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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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109.冥王の国【深淵の洞】

そんなティフォンはメトロエヌマの事件が起こってから間もなく姿を消している。もし彼が健在であれば、AIたちの攻略がもっと早く進んでいただろう。

 リジェクトパレスを出発して数時間。リトス達が辿り着いたのはイルカルラアンダーグラウンドより更に下、長く放置されて久しい行動の入り口のような場所だった。


「さて……、なんとか無事にここまで来られたわけだが」

「無事……。無事だね、確かにね。途中で何回追われたかわからないけど確かに無事だね。人って濁流みたいになるんだって初めて知ったよ」


よく見るとリトスとオーフェクトを含めた何人かは息を切らしており、この道中で何があったのかを容易に想像させる。


「異景みたいでしたね」

「あんなのをまさか絵画の外で見ることになるとはな」


一方体力に優れたアウラとクラヴィオは特に体力を消耗した様子はなく、冷静に会話を交わしている。少し離れた位置にいるクイックとフラッグもそれは同様だった。


「それでここは? この街にこんな場所があっただなんて、想像もつかなかったよ」

「ここは『ネルガルキングダム』。ファクトリーやリアクター以上にメトロエヌマの……、いやビルガメス全体の根幹と言える場所だ」


オーフェクトの説明は、リトスにはいまいちわかりづらかったようだ。ここでオーフェクトの持つ端末が起動する。


『管理者である僕から説明します。あちらの設備はこのエリア全体で採掘される【天石炭】を運搬し、シャマシュリアクターの各ユニットへと送るものとなっています。いかにビルガメスの科学力が優れているとはいえ、これがなければそれらは成り立ちません。知らない人は皆さん意外そうな顔をするんですよ更にあちらは……』


クルールの説明に、リトスだけではなくアウラとクラヴィオ、更には何故かクイックも聞き入っている。そんな中でフラッグは端末の発する着信音に反応し、それに応答する。その相手はイナンナタワーにいるシグナルだった。


『あー、話の途中悪いんだが俺から1つ報告だ。性能の上がったレーダーでネルガルキングダム一帯を調べてみたんだが、敵性機や生命の反応は1つだけだった。それも一瞬浮上して以降反応が消失している。……だがエリアの奥に見覚えのある反応があった。多分そこが最終地点だ』

「そうか、ご苦労。それで、マップはどうなっている。ファクトリーのように改築されている可能性は?」

『流石にここは坑道だ。多少整備されてるとはいえ、ファクトリーのように異常改築されてるとは考えにくい。手持ちの見取り図で充分なはずだ。……俺は周囲の調査を続けるから一旦切る』


シグナルが通信を切り、フラッグは端末を懐にしまう。これによって、この後の坑道方針が決まったといっても過言ではない。フラッグは端末を操作して坑道の見取り図を探していた。


「シグナルの言う通り、このネルガルキングダムを超えた先にティアマトがいる。ここまで手を出せなかったが、遂に決着の時というわけだ」

「まあ何はともあれ、まずはこの坑道を超えないことには何も始まらんし何も終わらん。行くぞ諸君」


そう言ってフラッグは先陣を切って進む。前に出た彼に一瞬驚きながらもオーフェクトはそれに続く。衛兵たちやリトス達も同様だ。


「ここに来て急に仕切りだすのかよ。……まあ、リーダーはこうでなくちゃな」


そしてクイックは呆れたように言いながら、皆より遅れて進んで行くのだった。


 一方ここはAIたちのいるいわば電脳空間。ここにアバターの姿のまま存在するクルールに、同じくアバター姿のクサリクが話かけていた。


『ねえクルール。あのこと、言わなくていいの?』

『……今の彼らに言っても混乱を招くだけです。言う必要は無いと僕は判断します。今のアレは僕の制御から離れて自己修復すら出来なくなっている状態です。脅威としては、軽すぎるかと』

『貴方も私と同じなんだね。母様(ティアマト)の影響を受けずに、この街を取り戻すために協力している。でも前までの貴方はもっと冷たかったと思うけど……』

『さあ、どうでしょうね。ただ1つ言えるとしたら、誰かの影響でバグが生じたとか』


楽しげに会話を交わすクサリクとクルール。それは決して人ならざるものの姿にはとても見えないものであった。


「……」


坑道を進みながら、オーフェクトは端末を耳にあてて何かを聞いている。聞くことに夢中になっているのか、足元に何があろうとまっすぐ進み続けている。


「オーフェクト。おい、オーフェクト。何をやっている」

「いいや、何も。ただAI共の戯言を聞いていただけだ」

「どうでもいいが転んでも知らんぞ」

「何を馬鹿なこの我輩が」


そう言ったオーフェクトは、次の瞬間には顔面を地面にぶつけていた。後に帰還した者によれば、それは見事な前への転倒だったという。


「ほら言った傍から。もう歳なのだから気を付けた方がいいんじゃないか?」

「そなたも同じようなものだろうが」


軽く言い合いながらも、2人は進み続けている。そんな2人の様子を、アウラとクイックは離れた位置から見ていた。


「なんだかんだ仲は良さそうですね」

「そりゃあな。あの2人はこの国が始まった時からの付き合いだそうだ。反目しあってても結局根っこの部分は同じってことだろうよ。……しかしなんだ。随分久しぶりにここに来たが、随分暗いな。おいクルール。灯りとか無いのか?」


坑道内にクイックの声が反響する。そんな彼女の声に反応して、オーフェクトが持っている端末が起動した。


『そんなに声を出さなくても聞こえていますよ。どうやら坑道内の照明システムが全て落ちているようですね。それにいくつかは破損しているようです。少々お待ちください。可能な限りの復旧を試みます』


それだけ言うとクルールの通信が切れる。そしてしばらくすると再びクルールは復帰した。その間、フラッグとオーフェクトの言い合いは続いていた。


『照明システムの65%にアクセス完了。再起動、いつでも可能です』

「よし。やってくれ」

『かしこまりました』

「待つのだ勝手にクルールに命令するんじゃない」


クルールの了承と共に、坑道内に設置された照明に光が灯り始める。それは少しづつ点灯していき、やがて破損していない照明の全てが光を放ち始めたのだった。だがそれと同時に微かな音が聞こえ出した。だがそれに気付いて足を止めたのはリトス1人だった。


「待って! 何かいる!」

「おお。これでやっとまともに進め……」


それは何かが羽ばたくような音、金属同士がぶつかるような音。その音は徐々に大きくなっていき、リトスは警戒を声に出して発する。だがそれが伝わる前に、その音の主が姿を現した。


「何だこれは! 黒い群れ!?」

「コウモリだ! なんて数だ……!」

「皆! 僕の後ろに!」


坑道の奥から迫るのは、翼に金属のような光沢をもつおびただしい数のコウモリの群れだった。コウモリの体色の黒に光を反射する鈍い銀色が合わさってまさに星空のような様相だったが、それに見とれている場合ではない。再び発されたリトスの警告は今度こそ伝わり、彼が展開した大きな蒼護壁の後ろに皆が集まった。だが、足りていなかったのだ。


「痛ッ!」

「こいつら噛むぞ!」

「それだけじゃない! 爪が鋭い!」


リトスの壁では防ぎきれず、衛兵の何名かがコウモリの群れに接触し負傷したのだ。そして当のコウモリたちはリトス達のことなど構わずに通り過ぎていき、やがて周囲に静寂が訪れた。


「……収まったか」

「そうみたい、ですね。皆さん、無事ですか!」

「……アタシとリーダーにオーフェクト、リトスの後ろにいる奴は全員無事だ! でも何人かは怪我を負っちまったみたいだ!」


クイックが示す方向には衛兵が3人。それぞれが何か所かに裂傷を負い血を滴らせていた。リトスが杖を手に彼らに近づくが、1人が彼を制止する。


「……大丈夫だ。この程度大したものではない」

「ああ。お前がこれまで何を見てきたかは知らんが、俺たちはこんなものを気にしない」

「行くぞ。問題を解決して、俺たちとお前たちは日常に帰るんだ」


3人はそれだけ言うと再度歩みだす。この場においては彼らでさえ、或いは彼らだからこそ覚悟を決めて立っている。そんな彼らの表情に焦りが僅かに浮かんでることには誰も気付いていなかった。

第百九話、完了です。いよいよネルガルキングダムの攻略が始まりました。何やら良くない滑り出しですが、この先あることが起こります。それを見届けてください。では、また次回。

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