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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
幕間・星降る夜が更ける
147/151

131.意志の旅路【ままならない旅】

緊急通報:ディンギルス・ベースステーション発ミカボシ都城駅行超快速列車を何者かが襲撃。ビルガメス隊セントウル小隊各位は指定座標へ向かい乗客の救助、ならびに脅威の排除に当たるように。

 車両の外でレヴィアフォビアが姿を変貌させた頃、リトスは貨物車両を彷徨っていた。これまでの車両のように広い空間全てを荷物が占めるその光景はまるで倉庫のようであった。誰かがいるべきなのに誰もいない空間をひたすら歩き続ける。そんな彼の耳に入ったのは、後ろの車両から響く破壊音だった。


「モロバさん、大丈夫かな……」


思わず足を止めて、リトスは引き返そうとする。しかし彼が振り返ることも、まして元の道に戻ることもなかった。破壊音と共に訪れた衝撃波によって扉が壊れてしまっていたためどのみち戻ることはできないのだが、彼はただ前を見て再び歩みを進める。自身に託されたことを果たすため、その歩みはいつしか貨物車両の奥まで来ていた。


「……ここまでは何も無し、か」


ここに至るまでリトスが目にしたのは様々な荷物たち。希望や期待、様々な感情と共に列車に乗り込んだそれらは、最早戻るべきところに戻れる保証すら無くなってしまった。しかしそれらに思いを馳せている時間は今のリトスには無い。彼はその先へと進むべく、目の前の扉に手をかける。その瞬間だった。


「ッ!?」


まるで熱された鍋に触れたかのように手を引っ込めるリトス。それは手先に物理的な痛みを感じたからでは決してない。もっと身体の内側の、魂が感じ取った抗いがたい恐怖、嫌悪感。鍵もかかっていないすぐにでも開く扉の向こうに存在する何かを魂が拒絶していた。


「……でも、だからって」


それでもリトスは再び扉に手をかける。ものの数秒で手を放してしまっても、すぐにまた手をかける。その時、リトスはもう片方の腕で、扉にかけた手に触れていた。


「メガロ、ネオス……!」


リトスは能力を発動し、扉にかけた腕全体を固定する。是が非でも、扉から手を放すことが無いように。そしてそのまま、扉を開けようとした。


「……!」


息が乱れ、能力で固定しているはずの腕が震えている。リトス自身も意識が飛びそうになりながら、いよいよ扉を半分まで開けたところで、遂に彼はその向こうにある景色を目にする。それと同時に意識を手放しその場に倒れてしまった。意識を失うその瞬間に彼が見て、聞いたもの。貨物車両のはずが全く物のない空間。両側の壁は取り払われており、鎖の擦れるような音が僅かに聞こえる。そしてそこに立っていたのは、顔の隠れた小柄な少年だった。


 列車の外でモロバが黒い大蛇と化したレヴィアフォビアと対峙している。大蛇が蠢くたびに放たれる黒い鱗は、意思を持つかのようにモロバへ、アウラとクラヴィオへ、そして恐怖する乗客たちへと向かっていく。自身へ向かう鱗は剣で弾き、回避し、大事へとは至らない。アウラとクラヴィオもそれぞれの手段で鱗を回避していた。だが問題は彼らではない。


「クラヴィオ!」

「やっぱり、こうなるか! 『空想具象・蒼壁(ウォール)』!」


乗客たちを守るかのように立ちはだかったクラヴィオは虚空に筆を走らせ、蒼い障壁を描き上げる。それは鱗を受け止めはしたものの持続されることは無く、すぐに溶けてしまった。


「……俺は動けそうにないな。アウラ、1人で頼めるか?」

「わかりました! クラヴィオも、皆さんをお願いします!」


防衛のためにクラヴィオは乗客たちの居場所から離れることが出来なくなってしまっている。故にアウラは、ここから1人での戦いを強いられているのだ。彼女はレヴィアフォビアの元へ向かう中で考えを巡らせる。


(ここでモロバさんと共闘するのが普通だよね……。でも、あの人が言っていたことは……。私に手を貸すのではなく、っていうのはどういう……。だったら!)


アウラが向かうのは確かにレヴィアフォビアの元だ。しかしそこで繰り広げられているモロバとの戦いに割り込むかのように、彼女は大蛇の表皮に刃を突き立てた。


「何だ、これは……」

「……手を貸すな、と言ったはずですが」

「ええ、わかってます! だから私は勝手に戦います! 貴方のことなんて考えずに自分のペースでやらせてもらいますよ!」

「……」


ちらりと自身の腕に目をやるモロバ。彼の全身を覆う影のベールは今もなお暗くそこにあった。その後彼は左手で剣を構え直し、アウラへは見向きもせずに口を開く。


「……奴の口内から妙な気配を感じますね。そこに至れるまでの道を切り拓くことが出来ればいいのですが」


彼の『独り言』が言い終わる前に、アウラはレヴィアフォビアへの攻撃を続ける。しかし彼女の攻撃は決定打とはならない。


「私の武器では大きな一撃を叩き込むことは出来ませんね……! 足止めが精々といった所でしょうか!」


彼女は大きな『独り言』と共に攻撃を続ける。そんな彼女に一瞬だけ目をやると、モロバは腰にあるホルスターに手をかけた。


「……大根役者だな」


ほんの少しだけ色が薄くなった影のベールから透けて見えるホルスターには、古びた短銃が収まっていた。

第131話、完了です。次回で、この波乱の道中は一旦落ち着きます。では、また次回。

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