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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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79.スタート・アンド・エンカウント【星に集う勇士たち】

 だがビルガメスの兵力の全てが、均一化された力によるものではない。この国の主導者と、彼と共に古くから歩み続けてきた者たちはいわゆる『能力者』であり、古くから生き続けてきたことも相まって『超人たる』強さを誇っている。だが、それ以上の存在がこのビルガメスにはあるのだ。

「かッ……! ああ……!」


乾いた音に、軽い金属が落ちる音。それと共に、腹部を押さえて倒れるクラヴィオ。彼に対して向けられた銃口からは、白い煙が立っていた。


「クラヴィオッ!!」

「気にしてる場合じゃありません! まだ来ますよ!」


アウラの言葉の通り、黒い兵団は一斉にクラヴィオの方へと視線が向いたリトスに向けて銃弾を放つ。


「させない!」


しかし予測が容易なその銃撃はリトスには通じない。彼が杖を突き立てると、彼らの前に立ち塞がるように蒼い大きな壁が現れた。故に、銃弾が彼らを穿つことは無かった。だが……。


「これ、耐えきれるのか……!?」


絶え間なく放たれ続ける銃弾を、リトスの壁は防いでいる。しかしそれは壁が持続している間の話だ。銃弾の雨を前にして壁は砕け、ひび割れ始める。そして銃弾の雨が止み、兵団が一斉に再装填を始めたところで、遂に壁は崩れて霧散するのだった。


「間に合いますか!?」

「あー……。ちょっと厳しい!」


壁を張った時、リトスは周囲の天素をかなりの量消費していた。それも再度の壁展開が出来ないほどの量を。そして少しの時間で兵団は全ての再装填を終えており、その銃口は再びリトス達に向いていた。


「……リトス、せめて貴方だけでも。私は能力で逃げられますので」

「……よく言うよ。風なんか吹いてないのに」


2人は半ば、この状況を諦めかけていた。だが最低限の抵抗の表れか、2人の前には薄い壁が張られている。


「クラヴィオは生きてるよね?」

「……こんな時まで人の心配だなんて、どこまでもリトスらしいですね」


兵団の全てが引き金を引こうとしているこの刹那、リトスが口にしたのはクラヴィオのことだった。そんな彼に、アウラは呆れたように笑う。だがそんな彼らの前に、立つ何かがいた。


「なーに下らないこと言ってんだ。とにかく、間に合ったっぽいな」


3人を守るように前に立ったジャケットの目立つその女、クイックは左手に大型の銃を手にしていた。


 突然現れたクイックに、兵団は最大の警戒を見せてか即座に銃弾を放つ。彼女はいつの間にか銃をどこかにしまっており、銃弾の前に晒されても、何故か苛立ったような顔をしていた。


「バカが!」


そう叫んだ瞬間にクイックの姿がリトス達の前から消え、そして次の瞬間には彼女の身長以上の長さの金属の棒のようなものを手にして、少し離れた位置に立っていた。彼女の周りには、火花を散らした兵団が転がっている。


「あー! シミュレーション以下とかふざけんなマジで! アプデとかされて無いのかよ……!」


残骸となった兵団の一部を苛立ちのままに蹴り飛ばし、彼女は棒を適当に放り投げる。空を回転しながら舞った棒は、地面に落ちることなくどこかに消えた。


「あ、あの……」

「ああん!? ……ああ、そういえばそうだったな」


恐る恐る声をかけたアウラにクイックは一瞬声を荒げたものの、すぐに落ち着きを取り戻した。そしてその視線を、リトス達の後ろで倒れているクラヴィオに向けた。


「そいつ、撃たれてんのか」


クラヴィオの赤く染まった腹部を見て、彼女は自身の腕にある装置を見る。そこに示された移動する一団のシンボルを見て舌打ちをした。


「遅い……! 他の奴らが来るのにもう少しかかるから、取り敢えず止血だ。できるか?」

「任せて。……絶対に死なせない」


リトスが懐から取り出したのは、絵画での戦いを共にした金属の杖だった。彼はそれをクラヴィオの腹部にある傷に当てる。


「まだ、良い旅路(みち)は見つかってないんでしょ? ……絶対に助けるから」


小規模ながらも濃い蒼の奔流が発生し、クラヴィオの腹部の傷に集中していく。それはやがて蒼い結晶になると、傷を塞ぎ出血を止めた。それはかつてリトスがシデロスにしたのと同じだった。


「お、おいおい……! 一体なんだそりゃ! もしかして、お前の能力なのか!?」


リトスの行使した魔術に、クイックはひどく驚いたような声を上げた。それは傍から見るとわざとらしいものだが、彼女は至って真面目に驚いていた。


「えっ? これは、ただの魔術だけど……」

「……これがセイバの言ってた魔術ってやつか。悪い。何せ、魔術は見慣れてないんだ。……なあ、もっと教えてくれよ。他の奴らが来るまでさ」


リトスに詰め寄り手を握るクイックに、彼は先程の彼女と同じように驚いた。また彼だけでなく、その横にいたアウラも同様だ。まるで魔術の結晶のように輝いた眼をしたクイックに押されるように始まった魔術の話は、本来来るはずであった迎えの部隊が来るまで続いた。

第七十九話、完了です。窮地に颯爽と現れたクイックが瞬く間にリトス達を救いました。未知数の強さを持つ彼女は、しかし魔術のことを知らないようで……。どうやらビルガメスでは魔術はあまり馴染みがないようです。彼女の更なる活躍は、次々に出てきますのでご期待ください。では、また次回。

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