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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
アトラポリス編・停滞の巨塔
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67.憧憬の闘争【憧れの英雄】

 父の死より間もなく、私は画廊主となった。それ以降はこれまで以上に絵画の蒐集に力を入れるようにもなった。大画廊運営という口実が出来たがために、これまでよりも格段にやりやすくなったのだ。もちろん仕事も真剣にこなした。自らの手で大画廊を管理し、絵画の全てを丁寧に扱った。しかし、どうにもつまらない絵画たちだ。多くの者たちの目に触れてきたそれらは、かつてあったはずの神聖さを失っていた。だがこの場所の特性上、こうなるのは仕方ないのかもしれない。なんと、悲しいことであろうか。


 蒐集の中で、私は1人の画家に出会った。彼の絵画はどれもこれも凡庸ではあったが、どこか言い知れぬ激情を感じることが出来た。それを彼に伝えると不機嫌そうにしていたが。彼は多くの絵画を私に譲り渡した。何なら、その場で何枚か描いてよこしてもきた。しかし彼が大事そうにしている1枚の絵画だけは、頑として渡そうとしなかった。一瞬だけ見えたその絵画。青空の下で微笑む少女の絵画には、これまで彼の絵画に感じた激情とは全く違う、しかし遥かに強い感情が宿っているのを感じたのだ。私はそれが、どうしても欲しくなった。

 降り注ぐ剥滴の雨。それを真っ先に発見したのはイゼルだった。


「敵の増援だ。可能な限りそちらの対処を」

「くそっ……。了解!」


しかしおびただしい数の剥滴を目にしても、イゼルの指示は的確だった。その指示に即座に兵たちが反応し、標的を切り替える。


「その『英雄』の相手をしている者も剥滴の対処に回れ」

「なっ……! その後はどうするつもりなのですか!」


続けて与えられたイゼルの指示は、一見すると非常にリスクの高いものであった。現状多人数で相手にしていてもまるで勝負にならない武神との戦闘を後回しにしろと言っているのだ。それには戦闘中だった兵の1人も戸惑いの声を上げる。だがそれに対するイゼルの返答に、兵は更に混乱することになる。


「ワタシが単独で相手をする」

「何を言って……! 隊長! 隊長!!」


兵が制止する声も虚しく、イゼルは結晶の短剣を両手に構えて武神へと突撃していった。そして叫んだ兵も、押し寄せる剥滴の対処に追われてそれどころではなくなってしまうのだった。


「さあ、お相手願おう。憧憬の英雄よ」


走りつつ短剣を合体させ、2つの刃が重なったような形状に変化させつつ近づきながら、イゼルは呟く。それは目の前の標的に向けられたものにも、彼自身に語り掛けているようにも聞こえた。それから一瞬の後、辺りに金属音にしては妙に澄んだ音が響く。


「見せてもらおうか。神話に語られる英雄の力というものを」

「……!」


短剣の一撃は大鎌に受け止められていた。しかしそれらはぶつかり合ったまま動かず、互いに拮抗し合っていた。それに武神は、初めての反応を見せる。それは互角の力を持つ者への驚きか。或いは写し身に宿った戦士の本能か。それは誰にもわからない。こうして、神話に語られる英雄と、今を生きる強者同士の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。


 一方でリトス達は、突如として目の前に現れた未知なる敵に、苦戦を強いられていた。


「剣が、当たらない……? どうなって……」

「魔術も効かない剣も当たらない……。これは本当にどうすれば……」


リトスが放つ魔術もアウラの剣も、王に当たる直前に混色の障壁に阻まれる。現状、王の純白の体躯には傷はおろか、汚れ1つ付いていなかった。


「剥滴も無尽蔵に沸き続けているな……。幸いにもこっちに来るのは少ないようだ、が!」


白い軌跡で剥滴を倒しながら、クラヴィオは王の下へ向かおうとする。しかしそれは、突如としてせり上がった混色の壁に阻まれてしまった。


「あっ! まずい! クラヴィオ!」

「どうしましょう……。2人で相手にしなきゃいけなくなっちゃいました……!」


混色の壁は見事にリトス達とクラヴィオを分断してしまっており、壁の内側ではリトスとアウラが、王と相対していた。心配するリトスに、壁の向こうからクラヴィオの声が聞こえる。


「こっちは問題ない! アンタたちはとにかく生き残ってくれ! 俺も剥滴どもを片付けて、壁を破ってそっちに向かう!」

「……わかった! 僕たちも、精一杯やってみるよ!」

「意外とたくましい人なんですね。彼って」


壁の向こうから聞こえるクラヴィオの声と大筆の穂先が空を切るような音で、リトスはクラヴィオの無事を認識する。それはアウラも同様だったようで、少し笑った後で王の方へと向いて剣を構えた。


「さて……。じゃあ私たちもやりましょうか」

「今のところ有効な手は無いけど、どうする?」

「被害を受けないように攻撃を続けましょう。今は無策が策になります」

「わかった。……アウラも随分無理なことを言うね。セレニウスに似てるかも」

「……そんな。私なんて、まだまだ遠く及ばないですよ」


2人が会話を交わすその間に、王は腕を広げる。堂々たるその姿はまさしく王と形容するにふさわしいいで立ちであり、相対する者を威圧していた。しかしそれに気圧されることもなく、2人の若き戦士は戦いに臨む。ここでも、未来への一歩たる戦いが始まるのだった。


「……分断されてからやる気になった? おかしな人たち。本当に愚かなものね」


そして古城のバルコニーから、イノシオンは戦闘の行く末を見続けるのだった。

第六十七話でした。混戦状態だった戦闘はマッチアップが絞られて、しっかりとしてきました。次回からはちゃんとした戦闘が始まります。では、また次回。

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