SS02.セレニウスと在りし日のペリュトナイ②
これの製作にかまけて本編が疎かにならないようにしたいです。
本を開き、ページをめくる。その中に必要な情報が無いことが分かれば、本を置いて次の本に手を伸ばす。中々目当ての情報が見つからないことが、何ともじれったい。そうして開いては置きを繰り返しているうちに、私の周りには本の山がいくつも出来ていた。それに構わず私がページをめくりつづけていると、奥にあるドアが勢いよく開いた。そこから覗くのは、機嫌が悪そうな1人の男だった。
「さっきから俺の部屋に来て何をしてるかと思えば……。散らかすのやめてくれませんかね!?」
「ごめんごめん。忙しそうだったからそっとしておこうかと思って」
不機嫌そうなスクラの言葉を軽く流し、私は本に視線を戻す。
「それにしても、セレニウスさんが本だなんて珍しいですね。何を探してるんですか?」
「まあ本っていうよりは情報なんだけど……。ねえスクラ。『剣のようなたてがみを持つ獅子』に覚えはない?」
「……ちょっと待っててください」
一呼吸おいて、スクラは部屋へと戻っていく。その様子だと心当たりがあるようだ。開きっぱなしのドアの向こうから、ページをめくる音が微かに聞こえる。少しの間それが聞こえていたが、やがてそれが聞こえなくなったと同時に、一冊の大きな本を抱えたスクラが近づいて来た。よく見ると、本には精巧な水晶細工の栞が挟まれていた。
「……ナイトコールズ調査書、ね」
「そうです。そして、恐らくセレニウスさんの言っているのはこれでしょう」
スクラが重そうな表紙を持ち上げ、栞の挟まれたページを開く。そうして開かれたページには、私の求めていた件の獅子のことが、ご丁寧に図解付きで載せられていた。剣のようなたてがみを立派に生やし、鎧のような部位で胴体を武装している灰色の獅子。そこに載っていたのは、そんな絵だった。
「レクスレギオン……ね。ああ、何処かで見た覚えがあったと思ったら……」
「数か月前にこれの群れを倒したとかなんとか言ってましたね。割と珍しい種なのでそんな短い間隔で現れるなんて考えにくいですけど……」
「殲滅できたと思ったけど、1匹逃したか……。まさか討ち洩らしがあったなんて……」
自分が、不甲斐ない。そういった脅威が何かをする前に殲滅し、市民が一切の不安を抱かないように働くのが私たちの使命だというのに。1匹でも逃して、1人とはいえ市民に不安を抱かせたのだ。そんなこと、本来はあってはならないというのに。
「それよりも、もしその獅子が本当にレクスレギオンなら今夜には倒しておかないとまずいですよ」
「まあ元からそのつもりだったけど……。何がまずいの?」
「……ここ、読んでください」
スクラが指さした箇所に、私も目を向ける。事細かに記された報告書の中で、この情報を見つけるのは難しい事だろう。そしてそこに書かれていたのは、思いの外厳しい現状を現していた。こう書かれている。
"単騎でも非常に強力なレクスレギオンであるが、真に恐ろしいのは大規模な群れを成す習性である。更にその群れを統率する統率種と呼ばれる個体は通常の個体を遥かに凌駕する力を持っており、討伐は困難である。そしてその群れの中から1匹でも逃せば、それが統率種となり、新たな群れを率いるようになる。そのためレクスレギオンの討伐に赴く際には、確実な殲滅。逃した場合、迅速な討伐が必須となる〟
「……マジか」
「はい、マジです。だから今から急いで準備して、現地で待機しておいた方がいいと思います」
「すぐに行く。後で彼らにお仕置きしなきゃね……」
私は急いで現地、城下街とアゴラの中間点付近に向かうことにした。スクラには悪いが、積み上げた本の片付けは任せてしまおう。そうだ。討伐に出るのならアレを持って行かなければ。現地に向かう前に、私はまた別の場所に向かうことにした。
唐突で申し訳ありませんが、ここで用語解説を始めます。『ナイトコールズ』とはこの作品における、いわば『人外』や『怪異』を指すものです。本編に登場した痩身の鹿頭ことサクリヘッドも、このナイトコールズの一種です。今は、それだけで十分です。