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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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105.マスターピース・ブレインズ【地底王国の守護者】

都市開発は順調に進み、広大な地下空間はもう1つのメトロエヌマと呼べるほどに発展していった。居住区が完成したころから市民たちが移り住んでいき、それに伴って開発に携わる労働者も増えていった。しかしこの発展とは裏腹に、都市開発の総責任者であるマインズは思い悩んでいた。

 何か続けて言おうとするオーフェクトを制止し、クルールが咳払いをする。


『ここからは僕が説明をさせていただきます。オーフェクト様では、色々と支障がありますので。我々は待ち望んでいました。地上の貴方たちが、いつか来るこの日を。ようやくこのリジェクトパレスも動き出すことが出来ます。特にそう、貴女を待っていたのです。クイック』

「アタシをか?」


突如として名指しされ、不思議がりながらも確認をするクイック。それにクルールは頷いて返す。


『ええ、いかにも。タンムズガーデンハイウェイでのウリディンム討伐。貴女のその一件にて、単独でのAI撃破を成し遂げました。相違ありませんね?』

「ああ。そこも見てたのか?」

『僕はこのメトロエヌマ、更にはビルガメス全域の警備システムに干渉できます。だからこそ貴女の活躍は全て見てきました』


クルールが指を鳴らす動作をすると同時に、無数の画像が表示される。ハイウェイを疾走する巨大な猟犬型の機械と並走するクイックの姿。機械の猟犬に破核棒を突き立てるクイックの姿、更には大破した機械の猟犬の上で破核棒を掲げるクイックの姿など、そこには地上での戦いの様子が映し出されていた。


「……報告以上の戦いぶりだな」

「クイック……! 貴女はなんという……!」


皆がそれらに目を奪われる中で、しかし当の本人であるクイックはそれらには目もくれず、小さく映し出されたある1つの画像を見ていた。そこには七岐の砲身を持つ蛇のような機械が映っている。


「……アレも見たのか?」

『貴女が倒し損ねたAIのことですね? 把握しています。その正体もわかっていますよ』


クイックがそれ以上何かを言わずとも、クルールが1つの画像を拡大して表示する。それによってクイックのみが見ていたそれが、皆の目に映った。


『彼の名は【ムシュマヘ】。守護の使命すら忘れたAIです。かつてはイルカルラアンダーグラウンドの管理者でしたが、今やそれを想起させるものは何も残っていません』

「こいつは今どこにいる! アタシはこいつを……、死んでいった奴らの仇を……!」

「待つがよい、フラッグの猟犬よ。今のそなたが行ってもその死んでいった奴らの1人になるだけだ。それにムシュマヘのいる場所もわからんだろう」


声を荒らげ落ち着きを失っているクイックに、オーフェクトが冷徹に言葉をぶつける。だがそれは彼女の激情を加速させるだけだ。


「だからその場所を教えろってんだよ! 奴は何処だ!」

「だから今のそなたでは勝てんと言っているだろう。わからんやつだな」

『落ち着いてください。何も貴女自身を否定しているわけではありません。むしろ我々は貴女を、貴方たちを手助けしたいのです』


更に言葉をぶつけ、また更に燃え上がるクイック。双方を見かねたクルールが割って入ったことで、このループは一旦止まるのであった。


「クイックを……、っていうか、俺たちを?」


落ち着きを取り戻している途中のクイック、元より会話に入る気のないフラッグ、そもそも会話に入る余地すらないリトス達の代わりに、セイバが唯一その言葉に反応を見せた。それにオーフェクトはこれといった返事もなく、突っ切るように出口へ向かう。


「着いてくるがよい。用があるのはクイックだけだが、他の者にも何かしらくれてやろう」

『僕は更なる情報解析がありますのでしばらく通信を遮断させてもらいます。後ほどまた、お会いしましょう』


こうしてクルールの姿を映したプロジェクターは何も映さなくなり、オーフェクトは誰を待つこともなく部屋から出るのだった。


 リジェクトパレスにやって来た時と同じ道を進むリトス達。だがその時と違い先導するのはオーフェクトである。そして彼がどのような人間かを先程知ったリトス達は当然、そのことについて話していた。


「ねえ、やっぱりこのオーフェクトって……」

「そうですね……。傲岸不遜そのものっていう感じです」

「俺も長年生きてはいるが、あそこまで突き抜けた奴は見たこともないな……」

「何か言ったか? まあいい。気に留めるまでもない」


彼ら3人にしか聞こえない、小さな声での会話。だがオーフェクトは何かを感じ取ったのだろう。振り返らずにそう呟いた。


「これは気にしているな」

「言われても仕方のないことをしているのだ。ざまあないな」


そしてリトス達の会話は完全に聞こえていないながらもオーフェクトの様子を見たフラッグは、彼を小ばかにするように鼻で笑うのであった。流石にオーフェクトもそのことには気付いていないようで、取り出した端末を操作している。


「……クサリク。ウリディンムを呼べるか?」


端末を操作してクサリクを呼び出したオーフェクトは、どういうわけかここにいないウリディンムの名を出す。それにクサリクはしばらく間を空けて返答を出す。


『まあ呼べるけど……。急にどうかしたの?』

「用があるのだ。さっさと出すがいい」

『……ちょっと待ってて』


そう言って端末の画面が暗くなる。それから数秒後、戻ってきたクサリクは首を横に振った。


『ダメ。拒否されたよ。すごく嫌がってる』

「そうか。では我輩が行く」


この結果すら予想していたのだろう。オーフェクトは端末にカセットのようなものを挿し込み、当然のように妙なことを言い出したのだ。これには後ろの方で聞いていたリトス達も顔を見合わせている。


「……行くって言ったってさ」

「どうやって行くつもりなんでしょう? 直接出向くとか?」

「相手は生物ですらないんだぞ。何を言っているんだ彼は」


3人は変人を見たかのように話している。だがクサリクは、それが何か良くないことであるかのように慌て始めた。


『いや、それはちょっとやめてほしいかなって……』

「黙れ。では邪魔するぞ』

『あっ、ちょっと!勝手に入ってこないで!』


クサリクの言葉を一蹴したオーフェクト。次の瞬間、彼の姿が一瞬にして消え端末が床に落ちる。画面に映るクサリクはどこか諦めたような表情でため息をついており、端末からは小さく言い争うような声が聞こえていた。


『ひ、ひぃ……! 引っ張らないでください……!』

『嫌なら大人しく出てくるがいい。喜べ。反逆を償う機会をくれてやる』


何かが走る音、何かがぶつかるような音が何度か響いた後、途端にそれらは止み静かになる。そしてその代わりに聞こえるのは何かを引きずるような音だった。オーフェクトの姿が消えたことも含め、リトス達は驚きのあまり歩みを止めていた。


『ではこの中にでも入っていろ』

『何ですかここ……。狭い……』

『我慢しろ。では我輩は戻るとする」


何かを押し込むような音と、苦しそうな少女の声。その後に聞こえたオーフェクトの声が映像越しのものから鮮明なものに変わったその瞬間、まるで地下階段から上がってくるかのようにオーフェクトが端末から現れた。


「手こずらせおって。では向かうぞ」


オーフェクトは特に疲れた様子もなく端末を拾い上げるとカセットを抜いてポケットにしまう。そして再び歩き始めた。当然、リトス達はこの状況をすんなりとは飲み込めない。


「……今、何が起きたの?」

「AIに直接干渉した……? これは能力、なのか……?」

「そうだ。これは俺の能力、『インストダクションの産信』。物質をデータに変換することができ、その逆も可能だ。現実に肉体を持たずデータで構成されたアバターを持つこやつらには、こうすることでしか干渉できない。他には……」


そう言って彼は手にした端末を操作した後で、鞄を探るように画面に手を突っ込む。何が起こるのかと見守るリトス達の前で、オーフェクトは画面からリンゴを取り出して見せたのだ。


「こうして、こうすることも可能だ。このように現実に実体を持つものであれば双方向の変換が可能になる。ほらくれてやる」


取り出されたそのリンゴは不自然なまでに整った形をしており、色彩も均一であった。彼はそれをアウラに投げ渡す。


「それでわざわざウリディンムを引っ張り出してきた理由は何だ? サポートとしての役割ならクサリクとクルールだけで充分だと思うんだが」

「その答えはすぐそこだ。焦るな」


ここまで、そう短くない時間足を進めてきた。彼らがオーフェクトの先導に従うままにやって来たのは、所狭しと様々なものが並んでいる部屋だった。更に中央には機材が置かれている台がある。


「……ここは、武器庫か?」

「正確には開発室だ。目当てのものは……、これだ。ほら」


オーフェクトは中央の台に機材と共に置かれていた楕円形の機械を手に取り、クイックへと投げ渡した。それを掴んだクイックは重みを逃すかのように体勢を落とす。


「何だこりゃ。やけに重いな」

「それはそうだ。常人では片手で持つことも叶わん」

「で、これは何なんだ?」


手にした機械を眺めるクイックは、それが何かをオーフェクトに尋ねる。その機械には何かを挿し込むような穴があった。


「これはいわば携帯型の『強化外装』だ。だがまだ完全ではない。サポート用のAIを搭載していないからだ。そこで、このウリディンムを使う」


そう言うとオーフェクトはポケットから先程のカセットを取り出した。


「ウリディンムを? こいつがサポートAIなんてタマかよ」


彼女が疑うのも無理はない。クイックの抱くウリディンムへの印象は『単なる強敵』である。元よりビルガメスという国、特にこのメトロエヌマに生きる者たちは生活にAIが密接に関わっていることを当然のこととして認識し、時に意識から外しもする。だからこそそれらを逆にイメージしがたいのだ。


「まあその気持ちもわからんでもない。我輩たちはAI共のありがたみを感じづらいからな」


オーフェクトはクイックの言うことをある程度肯定しつつも、違うのだというそぶりを見せる。


「それがそうとも言えないのだ。その答えはこの強化外装そのものにある。何を隠そうこれは、ウリディンムの機体データを元に作成したものだ。故に相性、向き不向きで言えば、絶対的に向いていると言える。何せ専用に造られた機体なのだからな」


得意げに解説するオーフェクトはそのカセットをクイックに差し出す。その解説を聞いてなお、クイックは納得がいっていないような表情をしていた。

第百五話、完了です。最後の戦いへの準備を整える中で、明かせる話を明かしていこうという回になっています。もう少し続けて行くつもりですのでお付き合い願います。では、また次回。

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