80.スタート・アンド・エンカウント【鋼鉄を統べる王】
ここまでのあらすじ
謎の機械兵団に襲撃を受けたリトス達は、助けにやって来たクイックによって窮地を脱する。そして救援部隊と合流した彼らは、連れられるままにビルガメスの中央へと向かうのであった。
部隊の到着から移動開始まで、意外にも時間はかからず円滑に進行した。そんなわけで今リトス達がいるのは、ビルガメスの街の中央にそびえる高層タワーの一階層だ。倒れていたエアレー2頭は別の階層に連れていかれ、安静にしている。それを知っているリトスは。今は別のことを心配していた。
「クラヴィオ……。大丈夫だよね……」
彼の第一の心配は、銃弾を受けて以降意識を失っているクラヴィオだった。彼は緊急で治療を受けるべく、急ぎ何処かへ運ばれていった。クラヴィオがどこに運ばれていったのか。それはリトスにはわからない。だが今どうなっていようと、彼は信じていたのだ。絵画の中で堂々と振る舞い、目の前で王を倒して見せたあのクラヴィオがここで死ぬことなどないと。
「リトス君、だったかな」
そうしてリトスがどれほど待った時であろうか。彼の前に白衣の男が現れた。白衣の下にビルガメスの者たちと同じデザインのジャケットを着用した鈍色の髪の男は、口に煙草をふかしている。
「クラヴィオは、どうなりましたか?」
「一応治療は終わった。当たり所がまずかったからどうなるかと思ったが、止血が効いていた。その点、君はよくやったよ。ああ、褒めてやる」
勢いよく煙を吐き出すその男は、まるで感情の籠っていない言葉でリトスの行動を称賛する。違う方向に吐かれたものの、流れてきた煙にリトスは咳込む。
「だがしばらくは絶対安静だ。面会はできるから、暇なときにでも行くといい」
咳込み続けるリトスに背を向け去ろうとする男は、しかし立ち止まると振り返る。
「それと、君のことをリーダーが呼んでいた。何も考えず着いて来い」
呼んだリトスを待つことは無く、男は部屋を後にする。しばらくの間咳込んでいたリトスは、まだ納得していないながらも男についていくほかは無かった。
男に連れられるままにリトスがやって来たこの部屋の光景は、彼を圧倒した。正面に備えられた巨大なスクリーンには街の詳細な地図が映り、それを元に様々なことを話し合ったり、せわしなく動く大勢の人。リトスには何が起こっているのかはまるで分らなかったが、それが彼の未知を求める心に響いたのだ。
「こんなの、初めてです……!」
そしてそれは、彼と同じように連れて来られた隣のアウラも同様だった。初めて見るこれらすべてに戸惑い、しかしそれ以上に好奇心を抱いている。
「あれ? そっちが先に来ちゃったか。リーダーはまだいないぞ」
「……無理もないか。やることが多い立場だからな。ああ、リトス君。すまないがもう少し……。聞いていないか」
男の言葉は、もうリトスの耳には届いていない。目を輝かせる彼は、思うままにこの空間を歩き回っていた。
「リトス。むやみに歩き回ると危ないですよ」
好奇心を横に置いていたアウラの言葉も、リトスは聞いていない。だが彼女の言葉の通り、歩き回っていたリトスは誰かにぶつかってしまった。
「んぶっ!?」
「おっと。危ないじゃないか。気を付けろよ」
上品な、洗練されたスーツの男が落ち着いた声でリトスに忠告する。だがその声を聞いて背を正したのはリトスではなかった。
『お疲れ様です!! リーダー!!』
話し合っていた、せわしなく動いていた全員が一斉に背を正し、同じ言葉を口にする。ぶつかったリトスのことなど気にも留めず、リーダーと呼ばれた男は端末を手に誰かと話している。リトスは突然のことに一瞬固まってしまったが、すぐにアウラの隣に戻っていった。
「彼女の案内、ご苦労。少年か? パッチが連れてきたぞ。どうやらそれなりに元気らしい。……まあ大丈夫だろう。『シルト』を相手に恐れる様子が無かったそうだな。それに見たところ、戦う力も持っている。それで十分だ」
まだ聞こえる不服そうな声を無視して、男は端末をポケットにしまう。そして2人の前に立つと、姿勢を正して襟を正した。
「さて、不注意な少年。それに賢そうなお嬢さん。少しばかり変則的になってしまったが、挨拶をさせてもらおう。俺はフラッグ。このビルガメスの全てを束ねるリーダーをやらせてもらっている。しばらくの間、よろしく頼むよ」
恭しく一礼するフラッグに2人は委縮すると同時に、彼の言葉に疑問を浮かべるのだった。
第八十話、完了です。2人は何が何だかわからないままにビルガメスの主導者であるフラッグと出会い、何が何だかわからないまま何かに巻き込まれたようです。この何が何だかわからない部分は次回明かしますので、どうかご期待ください。それでは、また次回。
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