………………はっ! し、しまった! 寝てた…………って、あっ、あーー! ノートが! ノートが、大参事にぃ! ティ、ティッシュ! ティッシュどこぉー!?」
テスト勉強の途中で居眠りをしてしまったようだ。
世界史のノートが、涎の洪水により深刻な被害を受けていた。
ティッシュでの救援活動を速やかに行うも、ノート中央下よりは、既にブヨブヨで文字は滲んでおり修復は不可能だった。
とりあえず、拭き取れるだけの水分を拭きとって、それ以上の復興を諦めた。
「真理恵ー! 聞こえてるのー!?」
「はーい! 今、行くってぇ!」
ノートを開いたまま、少女は立ち上がった。
後はもう、自然乾燥を待つしかないと見切りをつけていた。
「はー、それにしても、女神になって人類を滅ぼす夢とか、マジかー? これは、あれだな。きっと、テストへのストレスのせいだな。心がお疲れなんだよ。そうに違いない」
勉強机を離れドアへと向かう少女は、被災したノートのことなどすっからかんと忘れていた。
少女があんな夢を見た理由の一つとして、居眠りを始める前に、
『人類が性懲りもなく戦争ばっかりするから、今、あたしがこんなに苦労する羽目になってるじゃない! どう責任を取ってくれるのよ!?』
などと、日頃の勉強不足を棚に上げた八つ当たり同然の人類への呪詛をブツブツと唱え続けていたことがあげられるが、そのこともすっかり忘れ去っていた。
「つまり、あれだ! テスト勉強で心と頭がお疲れのあたしには、甘いものが必要だよね? そうだよね? んっふふー、ふっふっふー。晩御飯を食べ終わったら、お父さんと一緒にコンビニに行って、なんか甘いものを買ってもらおーっと」
かつて女神だった少女は、弾む足取りで食卓へと向かった。
調子はずれの鼻歌を歌いながら。
「甘いものはぁー、世界を救うぅー♪」
それもまた、真理なのかもしれなかった。




