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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
EX、SSまとめ・ペリュトナイ編
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SS06.セレニウスと在りし日のペリュトナイ④

一応、これはここで終わりです。と思いましたが、まだ続くのです。

 背に街の明かりを受け、私は暗い野に立つ。頬を撫でる夜風が心地いいが、この感覚に浸っている場合などではない。今の私には早急に片づけねばならない要件があるのだ。背負う壊劫の重みが、私にそれを自覚させる。さて、私の標的は単一か。それとも複数か。どちらにせよ、迅速で確実な殲滅は必須事項だ。さて、そろそろ少年の言っていた現場に辿り着く頃だろう。一見すれば、何があるわけでもない平原の一か所。しかし、私は何か異質なものを感じた。それは、普通であれば気付かないほどに微かなものだった。


「……あーあ。これはまた面倒になりそうね」


暗闇の中。そこに溶け込むように存在するのは無数の獣たち。目を凝らしてみてみれば、それらはすべてがたてがみを持つ灰色の獅子。しかしそれらが通常の獅子と決定的に違う点は、そのたてがみの一つ一つが磨き上げられた剣のようになっているという点だ。そう。ここに、レクスレギオンの群れがあったのだ。その総数、実に20頭を超えているだろう。少し前の討ち漏らしがここまでの規模になるとは、流石に想定外だった。群れを観察してみれば、明らかに大きな体躯を持つ個体が一頭。それは大きな傷を胴体に持ち、異常に太く発達したたてがみを持っていた。あれが調査書で見た『統率種』というものだろう。そしてあの傷から察するに、数か月前に討ち漏らした個体で間違いないだろう。統率種になる、ということを事前に聞いてはいたが、あれはあまりにも変わりすぎではないか。やはりナイトコールズとは、生物とはかけ離れた存在なのだと実感した。そんなことを考えていた私は、ある1つのミスを犯す。


「あっ」


足元から鳴る、ペキリという軽い音。見てみると、そこにあったのは木の枝だった。一体何故このような平原に木の枝が落ちているのか。何かしらの要因でここに持ってこられたのだろうか。ああ、しかしそんなことを気にする余裕はない。この音は、普段であればかき消されて終わっていただろう。しかしここは平原。それも夜だ。これをかき消すものなど何もなく、またそれはよく聞こえるだろう。そう、この音を聞く対象は、私以外にも多くいる。


「……タイミングが悪いわね」


観察していたレクスレギオンの群れ。そのすべての視線が音の発生源たる私に向かう。その視線に込められていたのは明確な殺意。まるでそれしかないかのような視線たちは、徐々に私へと集まっていく。そして集まり切るその前に、レクスレギオンの一頭がこちらへと飛び掛かってきた。


「……本当にっ!!」


苛立ちを交えながら、私は飛んでくる獣に永劫を横薙ぎに振るう。固いものに当たったと思ったその刹那、刃は不自然なほどにするりと通る。そして永劫を振りぬいた時、私の左には首を大きく裂かれて黒い液体を流す灰色の獅子の残骸が転がっていた。


「あーあー。調子が狂うなあ……。予定立て直しだよ、これは!」


背から壊劫を抜き放ち、永劫と共に構える。相も変わらず殺意に満ち溢れた視線の海へと、私は突撃していった。さあ、迅速な仕事の時間だ。


 襲い来るレクスレギオンを、私は次々に撃破していく。飛び掛かるものを、先ほどと同じように切り伏せ、最後は確実に首を落として仕留める。あるいは自身から襲撃を仕掛け、壊劫で頭を潰して切り刻む。相手はナイトコールズだ。いかに姿が既存の生物に酷似していようと、その真相がその通りだとは限らない。だから、徹底的にすることが肝要なのだ。そうして何頭のレクスレギオンを倒しただろうか。散乱する残骸を背にして私が対峙するのは、統率種の個体だった。それはこの状況に何も動じることなく、相変わらず殺意を向けてきている。しかしその殺意の中には、ある種の警戒心が見て取れた。この前の敗走が刻まれているのだろうか。明らかに、その所作はこれまでのものとは異なっていた。


「なんやかんやで最後の一匹、か。……これまで通りには、行かなさそうだけど、ねっ!!」


過程が何であれ、結果として残っているのは統率種一頭のみだ。しかし、これは油断ならない相手になるだろう。そう、私の直感が叫んでいた。私は一切の油断を捨てて、永劫の一刀で仕掛けた。


「こ、これは……。……なるほど、伊達に統率種ってわけじゃないのね」


先ほどまでなら通っていた一撃。硬質のたてがみさえ断っていたこの一撃は、この個体には通らない。太く発達したたてがみに阻まれて、刃は鈍い音と共に止まる。散った火花が、その刹那見開かれたレクスレギオンの瞳に反射して映る。それを見た直後に、レクスレギオンの口が大きく開かれ、その奥に微かな光が見えた。


「やっ……ば、そう!!」


咄嗟に危険を感じて、私は飛び退いた。その直後、先ほどまで私のいた場所に大量の刃が降り注いでいた。それらは放ったであろうレクスレギオンにも命中していたが、それらが通ることはなく、固い表皮に弾かれて地面に落ちていた。刃の降り注いだその光景は、まるでアマツ国の伝承でちらりと見た『針山』のようであった。


「油断ならない強敵ね……。こんなのいつぶりかしら……」


私は再び永劫を構える。私の心は、久々の強敵の登場に躍っている。そう、感じたのだ。

セレニウスの、在りし日の戦いでした。案外馬鹿にできない強敵の登場です。それでは、また本編で。

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なんて、らしくないことも書いちゃいます。

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