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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
116/151

100.流星、刹那、祝勝会

オブリヴィジョン人物録vol.13


フラッグ

性別:男

出身:不明

年齢:不明

肩書:メトロエヌマ市長、ビルガメス主導者

能力:ヘイヴンズゲートの開門(かいもん)(異空間への扉を開く。その異空間はフラッグの意志によって何処へでも繋がり、避難や長距離移動に貯蔵などあらゆることができる。ただし望んだ場所に扉を開くには、開く先の場所のことを完璧に熟知している必要がある)

好き:仲間たち、ビルガメス

嫌い:仲間の欠落


技術大国ビルガメスのトップにして、首都メトロエヌマの市長でもある男。ビルガメスの始まりから今に至るまでの長きを生きている長命者であり、それ故に誰よりも長くビルガメスを見てきている。そのため誰よりもビルガメスのことを熟知しており、ビルガメス内であれば能力を駆使して何処へでも移動できる。ただし他の国への移動はかなりおおまかになっており、これは細部に至るまでの完璧な把握が必要だからである。

「本当にいいのかな? 僕たちまで、こんな……」

「何を言っている小僧。本当にいいも何も、お前は主役のようなものじゃないか。もっと誇れ。堂々としろ」

「そうですよリトス。それになんだかさっきからいい匂いが……!」

「おいアウラ。顔、すごいことになってんぞ」


浮足立ちながらもどこか戸惑いを隠せないリトスに、にやけを抑えられていないアウラ。そしてそんな2人を見守るように傍らに立つセイバとクイック。このような状況になったのには理由があった。


 エンリルラボ、シャラファクトリーでの戦いから数日経ったこの日。フラッグは執務室にセイバとクイックを呼び出していた。


「突然だが諸君。祝勝会を開くぞ」

「……急だな」


いきなり呼び出されて開口一番これである。百戦錬磨の2人も、これをすんなりとは飲み込めなかった。


「俺のリアクター攻略の時はやらなかったのにか?」

「アタシのハイウェイ戦の時もやらなかったじゃねえか!」

「まあ落ち着け。理由はある。『ファクトリー』に『ラボ』。それに『リアクター』と『ハイウェイ』、正確には『ガーデン』だな。それらの攻略を以て、このメトロエヌマ奪還に区切りがついた。そろそろ、こういった場も必要だと判断したまでだ」


2人は口々に文句を言っていたが、フラッグはそれを収めて理由を語る。セイバはすぐに納得した様子だったが、クイックはどこか腑に落ちない様子だった。


「……本当にいいのかよ。こんな状況で、まだ帰って来てない市民も大勢いるってのに」

「俺は賛成だ。今いない奴らのことは、いる時に考えればいい。それよりも大事なのは今いる奴だ。そいつらの士気を高めて維持してやるのが今は大切なんだ」

「セイバの言う通りだ。戦いが続いているこの現状で、戦闘員非戦闘員共に疲弊しているのが実情だ。確かにこのまま続けて行くのも不可能ではない。着いてこれる者はどこまでも着いてくるだろう。しかし大半はそうではない。この終わりの見えない戦いに心身ともに疲弊してしまう。だからこそ今、どんな形であれ彼らへの労いが必要であると考えた。ここにいない者たちを蔑ろにするというわけでは決してない。それだけは、わかってほしい」


フラッグが言い終わるその瞬間、クイックは黙って部屋を出ていく。


「待てよ、クイック」


セイバの言葉でクイックは出口付近で歩みを止めた。


「……いつになる?」

「ん?」

「祝勝会はいつになる? せっかくやるんだ。半端なのは承知しねえからな!」


振り返らずに言うと、彼女はそのまま歩み去って行った。


「任せろよ。今できる最大限を考えてやるからな! 調理スタッフ! 俺の『食糧庫』にある食材のリストを全部送る! 好きなようにレシピを考え盛大に作ってくれ! レーション作りは一旦止めだ!」


笑みをこぼして、フラッグは懐から端末を取り出して何処かへ指示を飛ばしながら部屋を出ていく。そして部屋を出る直前彼は立ち止まった。


「当然だがリトスとアウラも呼んでやれよ! 彼らがいなければこの状況もなかったんだ!」


それだけを言って彼は指示を続けながら歩み去って行った。


「そりゃそうだろ! そっちが拒否しても呼ぶつもりだ!」


そう言うと、セイバもフラッグに遅れる形で出ていくのだった。


 そんな訳で次の日、祝勝会は滞りなく開催されていた。会場には戦いに出向いていた戦士たちだけではなく、イナンナタワーに避難していた市民たちも参加しており、まさに大盛況であった。


「こ、これは……! 噂に聞く、『エアレーのステーキ』……!」

「何をそんなに驚いてるんだ? エアレーって言ったらステーキだろ。簡単に切れる柔らかさに圧倒的な食べ応えと満足感。噛むほどに溢れる味の圧も半端じゃない。焼いただけで単純だけど、これがやっぱり『答え』なんだよなぁ……!」


アウラは目の前にある未知なる美食に興味津々であり。


「たまらねえなあ……! たまにしか食えない分、滅茶苦茶に美味く感じるぜ……!」


一方のクイックは躊躇なく肉の塊を切り分けかぶりつき、感情豊かに堪能する。


「どうした。手が止まっているじゃないか」

「僕小食なんだよね……」

「情けないぞ! あれほど強い者がこのざまとは何事だ! さあどんどん食うがいい!」


セイバの部下である兵たちがリトスの下に集まる。先の戦いでの活躍を見て、彼らもすっかりリトスのことを認めたようだ。当の本人は未だ困惑を表に出したままであった。そんな彼に新たに近づいたのはセイバだ。


「小僧、遠慮してるだろ」

「え?」

「わかるわかる。俺もビルガメス(ここ)出身だが、一応はルオーダの者。外部の人間だからな。外部の人間の自分がいいのかって、思うのも無理はないぜ。そんなことこれまでにも何回かあった」


うんうんと頷きながら、セイバは手にしていたグラスを傾ける。入っていた赤紫色の液体が彼の喉へと半分ほど流れたところで、彼はグラスを置いて口を開く。


「なら祝いの理由を変えるのがいい。お前はこれまで色々やって来たんだろう? 詳細はわからんが、それなりの修羅場を何度かくぐってきたのはわかる。それらを乗り越え、更に今回の戦いまで勝利を収めたんだ。その辺か。でもこいつらで充分なんじゃないか?」


リトスの脳裏に浮かびあがるこれまでのこと。ペリュトナイでの戦いに、アトラポリスでの不可思議な出会いと別れ。そしてラボでの先の戦い。それらは短い時の中で半月に満たない中でのことであったが、その短い間であったからこそ、それら1つに対して何かをしていたことが無かった。そしてそれについて、リトスには祝うというような発想は無かったのだ。


「我がビルガメスの仲間たちよ! ……多くは語らない。ただこの瞬間、この夜を楽しむといい! 今宵は宴だ! さあ、杯を掲げろ!!」


だがそんなリトスの思考はすぐに奥へとしまい込まれる。彼自身この空気にあてられて、細かいことなどどうでもよくなったのだろう。フラッグのその言葉により、祝勝会は更なる盛り上がりを見せるのだった。


「なんて重厚感! なんて存在感! エアレーにこんな可能性があるだなんて!」

「いいねアウラ! アタシももっと食いたくなってきたぜ!」


ある者は大いに食し。


「アンタ医者だろ? その飲み方はどうなんだ」

「固いことを言うな。それに君だって病み上がりの身じゃないか」


ある者は大いに酌み交わし。


「そういえばシグナルはどうした?」

「そういえば姿を見てないね。……まあ彼のことだし、こういう雰囲気が苦手だから部屋に籠ってるんじゃない?」

「ふーん。まあいいや! 自分たちはこの場を楽しもう!」


またある者は大いに語らう。この宴は今夜限りのもの。日が昇れば、彼らはまた戦いに身を投じることになる。だがこの夜、この時間では、彼らはそれを忘れて楽しむのだ。それこそが戦を超えた者が手にする勝利の美酒。そしてそれは真なる勝利を手にした時、更に大きなものとなって再び現れるのだ。


 さて、宴から少し離れた場所でのこと。昼夜問わず薄暗いこの部屋では、シグナルが1人スクリーンに向かっていた。最もこの孤独は、フラッグがすぐに入ってきたことでそうではなくなるのだが。


「ようシグナル。また相変わらずのパーティー嫌いか? ほら、これでも食えよ」

「放っておいてくれよ。俺は昔からああいう雰囲気が合わないだけだ。……デスク作業中にステーキってどうなんだよ。食うけども」

「結局食うのかよ」


疲れ切った様子のシグナルだったが、目の前に置かれたステーキの皿を目にして無言で何処かからかナイフとフォークを取り出していた。


「まあちょうどいいのかもな。例のデータの解析が済んだところだ。会場に行くのは遠慮させてもらうが、何か口に入れておきたいと思っていたところなんだ。ついでに聞くけど、酒あるか?」

「遂にか!」


何のこともないようにシグナルが放った言葉は、フラッグが兼ねてより調査を依頼していたことの結果であった。


「酒ならある。ただし報告が全部終わってからだ」

「じゃあ前置きは抜きにして結論からだ。まずデータの発信元は地下だ」

「地下……、ということは、『イルカルラアンダーグラウンド』か?」

「そうだ。あの何があるかわからん場所に、いよいよ行く時が来たんだ」


酒欲しさに簡潔に結論を述べるシグナル。その答えはフラッグにとって、何処かで想像していたものであった。


「あそこはルオーダの調査隊を送り込んで以降、クサリクでも侵入不可になっていたからな。どんな意図を持っていようと、只者でない何かがいるのは間違いない。……心当たり、あるだろ?」

「……誰であろうと関係ない。それにメトロエヌマの完全奪還にはいかなければいけない場所なのは確かだ。……市民のほとんどがそこにいる。アンダーグラウンドを抑えなければメトロエヌマは停滞したままだ」


目的の答えを聞き終わったフラッグは何処かからか青紫色の液体が入ったボトルを取り出しており、それをシグナルの前に置いた。


「ほら酒だ。アルカドラ近郊の村で採れるアオブドウを使った高級品だ。肉に合うぞ」

「おいおい解析の報酬としちゃ豪華すぎないか? これは完全奪還したら、一体何を出すつもりだ?」


冗談めかして言うシグナルに、フラッグはいたく真面目な顔をして考え込んだようなそぶりを見せる。


「その時にはアマツ国産の幻の酒を出そう。その時は、皆も一緒にな」

「最後のが余計に思えるが、それはいいな。こっちも気合を入れて仕事に臨むとしよう」


そう言ってシグナルはステーキに手を付け始め、フラッグは部屋から出ていく。しかしこの時は誰も予想していなかった。この先の戦いで、あのような悲劇が起こることなど。

第百話、完了&到達です。ついにこの大台にやってまいりました。SSなどを含めればとっくに突破していましたが、本編ではやっとの到達になります。ここでビルガメス編も一区切りがつき、次回からは新たな叩き上が幕を開けます。百話を超えても変わらずに、どうかオブリヴィジョンをよろしくお願いいたします。それでは、また次回。

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