EX03. 片付けられない男と片付けすぎる少女
クラヴィオ:描きすぎた絵画や、潤沢に用意された画材で自室が埋まってしまったらしい。
パレット:クラヴィオの自室を訪ねた時に落ちてきたキャンバスで頭を打ってご立腹らしい。
ああ、なんとスッキリした気分であろうか。目が覚めて、寝台から起き上がり深呼吸する。清々しく脳を覚醒させるこの行為は、随分と久しいものだ。だんだんと、ぼんやりしていた意識がはっきりしてきた。そしてはっきりした意識のまま、俺はこの片付いた部屋で思い切り伸びをした。
…………少し冷静になって、改めて部屋を見渡してみた。部屋は清々しいほどにスッキリしている。しかしそれがおかしいということに、だんだん気付き始めた。俺が用意した画材は、日々の苛立ちをぶつけるように描き殴り続けた絵画たちは、いったいどこに行ってしまったのか。そういえば昨日、眠りに落ちる直前に誰かが来ていたような。そして何かをぼやいていたような、そんな気がするがどうにも思い出せない。そんなことを考えていた俺を、何かが焼ける匂いが現実に引き戻した。この感じからしてこの家の外からだろうか。履き慣れた靴を履いて、俺は開きかけの扉に手をかけた。
「おはようクラヴィオ。今日もいい朝だね」
匂いを頼りに家の裏手に回ると、少女の声が聞こえた。彼女の手には白紙のキャンバスがあり、そこから少し離れた地面には勢いよく燃え上がる描き殴ったような炎が、これまた描き殴ったような色合いの煙を上げていた。その炎をよく見てみれば、他の絵画や画材などがくべられており、そこから出た色が炎に混ざって混沌としていた。はっきり言って汚い色だ。
「……昨日の来客が分からなかったのはそういうことか。それに今日の目覚めがよかったのもな」
「あれ、ひょっとして分からなかったの? ていうか昨日言ったと思うんだけど。これ全部片付けるって」
平然と言い放つ少女は、炎へと手をかざす。すると少女の指先から僅かに色が抜けたと思えば、次の瞬間にはくべられていた絵画のひとつが真っ白になり、炎の勢いが増した。ツンとした、鼻につく匂いがする。
「待て、パレット待つんだ。これ以上はまた面倒になる。だからここでやめておくんだ」
「そもそも元の位置に片付けないクラヴィオが悪いんじゃないの? どうせすぐに集め直せるんなら別にいいじゃない」
そしてパレットが手に持っていたキャンバスを炎に放り投げると、炎は高く燃え上がり、そして瞬時に鎮火した。残っているのは、さっきまでキャンバスだった物の燃え滓だけだった。
「あーあ。これで今日の予定が決まってしまったじゃないか」
「たまにはいいと思うけど。やることが決まってる日というのも、悪くないんじゃない?」
ぼやきながら、俺は家の中に戻ると、壁に立てかけてある身の丈ほどの巨大な筆を手に取る。そして、今日一日を共にする得物を持って小屋を出た俺を、作り物のような太陽が照らした。
「……今日もだ。全く変わらずに眩しいままだ」
筆を担ぎ、一歩を踏み出す。凍りついた地面に写った俺の顔は、相変わらず疲れきっていた。
というわけで、久しぶりのEXシリーズでした。この後、リトスとアウラとの出会いのシーンに繋がります。いっときの箸休めになればいいなと思ってます。




