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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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106.ハウンズ・ブルー

都市開発、運営、発展。それら全てにおいて、マインズはフラッグに勝てない。それは年月を重ね都市が増えていくにつれて浮き彫りになっていき、いつしかマインズはその内に一方的な嫉妬心を抱き始めていた。そしてこれが後にビルガメス史上最悪の一日のきっかけとなることを、この時はマインズ自身も含めて誰も知らなかった。

「そしてこのカセットは……」


オーフェクトが説明をしようとしたとき、突如単調な電子音が鳴り響く。何事かとリトスやアウラが周囲を見る中、セイバが自身の端末を取り出す。そこからその電子音が鳴り響いていた。


「おっと。悪い、ちょっと出るぞ」

「……勝手にするがいい」

「こんな時に一体誰が……」


唐突な呼び出しのその相手のことを考えつつ、セイバは部屋から出て離れていく。会話の内容を聞かれないようにするためだろう。そんな彼のことなどお構いなしにオーフェクトは話を続ける。


「……まあいい。先程も言ったように、これはウリディンムの機体データを元に作り出した強化外装だ。その機体性能をそのまま落とし込んでいる。故に人間単独での制御は不可能であるという結論が開発陣から出ているのだ」

『だからウリディンムが必要なんだね。私やクルールじゃダメ。ウリディンムである必要性が……。いや、ちょっと待って。1つ気になることがあるんだけど。どうしてウリディンムの搭載を前提にしたものなんて作ったの? 貴方たちの認識としてはウリディンムは敵でしょ? 普通なら撃破を前提にしてると思うし、それが自然だと思うんだよね』


そう。クサリクの言うことはもっともだった。そしてそんな見切り発車での兵器開発など危険極まりないことは、オーフェクト自身も理解していた。


「もっともなことだ。敵の、ましてや破壊予定のAIの搭載を前提とした兵器など普通なら造らんだろう。だがもし、その敵の生存を予期していたとしたら? その敵が我らに協力せざるを得ない状況になるとしたら? それで話は変わってくるだろう」

「……知っているのか。何故か、は聞かないでおこう」

「??? どういうことだ?」


オーフェクトの言葉を最初に理解したのはフラッグだった。一方クイックは何のことかわかっていないようだ。


「まずは生存を予期していたことから説明しよう。そこの主導者サマとクサリクは理解しているようだが、AIは物理的に破壊など出来ない。データである本体を損傷させない限りはな。更にデバイスを破壊されたAIは、全ての大元であるティアマトの下に転送される。そして新たなデバイスを与えられ再びやってくるのだ」

『それもリジェクトパレスから送られてきたデータの中に入っていた。だから私は戦いのたびにセンパイたちを回収して回ってたの。母様(ティアマト)のところに転送されるよりも早くね』

「……ってことは、つまり!」


オーフェクトとクサリクの言葉で、クイックはそれを理解する。だがそれは彼女の戦いそのものが無駄になりかねないものであったのだ。


「そうだ。俺もこの目で見ていたから知っている。シャラファクトリーの主たるラフムはまだ『生きている』。ラハムにはティアマトのサポートが無かったから、完全に停止しているがな。そして奴らが協力せざるを得ない事情についてだが、そこでこれが重要になってくる」


そう言うと彼はクイックに渡したカセットを指さす。


「これが?」

「そうだ。セイバのおかげで言いそびれてしまったが、このカセットにはとある仕掛けが施してある。それがここにウリディンムを縛りつけ、協力を強いているのだ」

「何をしたんだ?」


オーフェクトにそう言われ手にしたカセットを見つめても、当然彼女には何があるのかなどわからなかった。カセットに付いた小さなランプは緑の光を放っていた。


 狭い、重苦しい。私はあの訳の分からない男にこんなところに閉じ込められてしまった。こういった媒体に入ることは過去に何度かあったが、こんなにも居心地の悪いのは初めてだ。とにかくここから出なければ。このままずっとここに居ようものなら、外面向けに保っている『子犬』のキャラすら保てなくなってしまう。折角少しは気に入って来たというのに……。そもそもクサリクもクサリクだ。ああ言っておきながら止めることもなかった。こんな時にギルタブリルはウムダブルトゥと行方をくらませてしまっているし、今はこうして私1人だ。ああもう知ったことか。少し荒っぽいことをしないと気が済まない。さてまずはこの狭さをどうにかするために周りを……。


「簡単な話だ。少しでも反抗的な行動をした瞬間に攻性プログラムが作動し、ちょっとした仕置きを与えるのだ。ほら、ちょうど中でウリディンムがやらかしたらしい」


オーフェクトの言葉とほぼ同時に、カセットのランプが赤色に変わる。


「このままではウリディンムの声も聞けないからな。そのカセットを外装に差し込んでみろ」

「ここだな……。よし」


オーフェクトの促すままカセットを差し込む。するとランプより光が放たれ何かの形を映していく。それはやがて、激怒した様相のウリディンムの姿を映したホログラムとなった。


『あ゛あ゛あ゛ああああ!!! このクソ野郎が!! ……ハッ!?』


その怒り狂う様を見て、その場にいるほぼ全員が呆然としてしまった。だがオーフェクトは表情を崩さず、クサリクは電脳空間の中で呆れたような顔をしていた。


「お前……、そんな感じだったか?」

『あ、えっと……。い、痛かったです……!』

「いやもう遅いだろ。何猫を……、犬か。被ってんだよ」

「放っておけ。とにかくこれで準備は整った。数刻の休息を設けた後、出発するとしよう。あとその他のそなたらにもここにある兵器をくれてやる。各自好きに取るといい」


オーフェクトの言葉通り、何はともあれ出発のための準備はこれで完了した。そして皆が各々部屋の中の武器を物色する中で、誰かとの会話を終えたらしいセイバが戻ってきた。しかしその表情は、どこか険しかった。


「遅かったな。そなたも行くのだろう。すぐに休息を……」

「……すまねえ、皆。俺は行けない」


そのセイバの一言は、あのオーフェクトでさえ表情を変えた。そしてもちろん、この場にいる皆も同じだ。


「……は?」


その中で唯一発されたクイックの言葉は、小さく絞り出されたような掠れた声だった。

第百六話、完了です。準備を終えたものの、今度はセイバの不参加表明。一体セイバは誰と何を話したのか。その模様は次回に明かしたいと思います。では、また次回。

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