115.グレイ・リバース
蛇の王へと立ち向かう。だが、そこに意思はあるというのか。
開幕と同時に、ムシュマヘの砲身の1つから熱線が襲い来る。それは敵を焼き消さんと、蛇のように迫っていた。
「一か、八かッ!」
だがそれはリトスが即座に展開した蒼護壁によって逸らされた。そして砕けて霧散しながら宙を舞う蒼い結晶を突っ切ってクイックが駆ける。その手には破核棍が握られていた。
「今撃った砲身を狙え! 撃ってすぐなら銃でも効くぞ!」
「よし! 兵たちよ撃て! 弾道補助なら俺がする!」
クイックの言う通り、熱線が放たれた砲身は赤熱しており、そこへと放たれた弾丸は装甲に驚くほど容易に食い込んだ。そして弾幕とは別方向へとクイックは駆ける。
「アタシはこっち、だッ!!」
狙いを定め、跳躍するクイック。手にした破核棍に雷を迸らせ、既にその姿は砲身の1つへと迫っていた。
「『逆光雷』!!」
それはまさに、天へと還る雷。貫かれた砲身は火花を散らせて爆発し崩れていく。だがこれだけで、クイックは止まらない。飛び上がったクイックは当然のことながら落下していく。そうなりながらも、彼女は再び雷を迸らせていた。
「『崩落雷』! 2連撃だッ!!」
今度は落雷のごとく、ムシュマヘの別の砲身へと一撃が放たれる。クイックの着地と同時に、その砲身も爆発し崩れた。だがムシュマヘもただやられているままではない。2つの砲身がクイックに狙いを定め光を放つ。それは熱線発射の前兆だったが、その射線上にいるクイックは即座に回避へと移っていた。
「……? どうした! そんなもん当たると思ってんのか!」
避けるクイックを追尾することもできたはずだ。だが熱線は先ほどまで彼女がいた場所のみに熱線を放射していた。その行動に違和感を覚えながらも、彼女は銃を用いて十分に距離を取っていた。そして破核棍を上段に構える。
「……何でもいい。だったらこれで終わりだ」
兵たちが銃撃していた砲身が爆発して崩落している。そのままムシュマヘを完全に破壊するために、破核棍はこれまでにないほどの雷を迸らせていた。
「……しばらく高出力は無理だな。『超過充……』」
エネルギーが集中する。その重圧にクイックもただ構えているだけとはいかず、受け止めきれずに体勢を崩しかけている。そのようにして過剰に集中したエネルギーは、嵐のように渦巻いていた。
「『雷嵐神風』!!」
雷の迸る嵐を、止めどない暴走のままにムシュマヘに解き放つ。嵐が内包する幾千もの雷に撃たれ続けたムシュマヘは、やがてその巨体を停止させ、倒れた。
「……やっぱり妙だ」
クイックは違和感を覚える。あの時悲劇をもたらしたあの機械の蛇は、こうも簡単に無力化できるものだったのか。何故攻撃の手が緩かったのか。そもそも、アレに意思はあったというのか。考えを巡らせる彼女に、ラフムが拍手を贈る。
『やあやあ素晴らしいね。本当に腹が立つほど強いんだ。まさかムシュマヘをこうも簡単に壊すだなんてね』
言葉では賛辞を贈るが、完全に目が笑っていない。
「やっぱり、この程度で終わりじゃねえよな」
『正解。そしてこれから始まるのは君の終わりだ。……出力、【蛇王原躰】』
ラフムが手をかざす。ラフムによりアプスタイドが集まっていき、それは次第に1つの形を成していく。最初に形作られたのは灰色の人型。更に生み出された無数の灰色の蛇が、人型へと絡みつく。それがまるで王冠のように絡み合い人型の頭に集まった時、完全にのっぺりとしていた人型の顔に、大きく裂けた口が形成された。
『さあ出番だよ。行ってきな』
かざしていた手を収めたラフムの前に、無数の蛇の尾をマントのようになびかせた灰色の王がいた。
『ようやっと解き放たれたわ……。さて、改めて……。久しぶりよの、猟犬』
裂けた口より放たれた威圧感のある低い声。灰色の王、ムシュマヘは目の無い貌でクイックを凝視していた。
第百十五話、完了です。あっさりとムシュマヘを下したその直後、ラフムによって生まれ変わりました。前哨戦は終わり。ここからが本番です。どうぞ、今後ともご期待ください。では、また次回。
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