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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
EX、SSまとめ・ペリュトナイ編
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SS08.番外研究・ナイトコールズ編④

第一章完結に伴い、仕上げます。

 未知を既知にすること。それは心躍るものであると俺は信じているが、時として言いしれない恐怖をはらむものとして立ちはだかる。俺の前に広がるこの本が、まさにそうだった。本当にこのまま読み進めていいのだろうか。これを知ることは、果たして良きことなのだろうか。


 ここで引き返せば、恐怖と対面せずに済む。俺の本能がそう告げる。しかし俺は理性で振り払う。一度始めた探求だ。それを途中で終わらせるなど、先人たちへの冒涜にあたる。何よりも、探求者としての俺自身の誇りが許さない。意を決して、俺はページをめくった。


“まず最初に、ここから先のページには先ほどまでのような詳細な解説が無い、ということを詫びておく必要がある。第一に、我らはディシュヴァリエ。ナイトコールズと言えど、個々の意志を持つ存在であると自負している。人間諸君は動植物と自身たちのことを同じ書物にはまとめないだろう? つまりは、そういうことだ。だが本書は『ナイトコールズ調査書』と題されている。そうしている以上、やはりディシュヴァリエのことも記さねばならない。故に、これより先では大まかではあるが、私が記録している中で既に消滅、人間でいうところの『死亡』扱いとなっている者たちについて記していこうと思っている。前述したように詳細情報は記すことはできないので、それらを踏まえた上で読んでほしい。”


 これまでのような図解付きのデータベースが来ると思っていたが、俺の目に飛び込んできたのは、ある種の『注意書き』のようなものだった。不満を覚えつつも、納得はできる。それに、何も情報が無いよりは、ある方がいいというものだ。恐怖はまだ残っている。だが、俺は意を決してページに手をかけた。


 確かに注意書きの通り、そこにあったのは簡潔な解説。それも、1つのページに多くが記されているものだ。


「コラプトロン。人間と他のディシュヴァリエの協力の果てに消滅……。グレートウォール。原因不明ながら、公的に消滅扱い……。オーロフォテンザ、エルプラティアーダ、アカネガネ。数千年前の覇権争いで敗北しそれぞれが消滅……。……本当にこんな感じなんだな。これでは知識もクソも、……これは?」


並び立つ簡潔な情報を読み漁り、ページをめくり続けることしばらく。そうして現れた毛色の違う、しかし見慣れたページに、俺の知識欲が再度沸き立つ。開かれたそのページ。まるで鬼のような鎧を纏う人型の存在が描かれた精巧な絵。それが載せられたページには『オウガ』と題されていた。


“例外的に、このオウガについて記す。ディシュヴァリエとは本来、『個々が唯一無二の種族』とも言える存在である。だがこのオウガたちはディシュヴァリエで唯一、多数が存在する種族である。その全身を強固な外殻で覆い、その上で頭部に生えた2本の大角を武装個所としている。同種族の中に複数の亜種個体がおり、それらは次のように分類される。”


「争いを不得手とし最も数が多い『シヴィルオウガ』……。武力に優れた『フォースオウガ』……。『悪意に染まり』凶暴化した『ブラッドオウガ』……。そして知識の蓄積を是とする希少種の『ウィズダムオウガ』……」


意外だった。注意書きとは違う、詳細なデータベースがここにあった。何故、ここにはこれほどの情報が記されているのだろうか。その疑問は、次に目に入った文によって解決させられることになった。


“何故ここに詳細な情報が記されているのか疑問に思う者もいるだろう。結論から言ってしまえば、彼らオウガは既に絶滅してしまっている種である。その理由は至って単純であり、執筆現在に至るまで君臨しているディシュヴァリエの王の逆鱗に触れたことで、その種族全てを滅ぼされてしまったのだ。そしてその大量粛清を唯一逃れたウィズダムオウガも、ある時に消滅してしまったのだ。こうしてディシュヴァリエの中でも栄華を極めた種族ともいえるこのオウガは、絶滅してしまったのだ。これ以降、ディシュヴァリエたちは以前にも増して王を恐れることになった。この悲劇が二度と繰り返されないように、私はこの事実をここに記すこととした。”


種族1つを、いとも簡単に絶滅させてしまうだなんて。王とは、どれほど強大な存在なのだろうか。そして、知識の蓄積を是とするというウィズダムオウガに、会ってみたかった。彼はどのような知識を有しているのだろうか。彼しか知り得ないような知識も、あったのだろうか。だが過ぎ去ったものを取り戻す方法などあり得ない。今は、今あるものを得るしかないのだ。だから、俺はページをめくった。……だが次のページに、それ以降にあったのは、情報などではなかった。それ以降のページが最後までくりぬかれ、金属の箱のようなものが収まっている。そしてその箱が収まったページの淵には走り書きで短く記されていた。


“知識ある者に、これを託す”


突然現れたこの箱に、俺は困惑した。このような形で、俺の探求は終わるのか? だが、この箱の中に何があるのか、俺は知りたいと思った。知らねば、ならないと思ったのだ。しばらくの時間を置き、俺は覚悟を決める。そして意を決して俺は、箱の蓋を開けた。少し重い、金属らしい重みの先に入っていたのは、その仰々しさに反したものだった。


「これは……、何だ?」


それは大きな羽根のようなものだった。しかしその付け根にあたる部分は真っ黒に染まっており、そして何よりもおかしかったのは、その羽根自体が金属で出来ていたのだ。一見すれば、鉄のようなその羽根。しかしよく見てみれば、それは俺の知識にある鉄とは違って見えた。それどころか、それは俺の知っているどの金属とも一致しなかった。それが何かを知るため、俺はその羽根に手を伸ばした。だがそれに触れた途端に、思わず手を引っ込めてしまった。


「何だ……! この羽根は、一体……!」


羽根に触れて感じたこと。それは身を圧し潰さんばかりの重圧と、吐き戻しそうになるほどの不快感だった。まるで体の内側で虫の群れが這い回るような感覚が、一瞬触れただけであったのだ。思わず箱の蓋を閉じ、本ごと閉じて俺は立ち上がる。自分でもわかるほどに息が荒くなっている。経験上これまでに様々な経験をしてきたし、様々なことを知ってきたが、これは全く未知のことであり、だがその上で一切知りたいとも思えない、知ってはいけないようなものであると俺は感じた。ふと光を感じ、俺は窓に目を向ける。そこからは光が差し込んでおり、時刻が朝であることを示していた。こんな風になるまで、読みふけっていたのか。そのことに気付いた瞬間、足腰に力が入らなくなって崩れ落ちる。倒れこんでも、痛みなどなかった。いつの間にこんな疲労が溜まっていたのだろうか。だんだん瞼が重くなっていき、意識が沈みそうになる。……考証は、また後日だ。この硬い床が、今の俺にとっては最高の寝床だ。


 この後起きて、身体中が痛んだことは言うまでもない。

というわけでスクラの短編が終わりました。この調子でセレニウスの短編も終わらせようと思います。

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