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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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78.スタート・アンド・エンカウント【無限の兵団】

 技術大国ビルガメスにおいて、主戦力たる兵たちは他国とは異なり『超人たる』ことを求められない。それは皆が等しく戦士となる兵器たる『銃』と、ほぼ無限に造られ続ける『兵団』による完全に統制された戦術によるところが大きい。

 開いたままの大門を通り抜けてしばらく走ったところで、エアレーは2頭とも倒れてしまった。倒れた音を聞き、リトス達が荷車から飛び出してくる。


「エアレーたちは!?」

「……とりあえず息はあるようですが、かなり衰弱していますね」

「体力の消耗が激しくなっていたか……。でも、生きているならそれでいい」


幸いにもここは高い何かに空を遮られており、雨には当たっていない。弱っているエアレーを心配しながらも、リトスは周囲を見渡す。彼の目には、見たことのない異質なものが数多く映っていた。殆どのことに対しての覚えがない彼はもとより、ペリュトナイから殆ど出たことのなかったアウラにとっても、この光景は異質で、新鮮なものだった。


「それで、ここがビルガメスか……。なんだか寂れてる感じ。門も開いたままだったし」

「そうですね……。ビルガメスは様々な街から多くの人が集う賑やかな国だって聞いていたんですが……」


だがアウラは事前に仕入れていた情報との相違に疑問符を浮かべる。しかしその疑問が解決されることはなかった。妙な気配が、周囲に広がる。


『……あー、テステス……。オッケー。警告する』


突如として聞こえたくぐもった声。どこから聞こえているのか、誰が発しているのかもわからないその声に、3人は警戒を露わにする。


「誰!」

「一体どこから……」

『訳を知らぬ旅人よ。ビルガメスの首都、メトロエヌマにようこそ。早速で悪いが、早急にこの国から去り、旅を続けるがいい』


武器を構えるリトスとアウラに、小馬鹿にするような口調で言い放つ謎の声。それにも怯まず、リトスは続ける。


「誰かは知らないけど、僕たちはここに用事があるんだ!」

「リトス。これは機械によって一方的に話しかけられているんだ。何を言っても……」

『ちゃんと聞こえているぞ。そんじょそこらのスピーカーと一緒にするな。あと用があるんだか知らないが、今はマジで危険なんだ。だから、そうだな……』


少し不機嫌そうになったその声は、少し考えるような間を置く。その間、何かが軋むような音が僅かに聞こえた。


『一か月、いや二か月待っててくれ』

「そ、そんなに待てるわけないじゃないか! だったらここにいる理由は無いね! 2人とも、行こう!」

「いや、ちょっと待ってくださいよ! 移動手段無いんですよ!」

「そうだった……。今更徒歩だなんて、どれだけかかることか……」

『……何やら訳アリっぽいな。後ろのエアレー、動けないのか?』

「こっちの様子まで見えるのか……。そうだよ。黒い雨に打たれたせいか、弱っているんだ」


心配そうに倒れるエアレーを撫でるリトスに、謎の声は唸った後で考えるように黙り込む。その中で妙な気配が一瞬消えた後、少しして復活する。


『……今から迎えをそっちに送る。少しだけ待っていてくれ』


溜息と共に、仕方なさそうな声が響く。その声が少し遠ざかったようになると、辺りに満ちていた妙な気配は消え去った。


「あっ、ありがとう……!」


リトスのこの言葉に、謎の声からの返事は無かった。


 回転椅子に座ったまま、飲み干した空のカップを手にする眼鏡の男に、短い金髪の女が近づく。男のものよりも大きなジャケットをコートのように纏った女は、その顔の大部分を牙を剥く猟犬を模したマスクで覆い隠していた。


「クイック、お前も行くか?」

「いいや。アタシの仕事は戦うことだ。出迎えは違うだろ?」


男の持っていたカップをひったくると、クイックと呼ばれた女はそれを弄りながら部屋をぶらつく。


「まあそう言うなって。しばらくは発生の兆候も無いんだ。だからしばらく、他の仕事でもやっていてくれ」

「……訓練行ってくる」


不貞腐れた様子で部屋から出ていこうとするクイックから視線を外し、男は眼鏡を整える。しかしその直後、何かを感じ取ったように顔を歪めた。


「……待てよ、これはまずいな」


男は眼鏡を拭いた後でかけ直す。そしてジャケットの内側に付けてある端末の電源を入れた。


「回収部隊、回収部隊。こちらシグナル。目的地点に向かって『兵団』が移動中。あと60秒で到着してしまうようだ。急いでくれ」


少し早口でどこかに指示をするシグナル。そんな彼の後ろで、何やらそわそわしている女が1人いた。


「なあ、なあ。行っていいか?」

「無論だ。どれぐらいで着く?」


浮ついた様子のクイックに、シグナルは即答する。そして目の前の画面に映ったマップに目を通し、クイックはベルトに差しているものに手をかけた。


「……そうだな。これぐらいなら1分ってとこだ。準備してすぐに行ってくるぜ!」


それを言いながら、彼女はシグナルの部屋から出ていく。そんな彼女の方を見ていたシグナルは、おもむろに椅子を回転させるのだった。


「……カップ返せよ」


襲ってくる眠気を覚ますものを探すため、シグナルは彼女に続くように部屋から出ていくのだった。


 謎の声が言うままに、同じ場所で待機を続けるリトス達。しかし彼らは遠くから聞こえてくる多くの足音に反応を示す。


「もしかして、迎えが来た?」

「それも結構な数……。見えてきました!」


アウラが指をさす方向からやってくるのは、統一された黒い見た目の一団だった。彼らはそれに手を振るが、一団は誰一人としてそれに返さない。


「……不愛想な人が多いんでしょうか?」


アウラが訝しむうちに、一団は近づく。完全に統一された黒い一団。それらは奇妙なほどに統一された外見をしており、装甲や銃といった武装だけに留まらず、背丈なども完全に一致していたのだ。近づいてきたそれを目にしたクラヴィオの様子が変わる。


「リトス、アウラ、構えろ。何か変だ。こいつらは迎えじゃない」


統一された足音。不気味なほどにそろったそれの主たちは、リトス達から少し離れた場所で一斉に立ち止まり、すべて同時に銃を向けた。


「……人でもないようだ」


銃に対して馴染みが無いリトスとアウラも、目の前の兵団が向けてくる無機質な殺意に対して最大限の警戒を見せ、戦闘態勢に入る。


「……! 来るッ!!」


クラヴィオがそう叫んだ瞬間、乾いた音が辺りに響いた。



 

第七十八話、完了です。ファーストコンタクトは刺激強めになりましたが、裏では何かが動いているようです。この状況を乗り越えた先に、真のビルガメス編が始まるのです。では、また次回。

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