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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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122.イン・トゥ・ザ・ディープスカイ

やっと辿り着いた。奥から声が聞こえる。その声に覚えはあるが、口調からして明らかに別人だ。考えたくはないが、もしかすると私と同じ状態なのかもしれない。止めなければ、全てが終わってしまう。私は銃を構えた。

 ほんの少しずつ、しかし確実に進んでいくカウントダウン。それと共に増していく巨砲の威圧感に、画面越しなのにも関わらずリトスは戦慄している。


「そのメラムって、一体何なのさ……!?」

「……メラムはこのビルガメスで最も危険な兵器だ。だがメラムの開発計画は凍結されたはずだ。存在しているはずもない」


オーフェクトの言うとおり、それはビルガメス史上最強最悪の破壊兵器である。彼はあるはずのない兵器を目にして、未だその実在を疑っていた。


「肯定。メラムはかつての兵器開発局局長セイバが設計した光線兵器。一度の放出でこのビルガメスの平均的な規模の都市であれば即座に壊滅させることが可能となっている。開発計画が凍結され、詳細が封印されていなければ、今のビルガメスはいかなるものにも負けることのない、天下に覇を唱える国家となっていただろう」

「だとしたら、画面に映ってる『それ』はなんだ!」

「これこそメラムだ。この計画が始動した時、私は自身の権限によりメラムのデータに施されたロックを解き、エンリルラボにて建造を進めた。ウムダブルトゥは本来、このメラムの守護者として配置していた。ゆくゆくはこのメラムを制御する実験機としても使用するつもりだったが、撃破されてしまった以上はそうする必要もなくなった」


メラムのカウントダウンは進んでいく。大破壊は確実に迫りつつあった。


「さて、これ以上の説明は無意味だ。私は行く末を見届けた後に、このビルガメスの管理者として永遠の国を築こう」

「そうはさせるか! ここでお前を止めるのも、この国の長としての務めだ!」


覚悟を決め、フラッグが両手に2挺の長銃を構えると、躊躇うことなく連射する。ティアマトへと降り注ぐ弾丸の雨は、しかしそこに到達する前に全て横へと逸れる。


「無駄、無意味だ。私の周囲にはステルス仕様のアプスタイドが滞留している。銃弾は効かない」


ティアマトの言葉など耳に入っていないとばかりに、フラッグの連射は続く。やがてそれは弾が尽き、最後の1発が空中で止められて落ちるまで続いた。


「もう一度言う。銃弾は効かない。私の記録するフラッグという人物は、ここまで愚かではなかったはずだが」


わずかな放電と共に透明な装甲が実体化し、弾丸を弾き落とす。ここまでに放たれた全ての弾丸は弾かれ、ティアマトにかすり傷のひとつも負わせるには至らなかった。


「お前たちはアプスタイドに対する兵装を持ち合わせていないようだな。このままメラムの発射を見届けるがいい」


打つ手がない中で、ティアマトは目の前の障害を排除しようともしなかった。排除する価値すら、見出さなかったのだ。


「『背負いすぎ』だ。もう休め」


突如として聞こえた声と共に銃声が響く。


「銃弾は効かないと……」


ティアマトは実体化した装甲を展開して弾丸を受け止めようとする。だが弾丸が触れたその時、装甲全体に電流が走る。その上に弾丸の威力がそのまま伝わり、装甲は着弾地点を中心に崩壊を始めるのだった。


「これは、一体……」

「アーマーの特殊電流、それを弾丸に流して撃った。アプスタイドを殺す弾ってわけだ。これなら効くだろ」


その弾丸が放たれた方から足音が近づく。銃口から僅かに煙が上がる、損傷した銃を手にした白いアーマー姿の女は、まるで激闘を制した後のような様相だ。だがその裂けた頬を見たフラッグは、その者が誰なのかに気付いた。


「クイック、なのか? だが、銃以外の武器はどこにやったんだ?」


だがフラッグはそれをクイックであると確信できなかった。彼女が大切にしており、この戦いに持ち込んだ刀はここに無い。代わりに手にしていたのは、まるでどこかから拾ってきたような刃の破片のみ。そして目の前にいる彼女の瞳は、人間離れした白銀色に染まっていたのだ。


「……悪い。ダメだった。でも()にはまだ武器がある。見ててくれよ、フラッグ」


クイックが再びティアマトに銃を向けると、弾丸を2発撃つ。それと同時に彼女の姿は消え、次の瞬間には装甲を再展開したティアマトと、その前で破片を振りかぶる彼女の姿があった。


魔犬終星(シリウス・ノヴァ)!!」


振るわれる破片は破核棍の、或いは刀の代わりか。それは多重に展開された装甲の全てを砕いていき、霧散させる。だが破片も次第に砕け始めて小さくなっていき、最後の走行に達する頃には完全に砕け散っていた。だが加速の勢いは衰えていない。彼女は拳を握りしめると、振りかぶる勢いのまま、それをティアマトの胴体へと叩き込んだ。ようやく入ったこの一撃は、ティアマトに確実なダメージを与えたのだった。


「ステルスアプスの9割を喪失するとは……。私の計画成就の前に、まずはお前から_______」

「今だ! フラッグ!!」


アプスタイドで武装を展開するティアマトに構わず、クイックが叫ぶ。声をかけたその先には、クイックの物と同じ型の銃を構えたフラッグがいた。


「礼を言おう。これで通じる!」


放たれた4発の弾丸。それは吸い込まれるようにティアマトの胴体へと命中し、そこから弾けるように血が噴き出た。それは完全に致命傷だ。


「そのような……。しかし、そうか……」


ティアマトが足元を崩された像のように力無く倒れる。フラッグはそんなティアマトに近づき、見下ろした。


「……お前がティフォンの身体に移らなければそうはならなかったはずだ。何故このようなことになったんだ」

「そんなもの……、伝える理由もない……。私は、間も無く停止する……。だがそれでも、メラムは止まらない……。このビルガメス発展のために、必ずや全てを滅ぼし……、やがて、『セカイ』をも……!」


それ以上の言葉は続かなかった。ティアマトの目から光が消える。こうして不自然なほどあっさりと、ビルガメスの統括者はその活動を停止した。


「さよならだ。ティフォン、ティアマト。そして……」


見下ろすかつての仲間たちに別れを告げ、フラッグは横にいるクイックへと向き直る。いや、彼はもうその者の正体に気付いていたのだろう。


「ウリディンム、だよな」

「……気付いてるよな。やっぱり」


迷うことなく、彼は正体を口にする。その言葉に宿る感情は様々だ。だがそれを向ける相手はそこにいるようで、いないのだ。


「あの時の一撃。あれがクイックの生きた証だ。……能力はその人間の魂との結びつきによって成立する。そして、あの一撃を最後に能力は消えた。……消えてしまったんだ」

「素晴らしかった。これ以上なく、素晴らしかったんだ。俺は一生忘れない。死んだって、忘れるものか」


感傷に浸り、ここにいない戦士の栄光に思いを馳せる2人をよそに、オーフェクトとリトスが未だ続くカウントダウンへの対処を続けていた。


「悲しみに浸っているところ悪いが、奴の言うとおりメラムのカウントダウンは未だ継続中だ!」

「何とか止める方法は!?」

「ある。正確には『あった』と言うのが正しいだろう。メラムの停止は起動者にしか出来んようになっている。……そしてその機動者は、『ビルガメス統括管理者』となっているようだ」

「……それってつまり」

「すなわちそれはティアマトだ。だが奴がティフォンの肉体に移り、尚且つ死亡した今となっては、もう……」


状況はかなり絶望的なようだ。そんな中でリトスがこの場から去ろうとしている。


「リトス、どこへ行くつもりだ」

「どこって、止めるんだよ。そのメラムを、直接破壊する」

「場所も分からんのにか。時間も無いというのに」

「それでも何もしないよりはマシなはずだ! そっちこそ、そのままでいるつもり? 地下に篭ってた時みたいに!」

「黙れ! 旅の途中に首を突っ込んできた部外者の分際で、偉そうなことを宣うな!」


両者の間に険悪な空気が漂う。そんな2人を制したのはフラッグだった。彼はクサリクの映るタブレットを手にしている。


「待て、2人とも。……アクセスし、メラムを止める方法ならある」

『私が、ティアマトの跡を継ぐんだよ』


クサリクは、覚悟を決めたかのような口調でそう言い放ったのだ。


「何を言っているのだ! そのリスクを知らんそなたではないだろう!」

『もちろんだよ。でもこうしないとメラムは止まらない』

「そんな……、親の責任を負う子がどこにいるというのだ! そんなことあってはならん!」

『とは言っても、当の本人はもういないからね。それに私の役割はイナンナタワーの管理AIだよ。役割としては、ティアマトに一番近い。だから私が跡を継いで、ビルガメスの管理者になる』


オーフェクトがいくら説得しても、クサリクの意志は揺らがない。ならばと、彼の視線はフラッグへと向いた。


「フラッグ! そなたはそれでいいのか!」

「いいわけがないだろう! だがこれも、ビルガメスのためだ。俺はこの街の、この国の指導者なんだ。どんなことでも、俺は決断を下すしかないんだよ……!」


誰も、言葉を発せない。それしか方法がないのであれば、彼はそうするしかないと思ったのだろう。それが例え酷なことであってもだ。


『じゃあ、さよなら。みんなによろしくね。ウリディンム、みんなと一緒に離脱して』


クサリクが別れを告げ、横にいる同胞に指示をする。だが彼女はその言葉にしばらく沈黙した後で、口を開いた。


「……嫌だね」

『……は? 何言って______』


そのままウリディンムは部屋の奥、スクリーンの下にあるヘッドギアに手を伸ばした。


「この転送装置は……、バイザーを接続すればまだ使えるな」

「おい、何をしている!」


彼女はヘッドギアを雑に放り投げると、バイザーの横にある装置を操作し始める。すると、バイザー本体から起動音が聞こえた。


「私も行くんだよ。たった1人で行かせられるか。大丈夫だ。管理者として玉座に縛られるこいつと違って、私の立場は変わらないからよ。また帰ってきて、旅に出るぜ。悪いが、タンムズガーデンは任せたぞ」


そしてバイザーから音が聞こえなくなったと同時、ウリディンムはその場に倒れ伏した。


『……先に行っちゃった。それじゃあ、私も行くね。まあ私だって抹消されちゃう訳じゃないし、ちょっと会い辛くなるだけだからさ。全部終わっても、たまに遊びにきてよ』


ウリディンムに続くように、クサリクも行ってしまった。彼女が映っていたタブレットは、もはや何も写していない。


「……あいつめ、最後の最後で別れのムードを消していきやがった。……最後まで、あいつらしい」


フラッグが思わずタブレットを取り落とす。画面に一筋の割れ目が入るが、それに構うことはなかった。


「……」


そんな中、リトスは何かを決意したような目で、何も映っていないタブレットを見ていたのだった。


 深く、底のない夜空のような空間。そこは可視化されたティアマトの鎮座していた空間であり、彼女がいつか望んでいた風景を模したものだった。そこに浮かぶ、光を放つ巨大な柱。それこそが、メラムのシステムそのものであった。そしてその前に立ち塞がるように存在するのは、均整の取れた完璧な肉体を持つ、まさしく『ヒト』と形容できるほどに人間そのものの姿をした、しかし不気味なほどに無機質な、彫像のような存在だった。

 それこそが、このビルガメスの草創期。数多に生み出され、役割を与えられることもなく廃棄され続けたAIたちの集合体。そして今は、メラムの守護する合成の神々。誰にも呼ばれることのないその名を、『アヌンナキ』という。

第百二十二話、完了です。ついに止めるべき敵を前に、舞台が整いました。この一戦を終えると共に、長きにわたるビルガメス編に終止符が打たれます。では、また次回。

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