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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
アトラポリス編・停滞の巨塔
63/151

51.氷零と静謐の虚塔【脱出作戦、始動】

オブリヴィジョン人物録vol.7


クラヴィオ

性別:男

出身:不明

年齢:不明

肩書:放浪画家

能力:ヴィヴィマージの現像(げんぞう)(絵具の精製と、その絵具によって描いた絵の実体化)

好き:それなりに手の込んだ料理

嫌い:絵を教えること、工業都市キュクロス


絵画の中にある村を取り仕切る、画家の男。軽そうで適当な印象を受ける男で、実際に適当でだらしなく、よくそのことをパレットに怒られている。だが村を取り仕切っている自覚は一応あり、特に隊長を失って混乱状態だったルオーダ兵団を纏め上げた事実は大きい。そして歴戦の戦士のように腕が立ち、画家としての才とその能力を活かし、変幻自在な戦闘を可能としている。

 クラヴィオの工房には、死んだような目で倒れ伏す少年と少女がいた。彼らの握る筆の先は赤と橙の混ざったような色になっており、それはまるで筆先に灯った炎のようになっていた。そして2人の横には、完成した炎の絵が重ねて置かれていた。様子を見にやって来たクラヴィオが、彼らの成果物に気付いた。


「おお、やるなアンタたち。まさか本当に描き切るだなんてな」


満足げに絵を一枚づつ確認するクラヴィオ。その一つ一つに様々な表情を見せながらも全ての絵を見終えたクラヴィオは、その絵を抱えて歩き出した。


「着いて来い。歩きがてら、アンタたちの問いに答えよう」


振り返って笑うクラヴィオ。その顔を見た2人は、力なく誇らしげに微笑むのであった。


 結局のところ40枚の絵を1人で持つなど不可能であるため、3人がそれぞれ絵を持って歩くことになった。クラヴィオはしれっと自分の持つ分を減らして、少しでも楽をしようとしていたのだが。


「それで、何だったかな……。ああ、そうだ。同じ絵を大量に集めてどうするのか、だったな。答えは単純で、『塔』の氷を解かすために使うんだ」

「氷を、解かす……?」

「それって、私たちの描いた絵でもいいんですか? ほら、私たちを助けた時にやったみたいな風に、炎を描いて出すのじゃダメなんですか?」


アウラの疑問は、実際の光景を見ていたからこそ出てくる当然のものであった。だがそれを言われた瞬間にクラヴィオはばつの悪そうな顔をする。


「……実際にやったことがあるんだが、まるで火力が足りなかったんだ。俺の能力、『ヴィヴィマージの現像(げんぞう)』の絵はすぐに実体化するのはいいんだが、しばらくすると絵に戻ってしまう。だから広範囲を一気に燃やし尽くすのは不可能に近い」

「だからって、こうして絵だけを集めるのはどういうことなの? 能力を使った絵じゃないと、実体化できないんじゃ……」

「それについては大丈夫だ。全部策を組んだうえで、こうして絵まで描かせたんだ。……よし、着いたな」


 3人が辿り着いた場所。村の中央にある広場には、小規模な人だかりができていた。構成するその殆どが白い制服を纏ったルオーダ兵団の兵であり、そうでない者たちも体格の優れた者たちであった。そしてその中で唯一、異彩を放つ者がいた。


「遅いよクラヴィオ」

「パレット。物事には最後の仕上げというものが肝心なんだ。俺たちはそれをこなしていただけだ」

「……まさか、その2人も連れて行くつもり?」

「この2人はこう見えてそれなりに腕の立つ戦士だそうだ。急だが、頼りにしてもいいんじゃないか?」


いかにも武闘派な集団の中に混ざるのは、白いワンピースに大きな白い帽子と、この場には似合わない格好をした儚げな印象の少女、パレットだった。2人の会話を聞いていたリトスとアウラは、その内容を完全に理解することはなかったものの、大体どのようになるのかについては、何となく察しがついていた。


「……まあ、戦力が増えるには越したことはない、かな」

「よし。そうとなれば決まりだ。というわけでこうして戦力が増えたところで……」

「待って待って待って……! 大体何をするのかはわかるような気がするけど、一応僕たちにも説明が欲しい」


慌ててクラヴィオの言葉を静止するリトス。事を勝手に進められたことを、流石のの彼でも理解できた。

仕方なさそうな顔をして、クラヴィオが話しだす。


「ああ、そうだったな。簡単に言えば、アンタたちには絵画脱出のための遠征に参加してもらう。道中では剝滴みたいな敵も多く存在する。だから、戦えるアンタたちでは都合がいいんだ」


淡々と説明するクラヴィオ。2人にとって、それはするべきであると思っていたことであった。しかし2人の顔は、何処か暗い。


「わかりました……。わかりましたけど、私たちは戦えない状況なんですよ。リトスは天素が無いせいで魔術が使えないですし、私は、その、武器を置いて来てしまったので……」

「なんだそんなことか。パレット、例の絵画を」

「ああ、あれね。リトス君、これを渡しておくね」


いつの間にどこから取り出したのか、パレットの手には葉書ほどの大きさの蒼い絵画があった。一見、ただ蒼に塗りつぶされたかのようなその絵画を手にしたリトスは、すぐに異変に気付く。


「天素だ……! これは、何?」

「私の描いた『蒼き始祖』。これがあれば、絵画の中でも魔術が使えるよ」

「あっ、すごい! 本当に使える……!」


早速杖を取り出して、魔術を使おうと試みたリトス。いつものような蒼い奔流が巻き起こったのを見て、更に興奮した様子を見せる。その様子を見たアウラも、期待に満ちた顔をする。


「だったら、私の剣も出してくれるんですね……?」

「ああ、そっちは俺が描いてやる。細かい指示があるんなら今のうちに全部言ってくれ。しばらく定期的に描くことになるからな」

「でしたら……」


アウラがクラヴィオにあれこれ言っている間に、遠くから誰かが近づいてくるのにリトスは気付く。程なくして鮮明になったその姿は、息を切らして走り寄るストラダだった。


「ハアッ、ハア……。申し訳ない。遅れてしまったよ」

「おっ。やっと来たのか。この遠征はアンタ無しでは始まらないんだぞ。……例の件は?」


やって来たストラダは相変わらず疲れ切ったような印象であったものの、気怠そうな様子は微塵も感じられなかった。アウラの剣を出し終わったクラヴィオは、剣をアウラに渡しながらストラダに聞く。


「言われた通り、皆への説明は済ませておいた。期待してると、皆言っていたぞ」

「だったら、応えないわけにはいかないな。……さて、戦力の拡充も含めた準備を終えたところで改めて……」


クラヴィオの発したその言葉。それと同時に、辺りに緊張が走る。


「これより絵画脱出遠征、その第一段階。『塔』の氷を融解させ、道を拓く『熱鍵作戦(ねっけんさくせん)』を開始する! 諸君、覚悟はできているか!」


これまで以上に大きなクラヴィオの檄。それに群衆は興奮を見せ、各々吠える。リトスとアウラは、その様子にペリュトナイの奪還作戦を思い返していた。



第五十一話、完了です。ここで一つ状況が動いたというのは、紛れもない事実です。ここから先どうなるのか、楽しみにしておいてください。では、また次回。

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