表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
アトラポリス編・停滞の巨塔
80/151

66.憧憬の闘争【色彩交差】

 楽園の巨塔の完成から、私のあらゆることが好転した。私の蒐集はこれまで以上に順調に進み、更には巨塔の絵画が話題を呼んだことで、大画廊の訪問者達からの評判は鰻登りだ。この頃には画廊主たる私の父は病で床に臥せっており、実質的に私が実権を握っていた。私が画廊主の座を継ぐことに、誰もが納得していた。そして私自身も、画廊主を継ぐことに意欲的であった。そうすれば、今以上に自由に蒐集にいそしめるからである。そして程なくして、父は病死した。

 絵画の英雄と、今を生きる戦士たち。片や単独、片やおおよそ小隊規模。数の差は圧倒的であり、勝負はすぐに決するように見えた。


「どうして当たらないんだ!? 圧倒的な数の差があるというのに……!」


だがそれは、決して現実にはならない。舞う落ち葉のように剣を躱し、流れ落ちる滝のように槍の刺突を意に介さない。その返礼とばかりに振るわれる大鎌は、兵たちに触れずともその風圧だけで彼らを吹き飛ばした。


「流石は武神、神話の英雄だ。ワタシたち全員を相手取って傷1つ無しとは」

「イゼル隊長! このままでは少しずつこちらの戦力が削られてしまうかと……!」

「そのようだ。どうにかして状況を覆し……。待て、あれは何だ」


戦闘の途中だというのに、イゼルはよそ見をしている。しかしそうせざるを得ない状況が、彼の目の前に広がっていたのだ。


 一方リトス達は、ルオーダ兵団の戦いの場からは離れた場所で、彼ら自身の戦いを繰り広げていた。とは言っても、その様子はルオーダ兵団の戦いとは違ったものだった。


「また剥滴たち……! イノシオンは!?」

「見当たりません! 恐らく、逃げたと思います!」


この戦場に、首謀者たるイノシオンの姿は無い。戦いに紛れていなくなっていたのだ。だが、彼女は厄介な置き土産を残していった。それが、今リトス達の戦っている異景の源泉だった。


「源泉は一回戦っているから対処法はわかる。でも……」

「まさか源泉が複数体いるだなんて……! そのせいか、剥滴の数も随分と多いですね……!」


結晶の雨を降らせ、剥滴を硬化させていく。一度対処法を知った以上、その方法をとるのは自明であった。しかし、現実はそうはいかない。


「剥滴が多すぎる! これじゃ固めてる場合じゃない!」


固めるに十分な蒼晶弾を展開しようにも、それは波のように押し寄せる剥滴への対処へと消費される。ままならないこの状況に、リトスも苛立ちを隠せずにいた。


「冷静になれリトス! それじゃあアンタの真価を発揮できないだろう!」

「剥滴の処理は私たちに任せて、リトスは源泉の対処をお願いします!」


クラヴィオとアウラの言葉が、そんな彼を少しだけ冷静にする。アウラの振るう切っ先が、クラヴィオの筆先に走る白色の軌跡が、その言葉の通りに立ちはだかる剥滴を次々に散らしていく。切り裂かれた剥滴はもちろん、白い軌跡に触れた剥滴は、塗りつぶされたようになって動かなくなり、消えてしまう。


「……本当に、ありがとう。これならいける!」


調子を取り戻したリトスに呼応するかのように、蒼い奔流が駆け巡る。奔流は結晶を作り、そして砕け、それを繰り返し続ける。そうして出来た星空のような光景は、目の前に広がる異質な光景を討ち晴らすには十分なほどの輝きを放っていた。


「少し多めに……、『メガロック・豪風(サイクロン)』!!」


そうして放たれた結晶は、まるで竜巻のように荒々しく吹き荒れ、複数の源泉へと向かっていく。そうして竜巻が通り過ぎた後には、直前まで異景だった塊が並び立つのみとなった。程なくして、それらも崩れ落ちる。


「……まだ、終わっていない」


崩れゆく異景を見据えることも無く、リトスは宙に浮かぶ深い青色の球に向けて蒼晶弾を1つ飛ばす。


「……」


しかしそれは、着弾する直前に何かに弾かれたかのように明後日の方向に向かって飛んで行った。その直後、何かがリトス達の前に降り立つ。


「……」

「何ですか、あれ……」


それは、剥滴と同じように人の姿を持っていた。しかしそれらと決定的に違っていたのは、堂々たる立ち姿と、何も描かれていない真っ白な姿だった。それは、ただゆっくりと近づいてくる。


「リトス、取り敢えず攻撃だ!」


クラヴィオが叫ぶと同時か、それよりも早くリトスが蒼晶弾を放つ。それは真っすぐに標的へと向かっていき、当たるのは確実と言えた。


「……」


だがそれは、当たる寸前に突如として現れた混色の壁に阻まれて防がれる。そして壁が融けて消えた時には、放たれた蒼晶弾が跡形もなく消えていた。


「リトス。こいつはこれまでの異景のクソ共と比べて段違いに強い。まさしく『王』にふさわしいだろう。用心してかかるぞ」


改めて大筆を構えるクラヴィオのことなど気にする様子もなく、『異景の王』は僅かに輝く。すると、それに共鳴するかのように球も輝きを放ち、無数の飛沫を撒き散らし始めた。


「あれは剥滴か! 拙い……! 向こうの戦場に飛んでいくぞ!」


気付いた時にはもう遅く、無数の剥滴がルオーダ兵団の元へと飛んでいくのだった。


「もう王を引き出すなんて。案外侮れないものね」


ルオーダ兵団とリトス達。2つの戦場を両方見渡しながら、イノシオンが呟く。彼女の無感情な顔を淡い赤光が照らし、風が頬を撫でている。石の手すりに手をかけて、彼女は戦いの光景を見続ける。


「でも結果は変わりそうにないわね。……私の英雄が、負けるわけないもの」


イノシオンの目に映るのは、多くの兵士たちを相手に悠々と立ち回る武神の姿だった。その姿を見る彼女の目は、期待と羨望の色を宿していた。

第六十六話でした。戦闘が始まり、強敵が現れました。戦いはまだ始まったばかり。話は広がっていきます。では、また次回。

よろしければブックマーク、いいね、感想等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ