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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ペリュトナイ編・支配の獣と壁の街
14/150

14.逃走、疾走、意志悲壮

オブリヴィジョン人物録vol.1


カルコス

性別:男

出身:ペリュトナイ

年齢:37歳

肩書:ペリュトナイ抵抗派先陣戦士

能力:無し

好き:エアレーのスープ、ブルーベリー

嫌い:スープ以外のエアレー料理


ペリュトナイの抵抗派に所属する戦士の1人。戦士たちの中でも抜きん出た才を持っており、愛用の大槍である『大火(たいか)』と共に多くの獣を屠ってきた。しかしここにきて愛用の大火を失ったようで…?


 カルコスにより逃がされたリトス達3人。しかし、その退路は決して楽なものではなかった。


「走れ走れ走れ!! 追いつかれるぞ!!」

「リトス! もっと速く走ってください!!」

「はあ……、はあ……。これが、限界だって……」


リトス達は現在、おびただしい数の獣人から全力で逃走していた。焦りながらも体力面には余裕を残しているアウラとシデロスに対し、身体能力に優れているわけではないリトスは息も絶え絶えだった。今は十分な距離を保てているが、このままでは追いつかれてしまうだろう。そうなれば、行きつく先は獣人の腹の中である。それをリトス本人はもちろん危惧していたが、それと同じ程度にはアウラとシデロスも、この状況を危険に思っていた。こうしてシデロスが思わず大声を出すぐらいには、切羽詰まった状況なのだ。


「……まずいな。このままでは、……非常にまずい」

「何で2回言ったんですか!?」

「それぐらいまずいってことだ!! ああ! 本当にまずい!!」

「あ……、もう、脚が……」


不意に、風が吹いた。風はリトス達の走る方向へと吹く追い風となっていた。しかし、風程度でどうにかなる状況ではない。現に、リトスのスピードが落ちつつある。何かあるとすれば、精々気休めになる程度だ。しかし、この状況においてはそうとも言い切れない。


「……リトス、それからシデロスさんも。私に掴まってください。……能力を使います」

「!? オイオイ…! 確かに使えればこの状況を打破できるが、本当に大丈夫なんだろうな……?」

「今は信じてください。……リトスを見てくださいよ。もう私の肩に手を置いてます。……あ、もう少し強く、しっかり掴まってくださいね」

「も、もう何でもいいから早く……」


アウラの秘策の為、3人は現在止まっている。多少距離を取っていた為に、数十秒程度の余裕はあったが、その程度では精神的に余裕になどなりようがなかった。


「いいから早くするんだ! もう来るぞ!!」


……特にシデロスにとっては。


「2人とも、しっかり掴まりましたね。いいですか? 絶対に放したらダメですよ……」

「……いいか。今はもう限界かもしれないが、それでも全力で掴んで、死ぬ気で放すな。大丈夫だ。思ったよりも早く着く」

「はあ……、はあ……」


リトスには言葉を返すほどの余裕もない。彼自身、己の体力の無さを十分に恨んでいるだろう。しかしそれをするべきは今ではなく、後である。そしてその後を迎えるために、今はアウラに全てを任せている。そしてそれに全霊で応える準備が、アウラにはできていた。


「……」


深く息を吸い込み、吐き出す。背後には獣人の群れが迫っていた。3秒。


「行きましょう……」


そして、走る構えを取った。追い風は、変わらず彼らの背中に吹き付ける。2秒。


「……!」


背後の群れをその目で認め、それでもシデロスは覚悟を決める。……1秒。


「……風に乗ります! ボレノロス!!」


……そして、叫びと共に一際強い風が走った。先ほどまでそこにいたはずの3人の姿は忽然と消え、それを見た最前線の獣人たちは思わずその足を止めた。そしてそれらは、背後にいた無数の獣人たちの止まり切らないその勢いに、押しつぶされてしまったのだった。


 沈みかけの微かな月光が照らす廃墟の平原を、一陣の風が翔けている。それに吹き付けていた追い風すらも置き去りにして、その風は追い風よりも『先』にある風に乗っていた。そして、そんな風に必死でしがみついている、2人の姿があった。


「________!!」

「___……!!」


何かを言っているが、言葉になっていない。何よりも音すら届いていない。最も、音は後方に置き去りにされている。そして風が翔けること、ここまで10秒と少し。徐々に速度は落ちていき、やがてそれは完全に止まった。


「ふう……。久しぶりの全力でした……。2人とも、大丈夫ですか?」


最も、応えが返ってくることは無い。不思議に思ったアウラが横に視線を向けると、妙にぐったりとしたシデロスと、もっとぐったりとしたリトスが雑に転がっていた。


「……えーと。もう追手もいないようなので、少し休憩してから出発しましょうか」


転がる2人は、黙って小さく頷いた。



「いやあすっきりしました! あんなに良い風は本当に久しぶりで! ついつい気持ちよく走ってしまいましたよ!」

「あ、うん……。それは、良かったよ……」

「……リトス、放っておくんだ。能力でひたすら走った後のアウラはいつもこうだ」


休憩により疲れがある程度飛んだのか、リトスは平然と応えている。いや、気分が高揚しきったアウラに少し押され気味ではあったが、何にせよ彼はいつも通りの調子に戻っている。そんな彼らの歩む廃墟の平原に、薄明るい光が広がりつつある。


「そろそろ夜も明けますね。……カルコスさんがいれば、もっと良かったんですけど……」

「そう言うな。カルコスさんは生きている。……そう信じていれば、いい方向に事が運ぶはずだ」

「そうだよ。……僕はカルコスと会ってからそんなに時間は経ってないけど、あんなことで死ぬような人だとは思えない」


彼らの言葉、心は、戦地に置いてきてしまったカルコスへの信頼を現していた。それを信じている限り、彼らの定義上ではカルコスは『生きている』。そんな彼らは、帰るべき彼らのペリュトナイに辿り着こうとしていた。


「え……」


そして、彼らは辿り着く。


「……これは、どういうことだ」


朝焼けに照らされた、彼らのペリュトナイに。


「……何で、こんなことに……」


しかしそこには、彼らの知っているペリュトナイの平穏は無かった。倒れ伏す戦士と、その数以上に倒れ伏している獣人の群れ。壁は崩壊し、その瓦礫には火が燻っている。


「取り敢えず重傷者を優先して運んで! 悪いけど、軽傷の人は少し待ってて! 動けるなら自分でお願い!」


そしてそんな中で、倒れた戦士たちを運ぶ、ペリュトナイの市民たちと、そんな彼らに指示を出すセレニウス。そんな場所に、リトス達は辿り着いた。


「……セレニウス、様」


アウラの呟きは誰にも拾われない。彼らが辿り着いたのは、強襲され惨憺たる状態となったペリュトナイであった。





第十四話を畳みます。今回から前書きで人物録を不定期で書いていく予定です。大きな見せ場があった次の話での公開を予定しています。

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