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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
アトラポリス編・停滞の巨塔
88/151

73.巨塔の騒々しい平穏

オブリヴィジョン人物録vol.9+


パレット

性別:女

出身:クラヴィオの絵画

年齢:不明

肩書:画家の助手

能力:キュビリントスの夢幻(むげん)(絵画のほぼ永続的な実体化。しかし使用と共に身体が薄れていき、色が完全になくなると崩れ落ちる)

好き:クラヴィオ、青空と小高い丘の絵

嫌い:剣、金属を打つ音


クラヴィオが描いたある少女の絵画が、イノシオンの能力によって実体化した存在。実体化の際にイノシオンの能力の一部を奪っており、それを使って彼らの絵画脱出をサポートしていた。自身の限界、すなわち自身の死に際を悟っており、しかしそれを知りながらも、彼女は最期までクラヴィオたちのためにその身を捧げ続けた。ちなみに彼女のモデルになった少女のことを知るのは、クラヴィオただ1人である。

 身体を縛る拘束と目の前にいる少女が、ここを現実ではないことを示す。


「お疲れ様。貴方は無事に帰ってこれたよ」


目の前のメガロネオスが、あの時と同じような労いの言葉をかける。僕もあの時のように信じられないほど落ち着いている。だが涙は出ず、意識もぼやける気配はない。


「それと、早速なんだけど……」


だが次の瞬間に、メガロネオスは困ったような顔をする。何のことかはわからないが、そういえばなんだか熱いような……。


「早く起きた方が良いよ。その、外が大変なことに……」

「え?」


僕が返事にもならないような返事をした瞬間、空間が光に包まれた。これは、強制終了ということなんだろうか。そして全てが不明瞭になり、僕の意識は沈んでいった。


「リ……! リトス……! 目を開けてください! 早く起きてくださいリトス!」


肌に当たる熱さとアウラの声で、リトスは目を覚ます。彼らがいるのは、最初に彼らが訪れたアトラポリスの大画廊、その下層だった。彼らはどうやら無事に帰ってこられたらしい。だが目を開け起き上がって早々、彼の意識は即座に明瞭になる。


「も、燃えて……! 燃えてる!!」

「そうなんですよ! 帰ってこれたのは確かなんですけど、画廊全体が燃えてるんです!!」


確かにここは、彼らが訪れた大画廊だった。しかし最初と決定的に違ったことは、大画廊全体が、先ほどまで彼らがいた淵源深の画廊と同じように燃えていたということだった。リトスの覚醒を待つ中でアウラの焦りも増していたのだろう。彼女は今すぐにでも逃げ出さんとしていた。


「早く戻りますよ! それで、すぐにでも出発しましょう!」

「う、うん! こんなところ、もう早く出てしまいたいよ……!」


アウラは走り出す。まるで能力でも使っているかのような彼女に続くような形で、寝起きと言ってもいい状態のリトスも走り始めた。火事場の馬鹿力と言うのか、普段の彼ではおおよそ出せないような速度が出ていた。


「僕たちが泊まっていた場所は覚えてる!?」

「アトラポリス旅人街第6宿泊所です! さあ急ぎますよ!」


大扉を通り、炎が広がっている白い回廊を走り抜け、彼らは大階段へと差し掛かったかと思うと、猛スピードで走り降りた。昇ることにあれだけ苦労していたこの大階段だが、降りるとなれば話は別だった。


「あれ、貴方たちはこの間の……! 2日間も、ずっと画廊に……!」


途中で声をかけてきたケトのことも無視して、2人は走り降りていく。


「……まあきっと、寝食も忘れて鑑賞に没頭してたんでしょう。……薬の副作用も、大したことなかったようですし」


走っていく2人を目にして、ケトはただ不思議そうに首をかしげるだけであった。ちなみに彼らは知る由も無かったが、彼らが絵画の中にいた2日間の間に、市民街と大画廊を繋ぐリフトの修理工事は完了していたのだった。


 市民街から旅人街のリフトに乗って、2人は無事に宿泊していた部屋へと戻ってきていた。


「鍵は、えっと……。あった! これこれ……」

「よく失くしませんでしたね!」


ドアが開いた瞬間、アウラは何かを持って浴室に飛び込む。それはリトスが部屋に入ろうとした瞬間に起こったことであった。


「……あんなアウラ、初めて見た」


アウラが飛び込んだ後で、リトスはベッドに広げてあるままの自身の荷物に目を向ける。


「……」


置いてある荷物の横。そこにある白く長い杖を手に取ると、リトスは懐かしむような顔でそれを眺めた後で、腰に差した。


「2日しか経ってないのに、こんなにも懐かしいなんて……」


しばらく感傷に浸るリトスだったが、少し経つ頃には荷物を片付けるべく手を伸ばしていた。その時、彼が手に取った箱から紙が1枚落ちる。そこに書いてあった文字を読み、リトスは微笑んだ。


「最高の使い心地だったよ。リジェネラル」


彼は箱を開け、そこに金属の杖を戻そうとするが、思い直してベルトに差し込む。短いためか、そこまで邪魔に放っていない様子だった。


「よし、片付けよう」


空の箱をはじめとし、彼は荷物を片付け始めた。そして彼がちょうど荷物の片付けを終えた頃、多少はさっぱりした様子のアウラが浴室から出てきた。


 すっかり荷物を片付けてしまったリトスが風呂から出てきても、アウラは荷物を片付けていた。


「これから、どうするの?」


暇を持て余してか、リトスが答えのわかっている質問をぶつける。


「さっきも言った通り、準備が整い次第この街を出ます。……戻ってくる最中に街の様子が見えたんですけど、もう情報収集どころではありませんし、騒動に巻き込まれたらたまったものではありませんからね」


ある程度の収納が終わり、アウラはカバンの口を閉める。


「物資に関しても、夜会旅商店(タビヨミセ)で買ったものがまだ残っていますし。だからこれ以上ここにいるのは得策ではないと思うんです」


カバンを担ぐが早く、アウラはドアへと向かっていく。リトスもそれに続く。


「じゃあ、行きましょうか」

「うん。……短いけど、濃い2日だったな」


荷物を持った2人が去り、誰もいなくなった部屋に鍵を閉める音がこだまする。街の喧噪など嘘であるかのように、部屋は静かであった。

第七十三話でした。無事に絵画から現実に帰還し、本人たちは大変そうですが日常に帰ってきました。あれだけ長くやっていたようなことでも、実際には2日しか経っていなかったんです。彼らの言う通り、これからアトラポリスを出て旅路を再開させます。では次回、アトラポリス編最終回。

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