114.マスターピース・ブレインズ【蛇王睥睨】
遂に時が来る。機械の裏にいた者と機械を狩る者たち。対峙の果てに、最後に立つのは果たしてどちらか。
地下の大都市にそびえ立つ『ティアマトタワー』。開いたゲートを通った一行の前に現れたのは2人の男だった。
『ティフォン様、お連れしました』
「ご苦労。下がれ」
白衣の男のその一言と共に、道案内をしていたシルトはその場から去っていった。その男は去って行くシルトには目もくれず、フラッグたちに目を向けていた。
「久しぶりだな、リーダー。それにクイック。それにオーフェクトさんまで。……前線に出てくるだなんて、珍しく本気ということか」
フラッグ、クイック、そしてオーフェクトに視線を送るティフォンと呼ばれた男。その視線は懐かしむようでもあり、だが侮蔑するかのように冷え切っていた。
「俺も、まさかお前と再会できるとは思っていなかった。……こんな形で会いたくなかったよ」
「それも、そうなんだけどよ……!」
クイックの視線がティフォンではなく、横にいる赤髪の男に向く。その表情に怒りが、驚きが浮かぶのにも無理はない。その赤い髪の男の顔を、ラフムの顔を、クイックは知っていたからだ。
『やあクイック。久しぶり、でもないかな』
「なんでテメェまでいやがるんだ! あの時、確かに……!」
『破壊したと思ったのかい? でも残念だったね。僕のメモリーはやられていなかった。それにこのボディはあの時に姉さんが最後の力を使って作り上げた特別製でね。慣れるのにも少し時間がかかったし少し落ち着かないけど、もう問題は無い』
嘲るように事の顛末を話すラフム。口調は軽く何てこと無いように語っているが、その言葉の端々には戻らない『姉』を想う何かがあった。一方、ティフォンはリトス達を品定めするように眺めていた。
「そこの3人に助けを求めたわけか。相変わらず他人を巻き込むのが上手い人だ。なあそこの。今からでもこの件から手を引くなら、命を取らないし追いもしない。元々無関係なんだ。帰るべきところに帰ればいいじゃないか」
ティフォンのその言葉に嘘も裏もない。意外にも彼にはリトス達への敵意は無かったのだ。だがその提案にリトスは首を横に振る。
「悪いけど僕たちは手を引くつもりはないよ。ここまで来て逃げるだなんて、人としてどうかと思うし」
「逃げたなんて言わないさ。やることはまだあるんだろ。こんなところで立ち止まってていいのか?」
「俺たちは前に進むためにここにいるんだ。この街にも用がある。てなわけで、ちょっとこの街を救わせてもらうぜ」
「それに目の前の明らかな危険を排除しないほど、弱い人間じゃありませんから」
クラヴィオとアウラもリトスに続ける。その答えを受けてティフォンは少しの間何も言うことは無かった。
「……立派な人たちだな。リーダーは本当に良い人を味方につけたらしい。だが俺たちにも負けられない理由がある。引けない信念がある」
しばらくの沈黙の後に口にしたのは、感嘆の言葉。そして揺るぎようのない決意の言葉だった。それと同時に彼は白衣の内側から何かを取り出す。
「だから、ここでお前たちを始末する」
ティフォンが取り出したのはボタンが1つ付いた小さな装置だった。手のひらに収まるそれのボタンを彼は躊躇なく押す。それから間もなくして見えないほど高い天井が開き、そこから巨大な何かが姿を見せた。
『この時を待っていた……。君たちを滅ぼしたいって、【こいつ】もそう言っているよ』
それは蛇のような姿をした機械だった。ただそれは巨大で、首に当たる部分が7つあり、その全てが重厚な砲身となっていた。機械の蛇は、タワーの中心に鎮座する巨大な機械を伝い下りてきた。そしてリトス達を睥睨する。
「こいつは……!」
『ムシュマヘ! でもすごく……、大きくない!?』
「クイックのおかげで改修しなきゃいけなくなったからな。ついでに武装もいくつか追加した。データ通りには行かないと思え。……そして、そこの3人。残念だ。去っていれば先があったものを」
先程からうって変わってリトス達に敵意を向けるティフォンに対し、リトス達は武器を構えて無言で返す。戦う準備は、この場にいる全員が出来ていた。
「よお……! 会いたかったぜ、ヘビ野郎!!」
そしてクイックは上から見下ろしているムシュマヘを仰ぎ、牙を剥くように相対していた。彼女のマスクの右端からは、裂けた口が覗いていたのだった。
第百十四話、完了です。黒幕であるティフォン、生存していたラフムと対峙し、更には機械の蛇ことムシュマヘが現れました。いよいよ最終決戦の開始です。長々と待たせて申し訳ありませんでした。可能な限りペースを上げていきますので、どうぞよろしくお願いします。では、また次回。
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