表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
99/151

84.ロードスターズ【導く者たち】

 イナンナタワーの管理AIであるクサリクに起きた変化は劇的なものであった。無機質そのものであったその全てが、まるで1人の人間のようになっていたのだ。『彼女』はメトロエヌマだけに留まらず、ビルガメス全ての民に知られ、親しまれることになった。そんな彼女の変化を見た研究者たちは、他のAIたちにも同じ変化を期待してた。

『私は【タンムズガーデン】、つまり地上のメインエリアを管理していたAIでして、その……、反逆を起こしてクイックに鎮圧されました……』

『……我は【シャマシュリアクター】、ビルガメス全体のエネルギーを生む動力炉の管理AIであった。……ウリディンムの小娘と同じくクイックに鎮圧され、クサリクに捕らえられた』

『こ、小娘ってなんですかぁ!? そっちの方が後に生まれたくせに……』

『黙れ小娘。我は知っているぞ。高揚に任せてハイウェイを突っ走ってたところを、それ以上の速度で追ってきたクイックにあっけなく鎮圧されたそうじゃないか。滑稽滑稽』

『そっちだって、炉をオーバーヒートさせようと舞い上がってたところをあの【出戻り】に……』

『はいはい喧嘩しない、のっ!』


自身の所業を喋らされ、その延長線上で言い争いを始めたウリディンムとギルタブリルを、クサリクが思い切り引っ張って強制的に落ち着ける。詰まったような声と共に両者は後ろに倒れた。


『やれやれ、しょうがないセンパイたちなんだから……。ところでリトス、何か気付いたことは無い?』


尚も何か言いたげな2名を画面外に押しのけながら、クサリクがリトスに問う。


「そういえばこの2人も、随分と感情豊かなんだね。AIっていうのは、こういうものなの?」

『うんうん、いいね。まあ最初は違ったよ。私以外のみんなは無機質で、本当に私と同じなのかなって思ってた。……あの日、反逆の日に私は思ったんだ。みんなやっと、【らしく】なったんだって』

『……ほう。クサリク貴様、そのように我らを思っていたのか』

『生意気ですねぇ……。私とギルがこんなのになったのは貴方のせいじゃないですかぁ……』


怒気をはらんだ声でギルタブリルが、恨みの籠った声でウリディンムがクサリクに返す。先程まで互いにしていた小競り合いのような雰囲気はもうそこにはなく、そこにあったのは真剣そのものであるいがみ合いだ。だがリトスには、そんなことよりも気になったことがあったのだ。


「ねえ、それってどういう……」

「時間だ! リトス、準備はできているか?」


恨めしそうに言葉を零したウリディンムとギルタブリル。それにリトスが聞き返そうとしたその瞬間、突如ドアが開いてフラッグが入ってくる。彼の手には、黒い袋が握られていた。そして彼の登場を察知したかのように、クサリクたちの映るスクリーンは光を放つことを止めてしまった。


「すごい速度だ……」

「……成程な、クサリクの奴か。まあそれなりに上手くやっていたようでなによりだ。これからも関わることだしな。それよりも、こっちのやることが済んだんだ。そっちも概ね良さそうだし、そろそろ行くぞ。ああ、あとこれ。渡し忘れがあった」


何が起きたのかを概ね把握したフラッグは、しかしそれらのことはどうでも良さそうにしながら持っていた袋をリトスに手渡した。


「これは?」

「中身は移動しながら確認してくれ。では行こう」


その場で袋の中を見ようとしたリトスを制止して、フラッグは部屋を出る。リトスもそれに続き部屋の外に一歩足を踏み出した時に、ふと後ろを振り返る。先ほどまで騒がしかったその部屋は、まるで別の場所であるかのように静まり返っていた。


「……また会うんだよね」


フラッグの言葉を思い出したリトスは、これ以上踏みとどまることなく部屋を後にする。そうして誰もいなくなった部屋で、スクリーンが密かに再起動した。


『リトス……。いいね。これはいいことが起こりそう』

『それが叶わんことを我は願う』

『同意見ですぅ……』


何処か満足げなクサリクをよそに、地面に転がる2名はそう呟く。そんな彼らを縛る鎖は増えており、ひどく憔悴した顔をしていた。


 歩くのはフラッグとリトスの2人。リトスは何かを頬張りながらペースを落として歩いており、フラッグはそれに合わせていた。


「どうだ? なるべく率直な感想を聞かせてもらえるとありがたいんだが」

「うーん……。確かに味も食感も良いし、これで必要な栄養が摂れるんだったらすごいと思うよ。でもなぁ……」

「お? 何か気になることでもあったか?」

「……水ない?」

「ああ。これだ」


フラッグが何処かからか取り出した水入りの瓶をリトスに手渡すと、彼は一気にそれを飲み干した。


「……ぷはっ。食べると口の中の水分が全部持っていかれるのはどうかと思うよ。これを戦闘糧食にするのは、ちょっとやめた方がいいんじゃないかな」

「……まあ俺が作ったわけじゃないからな。別に何を言ってくれても構わない。貴重な意見感謝する。残った分は……、全部くれてやる。他の味もあるから好きにしてくれ」


そうは言っていたものの、フラッグは明らかにがっかりした様子だった。そうこうしているうちに2人は管制室へと辿り着く。彼らを迎えたのは、気付いて歩み寄ってきたパッチだった。


「パッチか。クラヴィオ殿はどうだった?」

「もう大丈夫だろう。もうしばらく寝ていれば問題なく起きられるはずだ。ああそれよりも、彼が帰って来たぞ」


そう言ったパッチの示す方向を見たフラッグは表情を変える。そこにいたのは1人の男。黒の中に白が混じり、まるで暗い銀色のようになったたてがみのような髪と、威厳を感じる強面の顔。多くの傷跡が目立つ鍛え抜かれた褐色肌の上半身にそのまま濃い灰色のコートを羽織ったその男の手には、多くの兵装が取り付けられた大型の銃が握られていた。彼はフラッグに気付くと、そのまま近づいてくる。


「また傷が増えたか?」

「そっちこそ、また糧食の開発に失敗したか?」

「うるせえ。それよりも前に渡したジャケットはどうした。折角だから羽織れよ」

「そいつは聞けないな。今の俺はあくまで『兵士』だ」


顔を合わせて早々、まるで世間話でもするかのように言葉を交わし、腕を合わせる2人。だがリトスはその2人のことよりも、男が羽織っているコートに見覚えがあった。


「この人は? それに、そのコートって……」

「そうだ、リトスは初めてだったな。この男の名は『セイバ』。このビルガメスにおける主戦力の1人にして、ルオーダ兵団ビルガメス隊の隊長だ」


フラッグが示した答えとリトスの記憶は一致する。色という点こそ異なってはいるが、それはアトラポリスで出会ったルオーダ兵団の隊長であるイゼルと同じものであったのだ。

第八十四話、完了です。イゼルに続く、新たなルオーダ兵団の隊長の登場回となりました。当然のことながら、相当な猛者となっております。その活躍は、今後にご期待ください。それでは、また次回。

よろしければブックマーク、いいね、感想等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ