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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
幕間・塔より星を見上げる
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75.意志の旅路【旅の余暇】

これまでのあらすじ

アトラポリスでの騒動の果てに、リトス達は新たな仲間であるクラヴィオを迎え、技術大国ビルガメスまでの道を往く。

 2頭のエアレーがのんびりと草を食んでいる。大地を駆ける勇壮な姿とは打って変わって、それには見る者をどこか和ませるものがあったが、生憎それを眺めて和む者はここにいない。さて、当のエアレーの主人たちはというと、ここから少し離れた場所にいた。


「はい。これで全部だよ。それにしても、若いのに立派なもんだね。でも、本当にこれだけで大丈夫なのかい? それに、どれも高いし持ちがあんまりよくないのばかりだよ? まあ、新鮮なんだけどね」

「いやあ、どうだか……。むぐっ!」

「ええ。すぐに食べるつもりなので、これでもいいんです。それに払うのは私ではなく、彼なので!」


ここはアトラポリスから少し離れた場所にある小さな村。そんな村の中心の広場にある商店の女主人が運んできたのは1つの木箱。その中には瑞々しい野菜や果物といった、新鮮な食材が詰め込まれていた。それを前にして目を輝かせているアウラは、その視線を横で必死に目をそらそうとしているクラヴィオに向けた。


「……これ全部でいくらなんだ?」

「そうだね……。ざっと120エルドってところだ」

「……わかった、わかった。そんな目で俺を見るんじゃない。これで頼む」

「……確かに。ちょうど頂くよ。……兄さん。何があったかは知らないが元気出しな」


藍色の眼鏡の奥の瞳に哀愁を漂わせるクラヴィオに、女主人が慰めるように声をかける。逆立った彼の灰色の髪も、どこか元気が無さげにへたっている。


「ありがとうございました! さあクラヴィオ、これをこのまま運んでください!」

「アンタ俺が断れないのをいいことに色々使いすぎじゃないか!?」


そんな風にしているアウラとクラヴィオをよそに、リトスは1人広場を歩いていた。そこには先ほどまでいた商店以外にもいくつかの店が並んでいる。そんな中の1つがリトスの目を引いた。まるで引き寄せられるように近づいた彼を、忙しそうにしている店員の代わりに、所狭しと並べられた大量の本が出迎えた。


「わあ……! すごい量だ……!」


並ぶ本は様々だ。リトスに馴染みのある魔術についての本や、他には古今東西様々な戦術についての本であったり、芸術についての本。だがそれら以上に、彼の目を引いた本があった。


「『封月神話』……。これは、何だろう?」


それは、同じ区画に何冊も並べられた小綺麗な本だった。だが棚の数段分を占めているそれらは、1つたりとも買われたような形跡はない。不思議そうにそれを見ていたリトスに、流石の店員も手を止めた。


「あー……、それ、気になります?」

「えっ? ああ、はい。やけにこの本だけ多いなって思って」

「まあ、気になりますよね。……こんな辺境で、売れるわけないってのに」


呆れたように溜息をつく店員をよそに、リトスはその本の1冊を手に取ると、店員へと差し出す。


「あの、これ買います。いくらですか?」

「えっ? まあ特価になってるんで40エルドですけど、本当に買うんですか? 馴染みがあるであろう物語の本を? 小綺麗なことしか取り柄が無いようなこれを?」

「……自分の店で売ってるものに対して言うことじゃないでしょ。はい、40エルドです」


代金を渡して本を受け取り、店から立ち去るリトスは、彼の背後で聞こえる少しの困惑が混ざったような店員の言葉を聞き流して、アウラたちの下へと向かう。だが彼が歩き出して少しのところで、向こうからアウラがやって来た。


「リトス、どこにいたんですか? 手に持ってるそれは、本? 買って来たんですか?」

「うん。仕入れすぎて余ってたみたいで安かったから。こんな本なんだけど」


アウラは見せられた本のタイトルを見て、特に驚く様子もなく頷いた。


「これ、『封月神話』ですか。まあ確かに、リトスはこれを知りませんでしたね。よかったらこれについて、教えましょうか?」


アウラの提案を呑もうとするリトス。だが見せた本をしまおうとしたところで、2人の間に誰かが割って入る。


「おお、おお! 最近の若者にしては何とも古風な趣味! 封月神話とは素晴らしい!」


突如割って入った謎の男。のどかな村では明らかに浮いている、毒々しい黄色と紫の外套を纏ったその男は、妙に明るい調子で語り掛けてきた。


「あ、あの……。貴方は、一体……」


ポカンとしているアウラの横で、リトスがおっかなびっくり男の正体について尋ねる。


「おお、そうだな! だが、その前に1つだけ……」


男はその調子を崩さずに、だが次の瞬間には不気味なほどの落ち着きを見せる。


「若者よ。君たちは、能力者だろう?」


男のその問いは、2人に恐怖を与え、驚かせることになるのだった。

第七十五話、完了です。正真正銘の日常回、となればよかったんですけどね。はい、というわけでこの幕間である『塔より星を望む』では、また新たな要素をぶっこんでいきます。このまま続けて行きますので、今後ともよろしくお願いします。では、また次回。

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