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135.雨音と、未だ知らぬ街

前回までのあらすじ

ディンギルスター襲撃事件がひと段落し、再びエアレー車での旅が始まった。次の目的地であるカレドールに向かう道中でアウラが突如として高熱を出してしまう。雨が激しくなる中で彼らの前に現れたのは、地図にも載っていない謎の街だった。

 激しい雨音と雷鳴がこだまする荒廃した都市。その一画にある廃ビルの中に、エアレー車は停まっていた。外壁の一部のみが崩れているそのビルは、エアレー車を停めておくにはちょうどいい場所だった。


「じゃあ俺は様子を見てくるから、リトスはアウラのことを見ていてやってくれ」

「よろしく。アウラは僕に任せて」


大筆を担ぎ、クラヴィオがエアレー車を離れる。熱でうなされているアウラの傍らで、リトスは積み荷の中からいつか買った薬を探していた。


「どこにやったっけ……。こんなことならちゃんと整理しておくんだった……」


薬が見つからない中でも、アウラの容態は変わらない。この空間で2人きり。旅の始まりを共にした彼女との時間を、リトスはムードもへったくれもない激しい雨音と共に過ごすのだった。


 豪雨が降りしきる都市を、クラヴィオは傘も差さず歩いている。雨により、それ以前に密集して建つビル群により遠方の景色が見えない街並みを進むクラヴィオは、周囲の様子を伺いながら自身の記憶とその景色を照らし合わせていた。


(……やはり、知らない街か。長く見ないうちに様変わりしているにしても面影が無さすぎる)


彼の記憶の中に一致する景色はない。それだけであれば、単純に彼が訪れた事の無い場所であると言える。だがそうではなかった。


(ビルガメスとカレドールの間にこのような規模の都市は無かったはず。この規模の都市が少し見ないうちにこの状態で存在するなどありえるはずもない)


広く、しかし生物の気配が微塵もない道路を歩く中で、彼の中の違和感は大きくなっていく。


(しかし何だ、この重苦しさは……。まるで街そのものが潰しに来ているような……)


思考により弾き出される違和感よりも更に原始的なところの違和感。それこそ彼が抱く最も大きなものであった。奇しくもそれは、かつてAIたちがリトスに感じたものと同じものだ。もっともそれをクラヴィオは知る由もないのだが。


 青年が物陰から様子をうかがっている。彼の視線の先にいるのは大雨の中、傘も差さずに歩き続ける、大筆を担いだ見知らぬ男だ。青年はここに来る前に言われたことを思い出していた。


『よいか。例え誰であろうと、まずは対話を試みなさい。いきなり手を出した時点で潜在的に敵と認識されてしまうからな』


彼自身、出会ってから日の浅いその老人に言われたその言葉を素直に聞けるほど聞き分けの良い性分ではない。もとより褒められた素行ではなかった彼は老人の言っていたことの逆をしようとしていた。彼の傷跡が目立つ手には折り畳み式のナイフ。使い込まれた形跡の無い綺麗なナイフだ。彼のトサカのように逆立てられた髪が雨に濡れている。もうずいぶん長くそこにいたのか、それは崩れて元の中途半端な長髪に戻りかけていた。


「やってやる……。この訳わかんねえ全部、元に戻すんだ……!」


彼はナイフを手に、男へと突進していった。


 背後から近づく足音は雨音でも消せない程に大きく、それに気付かないクラヴィオではなかった。


「誰だお前は!」


担ぐ大筆を振り向きざまに振るう。それは青年の手からナイフを弾き飛ばすと共に、彼を数メートル吹き飛ばした。


「……雨が降っていて幸運だったな。そうでなければ無事ではすんでいない。それで、どういうつもりだ?」


大筆の穂先を青年に向け、クラヴィオは問いただす。だが青年はクラヴィオを睨み付けている。まるで敵と確信しているかのように。


「うるせえ! お前がこの街に入ってくるのが悪いんだろうが!」

「何を言ってるんだお前は……。 そもそも俺は……!」

「そこまでだ! 両者落ち着くがよい!」


2人の刹那の攻防は、突如として響いた低い声によって制止される。その声の主である、背の低い老人の背後にはアウラを背負うリトスの姿があった。


「爺さんどうして止めるんだ! あとちょっとで……! それに誰だよこいつら!」

「劣勢ではないか! それにまた儂の言ったことを聞いていないな! ……事情はこの少年から一通り聞いた。彼らは悪人ではない。当然、奴の手先でもない」


青年を諫める老人のことはさておいて、クラヴィオはリトスに視線を向ける。エアレー車の中にいるはずの彼らがどうしてここにいるのかを問う必要があった。


「リトス、何があった!」

「少なくともこの人は敵じゃない。人がいるところに案内してくれるんだ。医者もいるところなんだって。だから着いて来て」


そう言うリトスの目は完全にとまでは言わないものの、老人に言われたであろう言葉を信頼しているように見えた。そしてクラヴィオは知っている。このようにして何かを確信したリトスは、常人以上の頑固さを見せるのであると。

第135話、完了です。今回より短いですが新章開幕となります。雨の止まないこの街で、現れた老人が導く先には何が待つのか。それでは、また次回。

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