SS05.番外研究・ナイトコールズ編②
情報を盛っていきます。
「さて、復習はこんなところでいいかな……。思いの外多かったな……。さて、では本題を……」
手にしていた学術書を閉じ、傍らにある本の山に積み重ねる。座っている俺の胸の高さに届くほどに積み上げられた本の山は、うっかり腕を当てて崩してしまいそうだ。だが本の山が崩れようと、今の俺にとっては些事である。それよりも今は、こっちが大事だ。
「ナイトコールズ調査書……。ただの本とは思えない重圧だ……。まるで機嫌が悪い時の先輩みたいだ……。おっと、俺としたことが……」
ついつい、昔のことを思い出してしまった。俺にとって、あのころの記憶などとうに封印したものだと思っていたのだが。まあいい。色々とあったが、ついにこの本を開くときが来た。逸る気持ちもほどほどに、俺は早速表紙を開いた。
「……おお。これは早速、すごいことになっているな」
そこにあったのは、表紙とは対照的な真っ白なページ。しかしそれ以降のページの紙とは明らかに違うその紙質のそのページにはごく短く、しかしはっきりとこう記されていた。
“この調査書の完成に携わった、すべての人間と同胞に至上の感謝を捧ぐ”
一見すれば、本でたまに見かける謝辞の言葉だ。しかし一点、気になることがある。何故わざわざ『人間』と『同胞』で分けているのか。このような書き方、まるで作者自身が人間ではないと言っているようなものではないか。
「まさかこの作者、噂に聞く『ディシュヴァリエ』というやつか……? 面白いじゃないか」
無意識に笑みがこぼれる。先ほどまで俺の手にあった『既知』の情報ではなく、今の俺の手の中にあるのは完全な『未知』の情報、それも膨大な量だ。一介の研究者として、これほど心が躍る瞬間は無い。逸る気持ちを今度は抑えずに、俺は次のページに手をかけた。
入ってくる情報。それらは多くが未知で、かつ詳細なものだった。
「……トバリ、か。空を覆う鳥のような種。……常に極大規模な群れを形成する。……特性から昼間を活動時間とし、他のナイトコールズが昼間に活動する際にどこからともなく現れる、か……」
このような貴重な資料が、何故世に出回らないのだろうか。この情報が広まれば、ナイトコールズ研究は飛躍的に進展する。既存の情報など、まさに児戯に等しいものだ。
「あの鹿頭のナイトコールズ……。サクリヘッドというのか。ペリュトナイの固有種……。周囲の殺意に反応して活性化、対象を捕食する、か……。ナイトコールズの中でも珍しい『捕食』を行う種……」
まだ読み進めたページはごく僅かだが、それでも情報の多さは圧倒的だ。それなのに妙に読みやすく、すんなりと頭に入ってくる。これを書き上げた暫定ディシュヴァリエは、よっぽど文章を作るのが上手いのだろう。添えられた挿絵も精密で、情報の吸収に大いに役立つ。
「……ここからは、ディスクワイアか。……これまでのはディスペイジ。つまり、危険度の低い種ということか……。ふむ。これでも危険度が低い、と来たか」
これまで読み進めてきた中にも、簡単に命を奪える種は数多く存在した。刃を持つ種も、同様だ。それ以上に危険な種というものが存在すると考えると、恐ろしくもあり興味深い。早速次のページをめくると、そこにあったのは次なる情報ではなく、最初のページと同じ紙質のページだった。そこには、このように記されていた。
“ナイトコールズというものに対して認識が足りていないものが多いようなので、ここで追記しておく。これは同胞たちの中にも一定数見受けられることなので、重要なことであると認識する。既に知っている者は即座に次のページへ向かうことを推奨する。ナイトコールズの中でも特に危険な部類とされているディスクワイアだが、それらの中にはそれほど危険ではない種から、ディシュヴァリエをも凌駕するほどの天災が如き種まで幅広く存在している。一応、そういった情報を念頭に置いたうえでここから先を読んでもらいたい”
なるほど。これは確かに大事な情報だ。中間の位のように扱われており、そのような常識で通っていた人間の研究が覆された瞬間だ。そして俺は次のページ、新たな情報の渦の中へと飛び込んでいくのだった。
どんどんナイトコールズに対する情報を盛り込んでいきます。楽しいですね。