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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
アトラポリス編・停滞の巨塔
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55.画鍵と開炎の去凍【渦巻き猛る仮初業火】

 炎か。……そうだな。あまりいい思い出は無いが、だからと言って完全に切り離すわけにもいかないんだ。……出来ることなら、すぐにでも手放してしまいたいほどだよ。

 立ちはだかる剥滴など、最早脅威とも見なされない。


「さあ進軍だ! 滴は振り払え! 目指すは源泉のみ!!」

「うおおおおお!! 攻撃が通るなら恐れる必要はないな!」


少しぎこちなく波打つ巨体目掛けて進撃する兵たち。その通りがかりに、剥滴は切り散らされる。そして先陣を切って進軍していた兵の1人が、手にしていた剣を大きく振りかぶる。


「やっと、一撃だッ!」


振り下ろされた剣は少し引っ掛かったように止まりかけた後、巨体を砕いて振り抜かれる。それに続くように、他の兵たちも各々の武器を振るった。


「……! 待って、そこは……!」

「はああああッ!!」


何かに気付いたリトスが兵の1人を静止する。しかしそれでは止まらず、兵の持つ槍が巨体に突き刺さる。そして、不自然なほどにすんなりと突き通る。


「何!? ここは固まっていないのか……!?」

「僕がさっき触れた部分しか固まってないんだ! 皆! 一旦離れ______!」


慌てて叫ぶリトスだったが、それよりも僅かに早く、巨大な粘液の腕が横薙ぎに振るわれた。


「まずい! しゃがめ!!」


最初に気付いたのは、先陣を切っていたスケイルだった。彼の号令により、兵の多くはその場でしゃがんで腕を回避する。しかし何人かは、僅かに対応が遅れた。


「そんな、どうし……」

「話とちが……」


口々に何かを言いかける彼らは、皆一様に腕の一撃をもろに食らって壁に叩きつけられる。水っぽい音の中に、少し性質の違う音が混ざっていた。そして振るわれた腕と同じように、いつの間にか源泉から生えていた混色の触手がうごめくように振るわれ始める。


「……! 動ける者は彼らを離れた場所へ! 他の者は……、今は回避だ!」


しかしこんな時でもスケイルは冷静だった。的確な指示を飛ばしてその行く末を少し見届けた後、彼は急いでリトスの元へと駆け寄った。


「……リトス。これはどういうことだと考える?」

「……僕の能力の届く範囲には限界があるんだ。剥滴みたいな大きさなら問題ないけど、あんなに大きければ一部しか固められない……」


2人が話し込んでいる間にも、触手は縦横無尽に暴れている。動きはそこまで早くないながらも数の多いそれを、2人は懸命に回避する。


「……だったらどうする」

「僕もこんなことは初めてなんだ。どうすれば……」

「!? リトス! 後ろだ!!」


突如叫ぶスケイルの声に、リトスは即座に反応する、だが僅かに遅かった。振り返ったリトスの眼前に迫りくるのは巨大な触手。それは彼の視界を混色で覆いつくし、叩き潰さんと襲い掛かってきた。咄嗟の回避も間に合いそうにもない。故に彼がとった行動は単純、しかし彼にしかできないことだった。


「メガロネオスッ!!」


咄嗟の硬化。それは確かに彼の身を守ることには成功したが、彼の意識を保つには至らなかった。触手の直撃を受け、リトスは意識を手放した。


 またこの展開だ。もう何度目だろうか。僕はまた拘束着を身に着けて椅子に座っている。そして目の前には、何故かニヤニヤしているメガロネオスがいた。


「今回は何のつもり?」

「リトス、苦戦してるでしょ。能力を使っても対処しきれない。それで、悩んでるんでしょ。そんな必要も無いのにさ」


僕が持っていたはずの杖をくるくると回しながら、メガロネオスが僕を見て笑う。無性に、腹が立つ。


「この……!」

「その辺にしておけよメガロネオス。……こいつも困ってるだろ」


そんな彼女の手を掴んで止めたのは、深くフードを被った誰かだった。声からして男だろうか。しかしその雰囲気と見えた手から、僕とそう歳は変わらないようにも見えた。


「あの、君は」

「悪いんだけどよ、まだその辺を明かすわけにはいかないんだわ。……お前がその気になったら、話は別だけどな」


杖をメガロネオスの手から取り、それを僕の拘束着の隙間に挟んでくる。


「全く。■■■■■■はつまらないなぁ。……まあいいや。ねえリトス。君は自分の力を全部把握しきれてないんだよ。君の力なら、あんなドロドロ簡単に倒せる」

「いや、でも能力を使ったって、あれを全部固めるのは」

「無理だって言いたい? 自分自身を見くびってどうするの? ほら、君の持っているそれは何? 能力とは違う、もう1つの君の力でしょ? それをもっと活かしてみたら?」


突如として僕の胸元で杖が蒼く光りだした。その光はだんだんと僕の意識を薄れさせ、現実へ引き戻そうとしている。


「ほら、リトス自身の力もやる気だよ。そうだな……。私としては、素敵なコラボレーションを楽しみにしているよ」


僕に向かって手を振るメガロネオス。そんな彼女の姿を目にして、僕の意識は現実へと戻っていくのだった。


 目を覚ましたリトスは、すぐに自身の手を確認する。そこには確かに杖がある。それを確かに認めると、彼は即座に距離を取りだした。


「リトス! 目を覚ましたかと思えば、一体どういうつもりだ!?」

「わかったんだ! 僕の力が、攻略法が!」


距離を取りながらも、蒼晶弾の展開をするリトス。だが今回はそれだけではなかった。


「弾が、砕けていく……?」

「これだけ大きな相手なら、弾数を増やさなきゃ届かない! 今必要なのは『質』より『量』だ!」


彼の周りに展開されていく蒼晶弾。それは展開されるたびに砕けていき、しかし変わらずその場に浮遊し続けている。その様はまるで、星空の中に存在しているかのようだった。


「……今度こそ、アウラに倣って」


手にした杖から放たれる蒼光は、これまで以上に強く輝いていた。その光が、礫の1つ1つに更なる輝きを与えていた。そのただならぬ輝きに、この空間にいる兵たちは皆釘付けになっていた。そして剥滴や源泉すらも、どういうわけか動きを止めていた。


「『メガロック・(レイン)』!!」


そしてリトスの叫びと共に、蒼光の礫が放たれた。それらは分散して飛んでいくと、源泉の全体に広がるように波紋と共に着弾した。混色を維持しながらも、その内側に微かな蒼光を湛える源泉。だがその直後、異変が起きる。


「見ろ……! 源泉が固まっていくぞ!」

「源泉だけじゃない……! 周りの剥滴も、徐々に固まっていく……!」


暴れていた触手はまるで凍り付いたかのように動きが鈍くなり、やがて石像のように動かなくなる。それは、周囲の剥滴も同様だった。


「よし、これで……!」


リトスは確信した。これが、この殲滅戦の決定打、終止符になると。そしてそれはスケイルも同様だった。


「今だクラヴィオ殿!! 熱鍵作戦、始めてくれ!!」


声の限り、スケイルが下層に向かって叫ぶ。それは人の出したとは思えない声量で、下層にいるクラヴィオたちにも十分届いた。そしてそこから間髪入れず、スケイルが兵たちに指示を飛ばす。


「撤退開始だ! これ以上構っている場合ではないぞ!!」

「了解!」


号令と共に兵たちは一斉に階段を駆け下り、リトスとアウラもそれに混じって行動する。そうして回廊の上層に残されたのは、動けずにいる混色の群勢だけだった。


 凍てつく回廊の下層。今か今かとその時を待つ3人は声を聞く。


『今だクラヴィオ殿!! 熱鍵作戦、始めてくれ!!』

「……ようやくか。パレット! 始めるぞ!」

「よーし……。気合入れて行くよ」


突如として響いたその声。聞き届けたクラヴィオは、パレットへと指示をする。それを受け、パレットは地面に置かれた絵画に手をかざして目を閉じた。


「……キュビリントス。冷たい炎に、熱を宿して」


彼女のかざした手の指先から、明るい赤色の滴が一滴落ちる。それが絵画に落ちた瞬間に、大きな炎の柱が立った。


「始まったか。程なくして他の炎も燃え出すだろう。……奴らも無事に逃げているようだな」

「……いやこれ、大丈夫か? 途中で炎に囲まれて降りられなくなるんじゃないか?」


炎の柱を見上げながら、上層に目をやるクラヴィオ。だがその横でストラダは、心配そうにしていた。


 一方で兵たちは、必死の形相で階段を駆け下りていた。彼らの横や背後では、炎が激しく燃え盛っている。


「まさか私たちの描いたあの絵が、こんな使われ方するだなんて思ってませんでした!」

「それは私も同感だ! しかしこれが作戦とは、随分と単純だが確実な……!」

「言ってる場合じゃないよ! このままだと皆焼け死ぬって!」


リトスの言う通り、彼らのスピードよりも炎の方が僅かに早く、その差を少しづつ縮めていた。


「だがもう中層の終盤だ! あと少しで……!」

「スケイルさん! 前! 前!」

「前!? こんな時に何を……! な、何だと!?」


背後に話していたスケイルはアウラに言われて振り向いた。そして目の前に炎の壁が迫っていたことに気付くと、慌ててその足を止めた。


「どうするんですか!? このままだと降りられませんよ……!」

「こうなったら最後の手段だ。全員聞け! これから……」


こんな時でも冷静に、スケイルは全体を指揮する。これこそ、彼が次期隊長と言われる所以なのだ。


「全員で下層に向かって落下する! さあ、吹き抜けに飛び込め!!」

「……え?」

『えええええっ!?』


最早半分ほど自棄になったようなスケイルが、吹き抜けを指さして叫ぶ。そんな彼の発言に、兵はもちろんアウラまでもが驚きを隠せなかった。


「……あっ!」


しかしリトスだけが、何かに気付いたかのような様子を見せたのだった。

第五十五話、これにて完了です。ついにリトスにも魔術以外の技名付きの技が。私、こういうの考えるのが大好きなんですよね。さあこの作戦もやることがほとんど済みました。あとは全員が無事に下層まで降りきることです。それでは、また次回。

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