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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
アトラポリス編・停滞の巨塔
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52.画鍵と開炎の去凍【影炎ゆる】

オブリヴィジョン人物録vol.8


アウラ

性別:女

出身:ペリュトナイ

年齢:17歳

肩書:旅人

能力:ボレノロスの乗風(じょうふう)(自身の加速。風が吹いている時は更に効果が増す)

好き:誰かと過ごす時間、食事

嫌い:飢えること、過去の自分を振り返ること


リトスと共に旅をする剣士の少女。亡くなった同胞たるカルコスの槍を修復することを目的の1つとして、リトスと共にアマツ国への旅を続けている。若いながらも高い戦闘能力を持っており、特に能力による高速の戦闘は格上の強者にも通用する。更には能力自体にも未知の部分があり、彼女自身でさえ把握しきれていない風を吹かせる力も有している。

 熱鍵作戦を掲げて早く、場所は変わって凍り付いた大画廊。凍てつく空気の中で、行われていたのはかなり地味な作業だった。


「……よし。この辺はもう十分かな。他はどうだ!?」

「こっちも大体設置終わりました! 剥滴も発生しておらず、順調です!」


無数に並ぶ絵画の合間に、無数に用意された炎の絵画を並べてゆく。青を中心とした絵画の合間に明るい炎の絵画が並ぶ様子は、乱雑に描かれた帯のように、ただひたすらに派手だった。


「……ふう、ふう……。何枚あるんだろうこれ……」

「驚いただろう。君たちが描いた量はごく一部に過ぎない。この枚数に至るまでに、恐らくはここにいる全員がこの絵を描いている。……私も描いたものだよ」


虚ろな目でぼやくスケイルと共に、リトスは絵画を壁に設置していく。この作業にいかなる意味があるのか、今のリトスには分らなかった。


「リトス、スケイル! もうそれくらいで十分だ! 下層に集合!」

「了解した! ……だそうだ。行こうかリトス」

「うん。……絵が何枚か余ってるけど、どうしようか」

「まあ、その辺に立てかけとけばいいんじゃないか?」


リトスは数枚のキャンバスを壁に立てかけ、スケイルと共に回廊に向かう。今はまだ冷たい炎たち。それらが意味を成すのは、まだ先だ。


 一通りの作業を終えて、下層に集合した面々。そんな彼らの中心にはパレットおり、その手には炎の絵画の1つがあった。豪快かつ繊細な色使いに、躍動感のある絵のタッチは、他の絵画と比べても明らかに出来が違った。


「諸々の準備ご苦労だった。それでは、熱鍵作戦の仕上げと行こうか。……パレット、頼んだ」

「……待ってたよ。じゃあ、始めるね」


クラヴィオの合図と共に、パレットは持っていた絵画を地面に置く。まるで1つの焚火のように置かれたそれに手をかざした彼女は、しかし次の瞬間には手を引っ込めてしまう。


「どうした?」

「……ちょっとまずそうだね。剥滴が来る……!」


視線を上に向けたパレット。それに続くように、皆の視線が上に向く。そして遠くで微かに聞こえるのは、液体が滴り何かが這うような音だった。それら全ての主、回廊から降りてくる剥滴の群れは、さながら統制の取れた濁流だ。


「まあ、そう簡単に行かないのが常だわな……。戦える者は武器を持て! 殲滅だ! アウラはちょっと待て。すぐ描いてやるからな……」

「リトス、普段通りに魔術を使ってみて。……頑張ってね」


武器を手にして回廊を駆け上がっていく兵たち。リトスも渡された蒼い絵画と杖を手に、兵に続く。アウラは高速で筆を走らせるクラヴィオを待ちつつ、早く行きたいとばかりにじれったそうにしていた。


「そうか……。リトスは魔術師だったな。……杖は短いようだが」

「ちょっと訳があって、これしか持って来られなかったんだ。でも、魔術は問題なく使える」

「……いいだろう。なら後方から魔術で援護してくれ! 前衛は私たちルオーダの兵たちが引き受けよう!」

「了解! 任せたよ!」


スケイルとリトス。互いに会話を交わし、すぐにそれぞれが持ち場に付く。出会ってから僅かほどしか経っていないのにも関わらず、2人の間には妙なほどに強固な信頼があった。そして後方から、高速でアウラが駆け上がってくる。その手に銀一色の刺剣を携えて。


「お待たせしました! 風が無くても迅速に! 私、参戦です!」

「アウラ! 描いてもらった剣はどう!?」

「すっごい良いです! 私の剣には劣りますが、申し分ない出来ですよこれは!」

「……それ後でクラヴィオにも言ってあげて!」


興奮気味に駆け上がっていくアウラを見送り、リトスは杖を握る手に力を込めた。彼の周りに巻き起こる蒼い奔流は、さながら彼の闘志のように力強く、しかしいつものようにそこにあった。露払いが、ここに始まる。


 刺すような寒さに身をよじり、男は壁にもたれかかる。透き通りながらもその全てが見えない氷の壁には様々な色の滴が跳ねている。だが妙なことに、その中に『赤』の色は一切混ざっていない。この空間で唯一ある赤は、似つかわしくないほどに燃え盛る炎を反射した色だけであった。


「こんな、思いをするのはいつぶりだろうか。修業時代か? ああ、今思えば昔のワタシはよくもまあ、あんなにも過酷な日々を……」


何かを思い返してか、男はそう呟く。過去に逃避しようとしても、その過去は甘くは無い。そんな逃げ場のない男の、刹那の休息がそこにあった。

第五十二話、完了です。またしても戦い。しかしペリュトナイの時のような殺伐としたものではなく、何処かノリのいいようなこの戦い。置かれている状況が違えば、戦い1つ取っても違いが出るものです。そうした明確な違いをもっと出せるように頑張ろうと思います。それでは、また。

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