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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
アトラポリス編・停滞の巨塔
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57.比類なき絶踏【春は、遥か遠く】

これまでのあらすじ

絵画からの脱出を目的とした絵画脱出遠征、その第一段階である熱鍵作戦は、リトスやアウラ、絵画の中に迷い込んでいたルオーダ兵団アトラポリス隊の兵たち、そしてクラヴィオやパレットによって無事に完遂された。そんな彼らの行く先に待ち受けるものとは……。

 氷が解けても、大扉は重く開く様子を見せない。


「では開くとしよう。ストラダ、鍵は持ってきているな?」

「ああ。ここに」

「よし。ではパレット、鍵穴を」

「もうやってるよ。ストラダ、よろしく」


扉に押し当てていた葉書ほどの大きさのキャンバスを離し、実体化した鍵穴を露わにする。彼女の持つキャンバスには、赤色で塗りつぶされた鍵穴があった。ストラダは扉に実体化した鍵穴に、古びた石の鍵を差し込んだ。リトスとアウラはその鍵を見て、反応を示す。


「あっ、その鍵は……!」

「イノシオンさんが使っていたのと同じ鍵じゃないですか! どうしてそれをストラダさんが?」


鍵が穴に吸い込まれたのを確認した後で、ストラダが振り返る。


「ああ。私は元々画廊の関係者だからな。だからこうして、画廊の扉を開ける手立てを持っているわけだ」


振り向く彼の後ろで、大扉が音を立ててゆっくり開く。長く開くことのなかったせいか、動くと共に小石が落ちていた。


「さて諸君、ここから先は未知の領域だ。ここから先に到達した者は誰もいない。1人を除いてな」

「イゼル隊長……」

「ああそうだ。そして、これ以降の作戦遂行に必ず必要となる。なので、これより我々はイゼルの救出に出向く」


探し人に確かな心当たりのあるスケイルの斧を握る手に力が籠る。ここでアウラが1つの疑問を持った。


「あの、何故することの中に捜索が入ってないんですか? まるで場所は知っているかのような言い方でしたけど……」

「その通りだ。俺たちはイゼルのいる『場所』は把握している。もっとも、その『場所』へどうやって辿り着くのかは知らないのだが」

「よし。ここからは私が説明しよう」


考え込んだようなクラヴィオを押しのけて、ストラダが前に出る。


「君たちが来る少し前のことだ。イゼルがいなくなって1か月ほど経った頃だったな。突如として私やクラヴィオ、パレットの目にとある絵画が映ったんだ。あまりにも一瞬のことで大いに戸惑ったものだが、それを元にクラヴィオが描いたのが、この絵だ」


そう言ってストラダが取り出した小さなキャンバス。そこには激しく燃え盛る炎に囲まれた迷宮が描かれていた。


「これ自体はクラヴィオが描いたものであって、この中にイゼルがいるわけではない。しかし私はこの絵に見覚えがある」

「それは、どんな絵なんですか?」

「これは『凍てつく焦燥』。私としても、少々印象深い絵画だった。そもそも……」

「詳しいことは現物を見つけてからにしよう。今は先へ進むことが何よりだ」

「そうだね。必要なことは、必要な時に知ればいい」


クラヴィオと共に並び立つリトス。彼らはただ、開いた扉の先を見据えていた。


「幸いにも邪魔するものは何もない。何が起こるかわからない環境である以上、やれるときに事を運ぶべきだ。行こう、諸君」


歩き出すクラヴィオとリトスに、続くのはここにいる全員。混色の渦巻く回廊には最早用などなく、彼らの意識はその先に向いていた。


 扉を抜けると、そこは白で統一された無機質な回廊だった。ただ所々、不自然に凍結したかのようになっていた。そんな回廊を、クラヴィオたちの一団は進んでいく。


「そういえばさっきから気になっていたんですけど」

「ん? どうかしたか?」


歩きながら、アウラがスケイルに話しかける。それなりに長い道のりを、ちょうどよい機会であると考えたのだ。


「そのイゼル隊長って、どうやって1人であの扉を通ったんですか? 私たちが見た時は、とても通れそうになかったのに……」

「まあ簡単に言ってしまえば、隊長自身の能力を使ったんだ。その都合上、あの人1人しか行けなかったんだよ」

「えっ? どんな能力なんですか? それでどうやって通ったんですか?」

「……実際にどうやったのかはわからないんだが、あの人の能力はまさに『規格外』なんだ。私たち隊員はもちろん、同期たる別隊の隊長たちもその全容を把握しきれていないらしい」

「そんなにですか……?」

「ああ、そんなにだ。……おっと。この話はまた後で。本人を交えて行うとしよう」


歩みを止める一団に続き、立ち止まるスケイルとアウラ。彼らの先には無数の傷がついた白い壁があり、絵画の外の同じ場所にあったはずの扉の代わりに巨大な絵画がかけられていた。


「よし……。着いたな」


絵画を見上げる一団。皆が息を呑み圧倒される中で、クラヴィオとストラダだけが冷静だった。


「さて、諸君」


告げるクラヴィオは、絵画から目線を外さないままパレットに合図を送る。


「せっかちな隊長殿を迎えに行こうか」


絵画に近づくパレットをよそに、クラヴィオはリトス達に向き直り、時が来たことを告げるのだった。

第五十七話、完了です。絵画脱出遠征も新たな展開を迎え、未知数の戦力の片鱗が見え始めました。新たな絵画を舞台に、物語はまた広がっていくのです。では、また次回。

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