76.意志の旅路【想い続ける者たち】
各地に存在する大都市や都市国家。それらの合間に点在する村や街は、それぞれが独自の特色を持っている。一見ごく普通の村であっても、そこには誰かにとっての『特別』があるのだ。
場所を移して、ここは村の人気のない路地裏。いきなり2人に話しかけてきたその男は、彼らに返事をさせる間もなく『ノシック』と名乗った。
「なるほどなるほどな。つまり君たちは、アマツ国への旅の途中というわけなのか! それは長旅、苦難の旅だ! 心から応援させてもらうよ!」
「あ、ありがとうございま」
「だがな……」
何とか礼を言おうとしたリトスの言葉を遮るようにして、ノシックは話し続ける。まるで、彼の話を聞く気などさらさら無いように。彼の言葉からは、明るさが抜け始めていた。
「その度を終えた後、君たちはどうするつもりなんだ? 君たちはまだ若く、更にはこの先老いることも無い。……その果てに待つ苦難は、旅とは比較にならないものになる」
明るさはすっかり鎮まり、ノシックは真剣な口調と眼差しで2人に語る。これには引き気味だった2人も、彼に向き合って真剣に話を聞くことしかできなかった。
「だから、君たちに提案がある。……若者たちよ、我ら『アムル死想団』と共に歩む気はないか? もちろん、旅は最後まで続けてくれていい。その後で、いいんだ」
ノシックは手を差し伸べる。だが極めて真剣な彼に対して、2人はまだ困惑を残したままであった。
「アムル、死想団?」
「……そうだな。ボクとしたことが、説明を欠いてしまった。盟主殿にも悪い癖だと言われたばかりだというのに……。いいか、アムル死想団とは……」
「おっと、そこまでだ」
不意に聞こえたその声に、全員がその主の方を向く。その先にいた主の姿を確認した2人は、少し驚いたような顔をした。
「クラヴィオ! 相当な量の荷物があったはずでは?」
「数百年生きてる能力者を舐めるな。あんなものすぐに運び終わったぞ。それよりも、探したぞ2人とも。……何やらよろしくないのと一緒にいるようだが」
荷物から解放されてすっかり身軽になったクラヴィオは、安堵の表情を浮かべた後で後ろにいたノシックを睨み付ける。
「いえ、いえいえ。ボクは決して怪しい者では……。それじゃあ、ボクはこれで失礼! 若者たちよ! 良き旅を!」
先程までの様子はどこへやら。ノシックは最初と同じ、不自然なほどに明るい様子に戻っていた。そしてこれまでの流れを全て無視してその場から去っていった。
「良い返事、いつまでも待っているよ。いつだって話は受け入れるからね」
通り過ぎるその瞬間、その声は確かにリトスの耳に聞こえていた。それはアウラも同様であり、辺りをせわしなく見渡していた。
「行ったか……。それより2人とも、大丈夫だったか?」
「何も無かったよ。ありがとう。それよりも、クラヴィオは何か知ってるの?」
路地裏から出るクラヴィオは何も答えない。
「行くぞ。そろそろ雨らしい」
しかしその表情は、絵画の中でイノシオンに見せたのと同じような険しさを浮かべていた。そうして足早に去っていくクラヴィオに、2人はついていくしかなかった。
第七十六話、完了です。新たな者たちの出現と、何やら訳知り顔のクラヴィオ。気になることはありますが、今はまだその時ではなく。ビルガメスまでの道がここにあります。では、また次回。
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