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オブリヴィジョン〜意志の旅路と彼方の記憶  作者: 縁迎寺
ビルガメス編・再翔の星
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99.オープン・ザ・ゲート

シャラファクトリーはメトロエヌマでも屈指の危険地帯となった。その支配者として君臨するラフムは、人間になることを口にしながら人間を憎んでいた。だがそれは、端末と化していたラフムの発するラハムの意思であり、自身を忘れ去った人間たちへの届かない声であったのだ。

無限とも言える物量で押し寄せるラフムたち。2人はそれに対峙している。


「遅い、ですね」

「ああ……。それに見たところ、さっきの奴よりは強くもない……」

「どうしてそう言えるんです?」

「……こういう大量にいるやつってのは、弱いって相場が決まってるもんなんだよ」


膝を付いて力のない様子のクイックが軽口を叩く。だがそれなどお構いなしにラフムたちは、強烈な威圧感を放ちながら行進を続ける。


「……でもこれは絶対まずいですよね?」

「……遅いのが救いだな。でもこれは時間の問題だろうな」


軽口を叩いている余裕も無くなって来たのか、クイックの顔は真剣そのものだ。同時に、破核棒を握る手に力が入っている。


「……アウラ。お前に頼みたいことがある。今からこの破核棒を、後ろのアレに向かって投げる。……もう残弾もない、アタシの素の力だけで投げるしかない。……多分、いや絶対届かない。だからお前が『加速』をかけてくれ!」


その提案は、はっきり言って無茶苦茶そのものだった。アウラもそれがわかっているのか、何も言えずにうつむいているだけだ。


「その剣は何のためにある! お前は何のためにここに来た! 確かにさっきまでは碌に活躍できなかったかもな! でもそれはまだ出番が来てなかっただけだ! 今がその時だ!」


そんな彼女にクイックは叫ぶ。だが叫び終わった後、彼女は激しく咳き込んだ。もうその身体は限界が近いのだ。


「悪いけどアタシはこれが限界だ……! もうお前しかいないんだ! だから……、頼む。お前がこのファクトリーを、AIの支配から解き放ってくれ!」


ふらつく身体をなんとか安定させながらクイックは立ち上がる。異様なほどに汗を浮かべながら叫ぶ彼女の姿に、うつむいていたアウラは拳を握る。


「……はい! やります!」


少しの間を置き、彼女は顔を上げる。その直後、彼女の髪が風に揺れた。


 剣を抜き、刺突を構える。私のすべきこと、私にできることは見えた。気付かされた。もっとも投げられた武器を後ろから突いて加速させるなどやったこともない。だからできるかどうかも、実のところわからない。だが髪を揺らし背を撫でるこの風が、私に確信をもたらしている。すなわち『必ずできる』という底知れない自信と強固な確信を。どうしてこの屋内で風が吹いているのかなど、最早気に留めることではない。この風は私の背を押す追い風にして、一歩を踏み出させ無限の飛翔を可能とする翼だ。今は、これからはそれだけでいい。


「行くぞ……! お、らァッ!!」


クイックが破核棒を投擲し、その勢いのまま前に倒れた。恐らく意識も失ったのだろう。ここで私が失敗すれば、彼女が知覚しないうちにすべて終わりだ。私は真っすぐ飛ぶ破核棒を追い、前進した。この一撃、破核棒が特定の位置に至るまでに決めなければラフムの軍勢に私が突入してしまうだろう。そうなればどうなるかなど想像するまでもない。では早い段階で決めるのはどうか。これもダメだ。早くやりすぎれば、勢いが足りずに後ろのラハムまで届かないだろう。だからこそ、決めるべきタイミングは『一瞬』だ。雷を迸らせる破核棒を追いながら、その時を待つ。


“そこだ。見逃すな”


何かが聞こえた気がした。だがそれを信じることに抵抗は無い。身体も勝手に動き、破核棒の石突に切っ先が吸い込まれるように向かっていく。湧き上がる、闘志のようなもの。これは私だけではない、私とクイックのいわば『合体技』だ。そう。これに名を付けるのなら……。


「『一陣雷(いちじんらい)機鋼風星(ツジステラ)』!!」


一陣の風。それを彩る鋼の迅雷。それはまるで流星のように高速で飛び、ラハムの下部へと突き刺さる。それと同時に、破核棒が激しい放電と共に砕け散った。


 激しい放電がラハムを襲うのと同時に、突如ラフムたちの動きが一斉に止まる。


『コアシステムに異常発生。コアシステムに異常発生。緊急修復システム実行不能。不明な命令元からのオーダーを承認。全ゲートをロック。これよりアプスタイドの生産に全システムを注力。これにより疑似人格ラハム、およびラフムユニット全機を停止。過剰生産による機体の損傷、大破を予測。以下、疑似人格ラハムの最終通告。これで終わったと思うな人間。私は止まらない私は終わらない終わるのはお前たち終わら終わら終わら終わら終わら終わら終わ終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終』


狂ったように言葉にならない言葉を出力しながら、ラハムの音声が途切れる。それと同時にラフムたちは力なく倒れていった。だが次に起こることは、単純ながらも圧倒的な脅威として2人を襲う。


「これは……! せめてクイックだけでも!」


ラハムのハッチから溢れるように出てくる灰色の洪水。アレに飲まれると何が起こるかなど、最早火を見るよりも明らかだ。そんな中でアウラはクイックを引きずるように連れ、出口を目指していた。だが出口に着いた瞬間、彼女は膝から崩れ落ちる。


「扉、閉まって……。せっかく、せっかく上手く行ったのに……。ここで、終わり……?」


ここに来て彼女は先程のラハムの声を思い出す。それと同時に、彼女はここから逃れる手立てなど無いということを悟ってしまったのだ。灰色の洪水は、既に彼女たちのすぐそばまで迫っていた。


「リトス……。私はここまでです。願うなら、貴方と旅を共にしたかった。……カルコスさん。貴方の意志を届けることは叶いませんでした。……本当に、私は……」


アウラの目は虚ろだ。最早流す涙すら残っていないのだろう。その声は掠れるようで、もし先ほどまでの風がまだ吹いていたのなら、それにかき消されてしまいそうなほどの小ささだった。そんな彼女の背後で、渦のような穴が空中に開く。最も彼女はそれに気付いていない。


「何湿っぽいことを言っている! 自分で自分の士気を下げてどうするんだ!」


だがその穴から聞こえた声によってアウラの意識はそちらに向かう。そして声より少し遅れて、その主が穴から這い出てきた。


「フ、フラッグさん!? どうして、貴方がここに!?」

「説明は後だ! 2人とも、生きているな!?」


突如現れたフラッグに驚きつつも、アウラはクイックの手首に手を当てる。


「……はい! クイックも無事です!」

「……無事かどうかは置いておいて、生きてはいるようだな。よし。急いで脱出するぞ! この『ゲート』に入ってこい!」


手を伸ばすフラッグが意識のないクイックを引き上げる。それに続きフラッグに引き上げられてアウラも『ゲート』へと入っていった。フラッグは2人を引き上げている間も、灰色の洪水に飲まれゆくラフムたちとラハムに視線を送っていた。


「……ファクトリーの終焉、か」

「どうかしましたか?」

「……いや、何でも。では急ぐとしよう! 閉じよ『ヘイヴンズゲート』!」


フラッグがそう叫ぶと同時に渦が縮小し、内側より見えていた景色が小さくなっていく。


「さらばだラハム。ファクトリーの旧き母よ」


フラッグは閉じていくゲートを最後まで見届け、誰にも聞こえないほど小さな声でそう呟いた。


『……』


そしてゲートも閉じ誰もいなくなったファクトリーの最深空間。アプスタイドがとめどなく暴れるそこはやがて灰色で満たされていき、完全な沈黙に包まれるのであった。

第九十九話、完了です。遂にラフム戦に終止符が打たれ、アウラとクイックも離脱。これにてビルガメスでの戦いはひと段落が着きました。次回は久しぶりの戦い無しの回です。では、また次回。

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